第19話 「一番厄介なのが知ってるじゃんか」
「確認ですが、あなたは魔封じの腕輪が無くても大した魔法は使えない。それは確かですか?」
「うん?言った通りだが?」
ジュンのメイドのノルン…最初はジュンを諦めさせるのが目的だったのにいつの間にか協力してジュンの下に行く事に。
「ですが、今のあなたはジュン様で、ジュン様のアビリティ『全魔法』が使えるのですよね?」
「アビリティが使えるのと、魔法が使えるかは別問題。ジュンの方も、私の『剣術LV10』を使えてはいても十全には使えてないと思うぞ」
「…魔法を使うにあたり必要な魔法陣の構築、知識。それらが一切無いのに『全魔法』のアビリティがあっても仕方ない、という事ですか…」
「そーゆーこと」
私はが使える魔法は詠唱が不要な無属性魔法の二つだけ。
多分、簡単な魔法なら一度見れば再現出来ると思うんだけど。
「…ジュン様と同じ魔法が使えれば簡単だったのですが。無い物ねだりをしても仕方ないですね。ではあなたが出来る事を教えてください」
「出来る事って言われてもな…漠然としすぎ。一般の騎士に出来る事は大体出来ると思うけど?」
「少しは魔法も使えるのですよね?」
「ジュンに教えてもらった二つの魔法だけな。マジックショットとマジックアーマーの二つだけだ」
「…この一年近く何をしてたんですか」
「ジュンに置き土産をしようと思って双剣の訓練だな。魔法の訓練は基礎訓練しかしてない。…言っておくけど魔法の習得訓練はやりたくても出来なかっただけだからな?」
「…今更ジュン様が初心者が使うような魔法の習得訓練をしていたらおかしい、という事ですか。しかし、隠れて訓練する事も出来たのでは?」
「無理。だってほぼ常時監視されてるんだもん。視線を感じながら眠るのに慣れるのがどれだけ苦労したか」
「セバスチャン様…徹底してますね」
ほんとに。最近ではそんな悩みも無くなったわけだけども。
「…念の為にお聞きしますが。あなたに隠密としての技術は?」
「無い」
「…ですよね。なら、私一人で計画した方が良さそうですね。今から準備に入ります。深夜に迎えに行きますから、寝ずに起きててくださいね。旅の荷物は最低限に。それでは」
「…わかった。で、あんたは何処行くの?」
「言ったでしょう?準備です。先ずは馬車を用意します」
「あ、いや…そうじゃなくて。部屋の出口はそっちの扉じゃなくて、あっち。そっちは寝室」
「…………ひ、久しぶりだから間違えただけです。では…あ、うっ!」
「………」
今度はコケたぞ?何も無い所で。このメイド…もしかしておすまししてるだけで実は駄メイド?
「………んんっ。いつの間にか靴のサイズが合わなくなっていたみたいですね。ついでに新調しておきましょう」
「ああ、そう?随分綺麗な…新しい靴に見えるけど?」
「………」
黙って出て行っちゃった。
今のドジっ子駄メイドがあの子の本当の姿なんだとしたら…どうしよう、計画の失敗は見えた気がする。
で、私は旅の用意、ね。
剣と旅装と御金だけでいいかな?
他に必要な物は途中の村や街で購入すればいいし。
迎えは深夜……深夜かぁ。
具体的に何時くらいか聞いておくべきだったな。
今夜はどうしよ。
で、深夜になったわけだけど…来ないな。
御蔭でつい何時も通りに楽しんでしまった。
メイド達は寝たし…仕方無い、此方から探しに行くか。
「っと、なんだ、今来たのか?」
「……」
部屋を出たら目の前にノルンが居た。
何かうつむいてブツブツ言ってる…よく聞こえないな。
「何て?」
「あ、あなたという人は…一体何してるんですか!」
「ちょっ、声大きい!」
「ジュ、ジュ、ジュン様の身体を使って…先輩達とあんな…何考えてるんです!」
「あ、もしかして見た?」
そっか、見ちゃったのね。
で、涙目で顔真っ赤にして…その顔の方が昼間の顔より年相応に可愛く見えるな。
しかし、だ。
「覗き見は趣味が悪いぞ?」
「覗きたくて覗いたわけじゃありません!ノックしても出て来ないし、寝てしまったのかと思い、寝室まで行ったんです!そしたら…」
「わかったから声!」
そっか、ノックしてたか…じゃあ、まぁ…許そう。
「そうか。じゃあ許そう」
「何であなたが上からなんですか…あぁ…まさかジュン様がこんな形で穢されるなんて…」
「穢されるて。大袈裟な」
「何が大袈裟なもんですか。大体あなた女でしょう。なのに何で女を抱いてるんです」
「そこらへんの事情は道すがら説明するからさ。取り敢えず出発しないか?それとも今日は中止にする?」
「…いいえ、決行します。荷物を持って来てください」
「了解」
それから移動した先は城の外でも街の入口でも無く、食料庫だ。
こんな場所で何を…?
「此処で何をするんだ?旅の食料を確保するのか?」
「違います。此処から外へ出ます」
「は?此処から?」
「察しが悪いですね。ありきたりな話だと思いますけど。こっちです」
ノルンが食料庫にある棚に向かい、その横にある樽の中に手を入れて何かしてる。
すると…?
「おおう?」
「隠し通路です。古く長い歴史のある貴族家の居城や屋敷には大概あるそうですよ」
大きな木の棚が左にずれて、棚の後ろに通路が。
少し進むと下に下りる階段がある。
「さぁ、行きますよ……」
「ん?どしたの」
「いえ…灯りを点けます。『光あれ ライト』」
ライト…光魔法の低位魔法。
周りを明るくするだけの照明用の魔法だ。
「あんた、魔法使えるんだ」
「これくらい誰でも…いえ、魔力を感じる事が出来た人なら簡単に習得出来ます。…行きますよ」
「ああ、うん…何で腕にしがみつく?」
「狭い通路ですから」
「いや…それほど狭くないし、歩き難いんだが?」
「…良いから、進みなさい」
「むぅ…」
小生意気な…腕にしがみつかれながらじゃ階段は下りにくいな。
それに、こいつ…なんか小刻みに震えてないか?
「はは〜ん…」
「な、何ですか」
「お前、さては暗いとこが怖いんだな?」
「ち、違います…何をバカな」
「じゃあ何で震えてる?」
「こ、これは…す、少し寒いだけです」
「ほんとーにぃ?」
「ぐっ…に、苦手なんです。こういう狭くて暗い、ジメっとした場所が」
「じゃあ何でこの通路を選んだ」
薄々感じてたけど…こいつ、結構ポンコツなんじゃ?
額のアホ毛がなんかシナっとしてる。
最初に短剣…いや小太刀だったか?
小太刀で脅して来た時はピンと伸びてたのに。
「他に道はありません。城の出入りからして難しいですし、街から出るには兵士をどうにかしなければなりませんから。此処からなら一気に街の外まで行けます」
「ふうん。この通路の存在を知ってるのは?」
「ガイン様とジュン様を除けば執事長のセバスチャン様だけです」
「一番厄介なのが知ってるじゃんか」
「大丈夫です。セバスチャン様を含め、遅効性の睡眠薬を食事に盛っておきました。朝まで眠り続ける筈です」
「…だといいけど。しかし長いね、この通路」
階段はとっくに終わり。
もうそこそこ長い距離を歩いた筈だけど。
「街の外にまで一気に出るんです。当然それなりの長さになります。それより、そろそろ話してください。どうして先輩達とあんな関係に?」
「あぁ…実はカクカクシカジカ」
ジュンの誕生日にあった出来事を包み隠さずに話した。
まぁ見られた以上、隠しても意味ないし。
「…ガイン様の命令ですか。そしてメリーアン先輩…なるほど、初回は避けようが無かったかもしれませんね。しかし、どうしてその後も関係を続けて……待ってください。今日の三人の中にメリーアン先輩は居ませんでしたよ?」
「ああ、うん。今日の三人は最初の三人とは違うね」
「ちょっと…あなたまさか…メイド全員に手を出したなんて言いませんよね?」
「まさか。未成年と人妻、恋人や婚約者がいる娘には手出ししてないよ」
「…未亡人には?」
「あ、頂きました」
「八割方手を出してるんじゃないですか!」
「ハッハッハッ。そんなオーバーな。せいぜい七割強かな。あ、勿論、男には手出ししてないぞ?少年含め」
「当たり前です!あぁぁぁ…もし子供が出来てたら…ジュン様は全く身に覚えの無いまま父親に…」
「ああ、その点は大丈夫。避妊用の魔法薬を飲んでるから」
媚薬を兼ねてるけど。まぁ、これは言うまい。
「…下手に味方を増やそうとしなくて正解でした。自分達が抱かれた相手がジュン様じゃないって知ったら先輩達も傷付くでしょうから。これで何が何でも秘密を守り通さなくてはならなくなりました」
「ありゃま意外。てっきりジュン以外はどうでもいいってタイプかと」
「あなたはノルンを冷血人間だとでも?」
「違うの?隠密なんてやってる人はそんなのばっかりってイメージなんだけど」
「…ノルンはグラウバーン家の人しか知りませんから否定はしません。でもこの城で働く人は皆、家族の居ないノルンにとって大事な存在です。そして何より、一番大事なのがジュン様です。ジュン様は全てに優先されます」
「ふうん…お、出口?」
どのくらい進んだのかはわからないけど、鉄製の重厚な扉が姿を見せた。
「此処から出るんだよな?」
「ええ。鍵はこちら側からなら開けられますから…ふん!ぐぬぬぬ!…ふんぬぅぅぅ!!!」
「……何やってる?」
「見て、わかり~ま、せんか!扉を開けようとしてるんですよ!サビついてるのか重すぎるのか全く動きません!あなたも手伝ってください!」
「いや…あのさ。その扉、押すでも引くでも無く、横にスライドするんじゃないかな?」
言いながら。扉を横に動かす。
確かに少し重いけど、今の私のステータスなら片手で簡単に動かせる。
「な?」
「…そ、そういう事もあるでしょうね。さ、行きましょう」
「恥ずかしがってる?」
「……フン!」
やっぱりドジっ子…ちょっと可愛く見えて来た。
そしてやはりアホ毛はシナっとしてる。
「…この階段を昇れば街の外、森の近くにある小屋の中に出ます」
「進んだ方角からして王都側だよな?」
「そうです。その小屋の中に馬車を用意しておきました。それで移動しましょう」
「りょーかい」
さてさて…此処までは順調…と言えなくもないと思うけど。
最後まで問題無くジュンのとこまで行けるかな?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます