第15話 「第三皇女?」

「なるほど、相乗効果シナジーですか」


「ええ。恐らく間違いないかと」


 今、ボクとティータさんは宿舎の割り当てられた部屋でこれまでに解った事を話して今後の相談中だ。幸い、ボクとティータさんの二人部屋だったので落ち着いて相談できる。


 今までは戦場で常に誰か他の人が居たし、二人だけで落ち着いて相談する機会が無かったんだ。


「それで、その『ステータスリンク』ですか。解除は出来ないんですか?」


「はい。こういう任意で解除出来ないアビリティの場合の解除方法は…」


「発動条件と同じ。つまり…アイシスとキスをする、ですか…ハァ」


 つまり二人で会う必要があるわけだけど…


「難しいですよね」


「ですね…ジュンさんから会いに行くのは逃亡と判断されるでしょう。そうなれば犯罪者です。これまでの功績を考えれば恩赦が与えられる可能性もありますが…ニルヴァーナ家は爵位の剥奪は免れませんね。かといって…」


「アイシスさんの方から来るのも難しい。確実に周りに止められますから。セバスチャンの事だから護衛を兼ねた監視を付けてるでしょうし」


「…ジュンさんは確か転移魔法が使えるのですよね?サンメルドに居る今なら、短時間であれば誤魔化せると思いますが」


「無理です。転移魔法には条件があるんです」


「条件?」


 転移魔法は自分の魔力で印を刻んだ石、印石と呼ばれる物を置いた場所にのみ転移出来る。

印を刻むのは別に石じゃなくて、木や壁なんかでもいいのだけど…


「ボクが刻んだ印はアイシスさんの身体じゃ使えないんです。だから今、印を刻んだとしても元に戻ったら使えないでしょうね」


「そうですか…つまり現状では」


「打つ手無し…ですね」


「歯痒いですね…ですが手紙くらいなら出せるのでは?アイシスにも戦況やジュンさんが無事なのは噂として届いているでしょうけど、何の報せも無い事には気を揉んでいるでしょうから。あの子から手紙が届く事は…期待出来ませんからね」


「手紙…わかりました、そうします。ですがこの場合…ボクがボクに手紙を出す事になるんですよね?ややこしいなぁ…」


「ウフフ…そうですね。折角ですから、私も書きます。ダイナとレティにも書いてもらいましょう」


「はい。では、そろそろ寝ましょうか」


「はい、お休みなさい」


「お休みなさい」


 ふぅ…久しぶりにベッドで眠れる。

戦場じゃ寝てても警鐘で起こされるし、此処ならぐっすり……………zzz







       カンカンカンカンカンカン!!!


「!何?敵襲!?」


「ジュンさん、起きてください!」


 慌てて起きて窓の外を見れば…街に火が!

それに空に何かがいる。アレが火を放ったみたいだ。


「アレはワイバーンライダーです。ファーブルネス帝国最強の騎士団、飛竜騎士団。帝国の切札の一つですね」


「切札…それを使っての奇襲ですか」


「勿論、飛竜騎士団全てを投入してるわけではないでしょうね。ですが相当焦っている証拠ですね。セーチェ戦線での敗北が余程堪えたのでしょう。兎に角、武装しましょう。此処もいつ攻撃されるかわかりません」


「あ、それなら大丈夫です。取り合えずこの宿舎周辺を覆うようにマジックバリアを張りました。流石に街全体を覆う事は出来ませんけど」


「…さ、流石ですね」


 本当は街全体を覆う事も、可能なんだけど。

その場合、敵のワイバーンライダーも範囲内に入ってしまうので、現状では意味が無い。


 武装し、外へ出ると既にバーラント団長達が集まっていた。

対応を協議してるみたいだ。


「城はまだ無事ね」


「はい。魔法兵が障壁を張って攻撃を防いでいます。ですが城の周りの被害は甚大ですね」


「城は守っても街は守らない、か。仕方ないとはいえ……ううん、それより一刻も早く奴らを撃退しなくてはね。レティ、貴女の弓、奴らに届く?」


「高い建物の屋上からなら何とか…でも…」


「足場の建物をやられたら危険ね。私達も空を飛べたらいいのだけど…サンフォード辺境伯軍の魔法兵に飛べる者は居ないのかしら」


「団長も知ってるでしょ?飛行魔法はわりと高度な魔法です。領軍の魔法兵で使える者なんて居ても数人。紅天騎士団なら兎も角、ワイバーンライダーに対抗出来る戦力としては当てに出来ないですよ」


「それが解ってるから、切札の飛竜騎士団をこんな作戦に投入したんでしょう」


 こんな戦線から大分奥にある街への奇襲なんてしたら、その部隊の生還はほぼ絶望的。

そんな作戦に飛竜騎士団を投入するのはこちらに攻撃手段が乏しいと思ってるから。


「そうね。でも、だからこそ此処で撃退しないと…後々面倒な事になるわ」


「味を占めたらこちらが対抗手段を確立するまで同じ手段を取り続けるでしょうね。そしてそれは有効です」


「そうなると紅天騎士団に対抗するよう命令が出るでしょうね…そうなったらネーナが調子に乗ってしまう…それは避けたいわね」


 そんな理由?やる気になってるならいいか…いいのかな?


「…そんな事考えてる場合じゃないわね。兎に角、私達は一般人の避難誘導をするわよ。第一部隊は北区。第二部隊は南区。第三部隊は東区。第四部隊は西区よ。各自、部隊長の指揮の下、行動開始!」


「「「はい!」」」


 ボク達は北区、か。一般人を守るのは当然だけど、避難誘導だけじゃ街への被害は抑えられない。攻撃手段が無いならそうするしか無いけど…攻撃手段なら、ある。


「バーラント団長。ボ…私が敵を撃退します」


「え?貴女が?アイシスが飛行魔法を使えるのは見たけど…一人じゃ危険よ。許可出来ないわ」


「大丈夫です。余裕です」


「余裕って…」


「任せてください。じゃ!」


「あ、ちょっと!」


 こうしてる間にも被害は拡大してる。

街を焼いて調子に乗ってるのか攻撃がどんどん激しくなってる。


 飛んで来るボクに気付いた様子も無いし…遠慮なくやらせてもらう!


「ファイアボム!」


「ぐあああ!」


 着弾と同時に爆発、炎上する炎の球、ファイアボム。

ワイバーンごと焼いて地上に叩き落せば………下の民家が破壊されてしまう!


「って、ああ…良かった…」


 最初の一体は運よく広場に落ちてくれた。

街の上空で倒すのは得策じゃないな…敵の数は残り…十九か。ならば!


「ウィンドバースト!」


「なっ!」「なにご、と!?」「うああああ!!」


 街の外へ吹き飛ぶよう、爆風を起こす魔法で吹き飛ばした。

一度に全てを吹き飛ばす事は出来なかったけど、敵の指揮官が一ヵ所に集め始めた。


 実に好都合だ。


「な、何者だ、貴様!たった一人でこんな…アデルフォン王国の筆頭宮廷魔導士か!」


 …女の声?フルフェイスヘルムで顔は見えないが、確かに女の声だ。


「ボク…私はアイシス・ニルヴァーナ!これ以上の街への攻撃は許さない!」


「アイシス?剣帝か!よもや剣帝がこれほど高度な魔法を使うとは…しかし、剣帝ともあろう者が魔法で不意打ちとはな!剣帝の名が泣くぞ!」


「安全な上空から一般人を巻き込んでの奇襲なんてした奴らに言われたくない。それでも騎士か!」


「ぐっ…黙れ!全ては祖国の為…帝国全ての民を救う為だ!その為なら私の名が汚れる事など…何ほどの事か!わかったなら、そこをどけ!」


「断る!」


「ならば覚悟せよ!飛竜騎士団!剣帝を排除しろ!」


「「「ウオオオオオオオ!!!」」」


 あの女騎士が隊長か。

女騎士の号令で先ず半数…十騎が突撃してきた。

此処はもう街はずれ。下に落としても問題無い。

遠慮は要らないな。


「サンダーバレット!」


 雷の弾丸を打ち出す魔法、サンダーバレット。

一発でも受ければ電撃により身体が痺れて…あれ!?


「その程度の魔法であれば!」


「不意打ちでなければ効かん!」


 アレは…ミスリル製の武具か。

ご丁寧にワイバーンまでミスリルの防具を着てる。

ファイアボムやウィンドバーストみたいに身体全体を攻撃する魔法なら効果はあるけど、サンダーバレットじゃミスリルで防がれたら効果は薄いな。


「剣帝!覚悟ぉっ!」


「舐めないでもらいたいな!」


 今のボクは剣帝。

剣で戦っても、そうそう負ける事は無い!


「飛燕剣!」


「カッ!はっ…」


 剣術LV5で獲得出来るスキル「飛燕剣」。

斬撃を飛ばすスキルで、先ず一人を地面に落とした。


「おのれぇ!くらえ!破砕突き!」


「その程度!」


「がぁっ…ふっ…」


 槍術LV6で獲得出来る「破砕突き」。父上やティータさんの技に比べたら!


「くそっ!一斉に行くぞ!」


「囲め!」


「無駄だよ。今度はこちらから行く!」


「なっ、き、消え…ぐはっ!?」


「短距離転移だと!?バカな!がはぁ!」


 長距離の転移には印石が必要になる。

だが目視の範囲なら必要無い。周りを囲まれようが脱するのは容易い。

向って来た十騎は容易く仕留める事が出来た。


「バカな…貴様は本当に剣帝か?転移魔法を使えるなど…帝国では筆頭宮廷魔導士ぐらいしか使えない高等魔法だぞ!」


「どうでもいいだろう、そんな事」


 味方に説明しても理解されるかわかんないのに。敵に説明する意味は無い。


「そんな事より、まだやるのか?命が惜しくないなら掛かって来い。女性を殺したくはないから惨めに逃げ出すなら見逃してやる」


「な、なに…貴様ぁ!」


「た、隊長!落ち着いてください!」


「ここは一旦引くべきです!貴女はここで死んではならない方です!」


「ぐっ…く、くそ!覚えておけ剣帝!この屈辱は必ず晴らしてやる!」


「覚えておいて欲しいなら名を名乗ったらどうだ?こちらには名乗らせておいて、そちらは名乗っていないぞ?最低限の騎士の礼すら無いのか?」


「くっ…!確かに無礼であった。その点は侘びよう。私はアヴェリー・アーデルハイト・ファーブルネス!帝国の第三皇女である!この顔と名前をよく覚えておけ!」


「第三皇女?」


 兜をとって名乗りをあげた女性はまさかの第三皇女。

長い銀髪と凛々しい顔立ちの美しい女性。それ故に頬にある細い小さな傷跡がより目立つ美人だ。


 第三皇女…見逃したのはまずかったかな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る