第11話 「これって奇跡だよね」

 拝啓、父上。

もうすっかり夏ですが、如何お過ごしでしょうか?

ボクは今…


「左翼!押されてます!」


「ゾーイの第二部隊を掩護に回しなさい!右翼の状況は!?」


「持ち堪えて…いえ、徐々に押し返してます!」


「なら今の内に第一部隊は後退!ヘルガの第三部隊と代わるわ!」


 西方の最前線。戦場の真っ只中に居ます…


 王都に着いた日。

国王陛下による開戦の宣言、

ティータさんの言うように翌日には白天騎士団は西方に出陣。

到着して即、戦闘開始。

それから二ヵ月が経過していた。


 現在は西方の最前線でサンフォード辺境伯率いる軍とでファーブルネス帝国軍と戦闘中だ。


「アイシス!後退する前に大きいのお願い!敵中央にぶちこんでやりなさい!」


「…はい」


「(ジュンさん…気をしっかり持ってください)」


「(大丈夫です、ティータさん。もう慣れました。…多分)」


 ティータさんには王都に着いてすぐ。

ボクとアイシスさんが入れ替わっている事を説明。

時間は掛かったがステータスボードを見せる事で、何とか納得してもらえた。


 ティータさんの意見も交え、色々試行錯誤してみたものの入れ替わりが解ける事は無く。

後はアイシスさん…グラウバーンに居る筈のボクになってるアイシスさんに会いに行くしか無いという結論に至ったわけなのだが。


 戦争が始まり白天騎士団に出陣命令が出た以上、グラウバーン領に行くのは脱走になる。

脱走は重罪で…捕まれば良くて犯罪奴隷。悪ければ即死刑だ。

そうなるとボクが死ぬのかアイシスさんが死ぬのか判断は付かないけど…どちらもダメなのは違わない。


 事情を団長に説明しても…解ってもらえるかどうか。

解ってもらったとしても今、グラウバーン領に行かせてもらえるとは思えない。


 従って…現状では死なないように戦争に参加するしかなかった。

幸い、見た目がアイシスさんのボクが魔法を使えるのは隠れアビリティが発動したんだろうという事で納得してもらえた。


「ファイアーリバー!」


 広域殲滅魔法ファイアーリバー。

炎が河のように流れ行く火の攻撃魔法。

攻撃の後に残ったのは消し炭になった人間の死体と焼け焦げた武具。

そして焼けた匂い。


 …この匂いにもすっかり慣れてしまった。


「ひゅー。やっぱりアイシスの魔法はすっごーい」


「よくやったわ、アイシス。よし!第一部隊は後退!休息と負傷者の手当を!私が居ない間は第四部隊のルクレツィアが指揮を執りなさい!」


 白天騎士団は四つの部隊で編成されてる。

第一部隊の隊長はバーラント団長。第二部隊はゾーイ・ヨハンソン。

第三部隊はヘルガ・マクドール。第四部隊は副団長のルクレツィア・ビッテンフェルト。


 今の所、どの部隊からも戦死者は出ておらず。

重傷で済んでいた。重傷者が出ても…


「オールリカバー!」


「ああ…た、助かった…」


「また命を助けられちゃったわね、アイシス」


「ありがとう」


 ボクが回復魔法で治している。

生きてさえいれば治せるし、死んで間もない死体を治癒した後心臓マッサージを施して蘇生に成功した事もある。


 大勢の敵兵を殺し、味方は救う。

戦場では当たり前の行動だと思うけど、どちらもボクが一番なせいか新たな称号を獲得してしまった。


【殲滅者:大勢の敵を滅ぼした者に贈られる称号。多数の敵と対峙した時、物理攻撃力、魔法攻撃力上昇】


【戦場の女神:戦場で多くの命を救った者に贈られる称号。回復魔法の効果上昇】


 …まぁ、この際『殲滅者』の方は良い。獲得出来たのは納得だ。

でも『戦場の女神』はどうなんだろう?

確かに今のボクはアイシスさんになってるわけだから女性と見られてるのは間違いない。

でも中身は…精神は男なんだけど?

あくまで今のボクは女という事なんだろうか…


「お疲れ様、アイシス。さ、少しでも休息を取りましょう。食事もしなければ」


「あ、はい。ティータさん」


「(口調に気を付けてください。そこはアイシスなら『わかった』とか『腹減ったー』とか言う所ですよ)」


「あ…わかったー」


 ティータさんと相談した時、出来るだけ周りにバレないようにアイシスさんを真似るように振る舞う事になった。ティータさんのフォローもあってバレずに済んでるけど、中々難しい。

特に口調は直ぐに素が出てしまう。


「う~ん…お腹空いてても戦場で食べる御飯はイマイチだねぇ」


「戦場食なんてそんなもんでしょ。それにしてもアイシス。また魔法の威力上がったね」


「え…そ、そうかな?」


「またLV上がったんじゃない?」


「あんだけ敵兵を倒してたらねぇ。そしゃLVもガンガンあがるよね」


 この二ヵ月。最前線で戦い続けたボクは主に魔法で戦っている。

精神が入れ替わってもボクが覚えてた魔法とボクが持ってたアビリティは問題無く使えた。

それと『魔帝と成る者』の効果もあるようでLVが上がる度に魔法関連のステータスもグングン伸びた。


 因みに現在のステータスはこうだ。


-----------------------------------------


アイシス・ニルヴァーナ LV59 状態:接続 (ジュン)


性別:女


職(身分):騎士(白天騎士団所属 アデルフォン王国騎士爵令嬢) 賞罰:無


年齢:十五歳


称号:剣帝と成る者 殲滅者 戦場の女神


アビリティ:剣術LV9 体術LV3 全魔法LV3 アビリティリンク 


能力値:HP881 MP4289 


    物理攻撃力3112(350) 


    魔法攻撃力3087(50)


    物理防御力1442(200)


    魔法防御力2087(120)


    力445  魔力1801


    体力1105 器用さ1072


    知力988 精神力1011


    速さ1288 魅力863


----------------------------------------


 他のステータスに比べて力の数値が低いのは力だけは称号の恩恵を受けないから。

そして元々のアイシスさんのステータスから急激な魔力やMPの上昇。

これは未だ不明だ。

多分、称号の効果がある事も併せてボクの隠れアビリティの効果によるのだろうけど確証はない。


「に、してもさ。此処まで白天騎士団は死者0。これって奇跡だよね」


「アイシスの魔法の御蔭。だけじゃなく、ジュンちゃんの指導がアレばこそだよね」


「そうね…皆マジックアーマーを使えるからこそ、何とか生き延びてる。ジュンさんには感謝しないとね」


「あ、そう…だな」


 チラッとボクを見るティータさんの視線に困ってしまう。

感謝されるのは嬉しいし、その為に頑張って身に着けてもらった魔法なんだから甲斐はあったわけだけど…目の前で言われると照れ臭い。

レティさんとダイナさんにはそんなつもりは無いのはわかってるんだけど。


 それに…確かに白天騎士団に死者は居ない。

 

 でも…


「奴隷兵達は…どのくらい生き残れるかな」


「…彼らは使い捨ての駒だもんね。サンフォード辺境伯様も遠慮なく消耗してるし…」


「戦争が終わるまで生き残れたら奇跡…ね」


 開戦前に国内各地で行われた盗賊討伐。

その結果各地から送られた元盗賊の奴隷と犯罪奴隷の総数は二千弱。

中にはボクと変わらない歳の子供居た。


 その奴隷兵達は千五百名までに減少。

この二ヵ月で二割強の戦死者を出した。

このまま行けば全滅は必至。

犯罪者なんだから気に病む必要は無いと周りは言うけど…子供まで死なせるのは…


「第一部隊!そろそろ休憩は終わりよ!戦線に復帰するわよ!」


 っと、休憩はもう終わりらしい。

もう少し休みたかったけど、仕方ない。


「行くわよ、皆」


「はーい」


「早いとこ戦争を終わらせてゆっくり御風呂に入りたいねぇ」


「……だな」


「……(ジュンさん、色々と不安で悩むのはわかりますが今は目の前の戦いを終わらせる事に集中しましょう。死んでしまっては元も子もありませんから)」


「(はい…)」


 そうだ、生きて戦争を終わらせてグラウハウトに帰ろう。

今、ボクが死ねばアイシスさんも死ぬ事になりかねない。

死ねない理由は他にも沢山ある。


 ボクは、死ねないんだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る