第17話 「あなた…誰ですか」

戦争が始まってもう十ヶ月。

戦争が終わらないまま新年を迎え、冬が終わり春らしい陽気になってきた。


 戦争はアデルフォン王国の優勢で白天騎士団の皆は無事らしい。

特に私になってるジュンの活躍が目覚ましく、多大な功績を残しているとか。


 でも、それはつまり私の功績になる訳で。

まだ子供のジュンに人殺しをさせて自分は安全なとこでヌクヌクとして、その功績は総取り…辞退したい所だけど、それは多分周りが許さない。


 だからせめて、ジュンの身体で鍛えるだけ鍛えて。

私なりの置き土産をするつもりだ。

剣士に相応しい肉体を作り上げ、剣術LVを上げる。

それが私に出来る事。


 だから決して趣味じゃない。


「ジュン様、最近またいい身体になりましたね」


「ほんと。もう理想的な細マッチョね」


「ジュン様、細マッチョになるのはいいけどムキムキの筋肉バカにはならないでくださいね?」


 そう、筋肉をこれ以上増やしてムキムキのゴリゴリな男になるのを避けてるのは決して私の趣味が理由じゃない。


 まぁ…私にとって理想的なボディラインになってるのは間違いじゃないけども…


「それにしても…あれから毎晩メイド三人を相手に出来るなんて」


「ジュン様って性豪だったんですね」


「すっかり女の味を覚えちゃって~もう城内でお手付きになってないメイドっていないんじゃない?」


「…未成年と人妻、あと恋人がいる子には手出ししてないよ」


 性豪…これは否定出来ない。

私はもう女体の神秘にすっかり魅入られてしまった。

元に戻った時、レズに走ったりしないか不安だ。


 あとジュンが怒らないかも心配。

いや、多分怒るだろうな…隠し通せないし、この称号に気付けば戦場からすっとんで来そうだから、無駄かもしれないけど他人に見られないように非表示にしてる。

勿論、ジュンにとっては自分のステータスだから、見れる可能性は大だけど。


 私が得た称号は…性豪。


【性豪:毎日のように異性と複数回肉体交渉を行った者に贈られる称号。体力上昇。体力上昇プラス補正。ある称号を得ると追加効果有】


 うん…この称号の存在がバレたら…絶対怒るわ。

もしジュンが私の身体でこの称号を得てたら…うん、確実に激怒するわ。

ジュンを殺して私も死ぬと思う。


 でも、ごめんね、ジュン。

私は意思の弱い女…わかってはいても女体の魅力に勝てなかったの。


「何を考え込んでるんです?ジュン様」


「多分、誰かに対する言い訳を考えていたのよ」


「最近のジュン様は考えてる事が顔に出てますよね。以前はそうでもなかったけど、最近は単純になったというかおバカさんになったというか。あ、いい意味でですよ?」


「いい意味でバカってどんなんだ」


 このメイド達は…以前からこんな感じでジュンに接してるんだろうか?

ジュンを演じる上で使用人達への接し方は解らなかったから、極力、言葉少なめにして来たからよくわからない。


 …夜を除いて。


「そう言えば、もうすぐあの子達が帰って来ますね」


「あの子達?」


「ああ…もうすぐ卒業だものね」


「もう卒業式も終わってこっちに向ってる頃合いよ。そうね…明日か明後日には着くんじゃない?」


 卒業式…つまりグラウバーン家の使用人の子供達が初等学院を卒業して帰って来る、と。


「ノルンは先月十二歳になったばっかりだったっけ?」


「きっと更に美人になってるわね。戦争が始まって各地で襲撃事件があったから夏休みには帰って来れなかったけど…」


「愛しのノルンが帰って来たからって、私達を捨てないでくださいね?ジュン様」


「あ、うん………………うん!??」


 愛しの?愛しのノルンって言ったか今。

ノルンって名前は何度か聞いたけど…もしかして、もしかするのか!?


「ジュン様?どうしたんですか?」


「あ、いや…えっと…い、愛しの?」


「はい?愛しのノルンでしょ?」


「もしかして隠してるつもりだったんですか?あれで?」


「あんなに傍から見て相思相愛な二人ってそうは居ませんよ?大体、結婚の約束だってしてたじゃないですか」


「結!婚!」


「どうして今更そこで驚くんです?」


 ふふふ……そっか……そうなんだ……そりゃあそうかもね。

ジュンは大貴族の一人息子。既に婚約者の一人や二人居たって不思議じゃない。

だがしかし!私がジュンになってるのが運の尽きだったな、ノルンとやら!


「ククク…」


「ジュン様ってそんな悪い顔する人でしたっけ?」


「大丈夫よ。ジュン様なら悪い事考えてても子供のイタズラ程度の事しか考えてないから」


「それより、そろそろ寝ましょ。私、もう腰ガクガクだし…」


 そして二日後。

メイドの予想通り、二日後に三人の子供達が帰って来た。


「ジュン様、只今戻りました」


「本日から正式なメイドとして働かせて頂きます」


「…よろしくお願いします」


「あ、うん。頑張って」


 さて…どいつが恋泥棒だ?

私のジュンを奪おうって太い奴は…


「あの…な、何か?」


「いや、別に」


 この子は茶髪で眼鏡を掛けてソバカスのある女の子。

可愛い子ではあるけど、メイドが言ってたような美人って感じじゃあない。


「えっと…ジュン様?何故そんな険しい眼で…あたし、何かしましたでしょうか?」


「いいやぁ。気にしないで」


 このこは桃色の髪でツインテール。可愛いし、将来は美人になりそう。

でも、なんかぶりっ子っぽい印象。何となく違うと思う。


 と、すると…


「………」


「………」


 この子、か?

最初っから私を睨んで来る女の子。

髪はかなり長いコバルトブルーの髪を先の方でリボンで結んでる。十二歳にしては高い身長でスラリとした体躯。

でも出るとこは出てて…胸は…………デカい!

す、既に私よりデカいかも……そして子供とは思えない美貌。

間違いない、この子がノルン。


「どうしたの?ノルン。ずっとジュン様に会いたいって言ってたじゃない」


「ようやく会えたのに…てっきり人目も憚らず抱き着いてイチャイチャすると思ってたにょん」


「………」


 やっぱりこの子がノルン。なるほど、確かに美人だ。

フフフ……敵は強大であればあるほど、潰し甲斐があるというもの!

決して元に戻ったら勝てそうにないから今の内に潰すなんて考えはない!


 ところで、にょんって何だ?あざといにも程があるぞ?


「えっと、ノルン?」


「…はい」


「久しぶりの再会だし、二人きりで話をしない?」


「…畏まりました」


 ククク…どうやってジュンを諦めさせるか…ジュンの評判を貶めるような事はしたく無いし。

先ずは普通に婚約解消を持ち掛けるか。


「ノルン。実はボク……う!?」


「あなた…誰ですか」


 こ、この女…部屋に入った途端、いきなり背後から短剣を首に添えてきた。

薄っすら血が出てるんですけど!一体何なんだ、こいつ…

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