第22話 「決闘でもします?」

「はぁ〜、こりゃ別嬪さんだぁ。孫の嫁にならんか?」


「いえ…私は王国の人間ですし…」


「わー!あなた見た目より筋肉質ね!」


「いや、女同士だからって触り過ぎじゃない?」


「ねーちゃん、尻尾触っていいか!」


「良いわけないよ!それ痴漢だからね!子供だからって…あっ、だからって耳も触っちゃダメー!」


「…皆、仲良しになったなぁ」


 スラム街で無料治療院を開いた日の翌日から、炊き出しを行った。


 ストークの住民が反抗的なのは王国側にとっては悩みの種。食料には余裕があったので、それで問題が解消されるならと炊き出しを行う許可が出た。


 スラム街だけで無く、街全体での炊き出しを一日一回行い一ヶ月。

まだ王国軍に攻撃的な住民は居るものの、全体的には軟化。

ストークの住民との関係改善は概ね上手く行ったと言えると思う。


 御蔭でストークに駐留するストレスがかなり緩和出来たと思っていた矢先。

フラルダン子爵率いる王国軍が帝国軍に敗れストークに戻って来た。


「うわ…ボロボロじゃん。何があったの?」


「何でも、功を焦った部下がフラルダン子爵が止めるのも聞かず突撃。伏兵により挟撃され敗北。逃げ帰ったそうよ」


「あらぁ…じゃあその部下の人って…」


「普通に考えて重い処罰が下される…だろうけど大丈夫よ。そんな部下いないでしょうから」


「ん?それって?」


「フラルダン子爵は軍務系貴族だけど軍事的才は無い。でも功名心は高いから手柄を立てたくて前線に来た。戦況が優位になってから、ね。つまりは…」


「敗北の責任を戦死した部下に押し付けた?」


「そういう事ね」


 恥知らずな…貴族に相応しくない。

父上なら絶対にそんな真似はしない。


「…奴隷兵、かなり減ってるね」


「そうね…」


 アンティナ戦線に居た奴隷兵達はサンフォード辺境伯からタッカー侯爵軍に指揮権が移譲され、ストークの街近くの戦線に投入。

今はタッカー侯爵配下のフラルダン子爵軍に編入されていた。


「あ、あの子…無事だったか」


「んあ?どの子?」


「ああ、あの子ね。私達がグラウバーン辺境伯領で捕縛した盗賊の子供ね」


 まだ十歳かそこらの子供だが彼女も犯罪奴隷扱いで、奴隷兵として戦場に送られていた。


 犯罪者の子供は犯罪者。

ボクはそんな考えは持ってないが、盗品と解っていながら盗品で生きて来た者は盗賊と同じ、と犯罪者の烙印を押すのが王国の法。


 彼女は直接は盗賊行為をしていたわけではないが盗賊の父親に育てられ、盗品で生活していたのは事実だった。


 それでもまだ子供だからと戦場でもまだ安全な後方で補給物資の管理や医療班の手伝いなんかをさせられていた。今回も、それで助かったのだろう。


「くそっ…くそっ!お前らが無能の御蔭で!」


「きゃあ!」


「あっ!」


「…最低ね」


 あいつ…!指揮官と思しきあの男がフラルダン子爵か。

敗北して機嫌が悪いのは解かるが、奴隷の子供にあたるなんて…!


「…ご無事なようで何よりですね、フラルダン子爵様」


「ああ!?これが無事に…あ、あぁ…バーラント団長殿か」


「お疲れでしょう?一先ずお休みになられると良い」


「あ、あぁ…そうさせて頂く」


「ええ。治療が必要な者はこちらに。医療班の準備は出来てます」


 と、言っても。

ボクが魔法で治すだけなんだけど。


 魔法一発で全員治療完了だ。


「ほう…お見事ですな。話には聞いていましたが剣帝殿は魔法もお得意なのですな」


「…お褒め頂き、恐縮です」


 まだ居たのか。早く何処か行ってくれないかな。

どうもこの人は好きになれないんだよね。ボクやティータさんを悪寒が走る眼で見てくるし。


「部下を救って頂いた御礼をせねばなりませんな。どうですかな今夜。私の部屋で酒でも…」


「辞退します。失礼します」


「なっ…チッ。何見てる!サッサと解散せんか!」


 はぁ…性格は最悪。その上女好きか。

更に空気が読めないバカ。

どーして敗北して帰って来た所を出迎えられたのにナンパして上手く行くとか思えるんだろ?


 そうだ、それより…


「君、大丈夫?」


「あ、はい…ありがとうございます、騎士様」


「いや…君、アンティナ戦線にも居たよね。私の事はわかる?」


「はい…剣帝様ですよね。お父さん達を殺した白天騎士団の」


「う…そ、それは…」


「いいんです。お父さん達が悪い事してたのは知ってます。いつか報いを受ける事になるってお父さん達は言ってましたから…だからいいんです。私も、どうなったって…」


「……」


 眼に光が…力が無い。

未来に何の希望も抱いていないのか…何か力になってあげられないかな。

せめて彼女だけでも白天騎士団で引き取れないかな。

そうすればもう少し安全に…後でティータさんと相談しよう。


 そんな事を考えていた日の夜、事件が起きた。

フラルダン子爵が部下に言って街から女性を攫ってこさせたのだ。


「フラルダン子爵!これはどういう事です!その女性達をどうするおつもりか!」


「チッ、煩わしい。そんな事は決まっているだろう?わざわざ口にさせたいのかね?」


 話を聞いたバーラント団長がフラルダン子爵に詰め寄っている。

団長も女性としてフラルダン子爵の蛮行は赦せないのだろう。

ボクも不快でしかたがない。


「私達は長く戦場にいて心身共に疲弊している。これくらいの楽しみはあっていいだろう?まして此処は占領地だ。その住民を攫った所で何が問題なのかね?」


「占領地だと言っても彼女らは罪なき一般人です!そのような行為、断じて許されるモノではありません!王国貴族の恥です!」


「口が過ぎるぞバーラント団長!いくら白天騎士団の団長と言えども子爵たる私を侮辱するなど!君こそ不敬罪で引っ捕えてやろうか!」


 いや、無理だろう。何言ってんだ。


「(子爵を侮辱したら不敬罪になるの?)」


「(ならないわよ。平民が子爵を馬鹿にしたならともかく。団長も貴族なんだから。更に言えば七天騎士団の団長は在任中は伯爵位扱い。子爵より上の扱いよ?どう考えてもフラルダン子爵の言ってる事がおかしいわよ。不敬罪を正しく理解してないんじゃないかしら)」


 王国の法では王家や王家に連なる貴族家…公爵家等を侮辱した時などに適応される。

故に子爵を侮辱して罪に問われるなら侮辱罪になる筈。


「(実はフラルダン子爵は王家の血を引いてるとか?)」


「(可能性は無くは無いけど、それでも不敬罪が適応出来るのは公爵家以上からよ。子爵家じゃ無理)」


「はぁ…話になりません。この事はタッカー侯爵様にも王家にも報告させてもらいます。貴女達、女性達を送ってあげて」


「なっ、待て!勝手な真似は…ひっ!」


「勝手はどちらです?フラルダン子爵」


「ちょ、ちょっとアイシス!」


 しまった、つい。

怒りのあまり子爵に剣を突き付けてしまった。

まぁいい。言いたい事言ってやる。


「貴方はこの街に戻って来た時、街の雰囲気が変わったと思いませんでしたか?」


「な、何?」


「この街は元々帝国の街です。此処に駐留する私達は針のむしろでした。それを少しずつ改善して、ようやく騎士団と住民が打ち解けて来た。貴方の行為はそれを無にしかねない。それは王国にとって損失です。それがどういう事か…わかります?」


「ぐっ…」


「そしてこのストークに駐留してる王国軍の最高指揮官はバーラント団長です。つまり勝手な事をしてるのは間違い無くフラルダン子爵、貴方です。今回の件で間違い無く貴方は罰が与えられる。これ以上拙い事にならないように、大人しくしていた方がいいですよ」


「くっ、くそ!たかが騎士爵風情が!子爵たる私に説教か!」


「これは心外ですね。これ以上貴方の立場が悪くならないように親切心からの助言なのですが。それとも…決闘でもします?」


「うっ…」


 王国の法で決闘法というのがある。

貴族同士で何らかのイザコザが起きた場合の解決方として決闘を行い負けた方は勝った方の言い分を飲むと言う物。

決闘に挑むのは代理人でも可だが殺したとしても罪に問われない。

だが大体の貴族は決闘は避けたがるのが普通だ。


 フラルダン子爵もすっかり怯えて部屋に引き篭もった。

まぁ剣帝に勝てる手駒なんて彼には無いだろうしな。


「ふう…アイシス、あまり私の心臓をイジメないで頂戴」


「すみません、団長」


「でもよくやったわ。ありがとう。フラルダン子爵の事はきっちり裁いてもらうよう手配するわ」


「お願いします」


 さて…これで住民との間に亀裂が入らなければいいんだけど。

無理かなぁ…大丈夫かなぁ…

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