第10話 「戦争が、始まった…」
「敵の数は!?」
「凡そ三千!完全に囲まれています!」
「何故接近に気付かなかった!」
「わかりません!急に現れました!何らかの手段で隠れていたとしか!」
…眼が覚めたら白天騎士団の野営地にいて。
何者かの襲撃を受けていて。現在戦闘の真っ最中。
そして身体を見下ろせば…胸がある。
髪の毛も金髪…そしてティータさんはボクをアイシスと呼ぶ。
つまりボクはアイシスさんになってるらしい。
…いやいや。何?この状況?
有り得るとしたら…
「なるほど。これは夢か」
「ちょっとアイシス!早く武装を整えて!」
「死ぬよ!」
レティさんとダリアさんもまで来た。
魔法の攻撃を受けたのか少し怪我してる。
夢にはしては凄い現実感があるなぁ。
「被害状況は!」
「負傷者多数!死者は居ません!」
「ジュン殿がマジックアーマーを教えてくれた御蔭ですね。ですが…」
「ええ。今はまだ何とか耐えていても、このままでは全滅する。その前に包囲網を突破するわ」
バーラント団長と部隊長達の会話も…夢にしてはなんとも現実的だなぁ。
夢だと気付いても眼が覚めそうにないし。
よし、此処は一つ…
「此処からだと王都に向かうよりグラウハウトに向って援軍を求めるべきね。東から包囲網を突破するわよ。アイシス、期待してるわよ!…アイシス?」
「高い所から飛び降りよう。そしたら眼が覚める」
「アイシス?何言ってるの?」
高い所…周りには無いな。なら…
「え?嘘!」
「ア、アイシスが飛んでる!?」
飛行魔法で飛んで高いとこから落ちれば眼が覚める筈。
って、うわわわ!
「アイシス!どうやって空を飛んでるのか知らないけど、こんな何も無い場所で空なんて飛んだら狙い撃ちにされるわよ!」
「早く降りて!」
何処までもリアルな夢だなぁ…一つ一つの行動に対して論理的な反応が返って来るなんて。
そうだ、どうせ夢なら…
「制限も遠慮も無く。最大威力で魔法をぶっ放してしまおう」
とはいえ。たとえ夢でも白天騎士団を巻き込むのは寝覚めが悪くなりそうだし。
此処は謎の敵集団を狙おう。
先ずは敵の位置と数の正確な把握かな。
「探査魔法『サーチ』」
数は三千五百。野営地を完全に囲まれてる。十分に魔法の範囲内だ。
っと、敵の魔法が鬱陶しいな。マジックアーマーでも防げそうだけど、此処はより広い範囲でより強固なマジックバリアーを。ついでに白天騎士団も覆って、と。
「え?ど、どういう事?」
「急に魔法が飛んで来なく…」
で、敵の殲滅には数も多いし範囲も広いから、この魔法でいくかな。
「広域殲滅魔法『サンダーレイン』。魔法陣構築、多重展開」
「な、ななな!」
「なんでアイシスが飛行魔法を使えて、その上、あんな数の魔法陣を展開出来るの!?」
さて、準備完了。それでは一切合切の遠慮無く!
「サンダーレイン!」
無数の細長い雷が雨霰と周囲に降り注ぐ。
辺り一面が雷で染まり。鎮まった時には敵からの魔法は完全に停まっていた。
はっー…思いっきり魔法撃つのは久しぶりだなぁ。気持ちいい。
「「「「………………………」」」」
「あっ」
しまった。
全力で魔法撃ってスッキリした気分になって降りてしまった。
まだ眼が覚めそうに無いし、もう一度……ぷあっ!?
「アイシス!あんた凄いよ!」
「まさかアイシスがあんな凄い魔法を使えるだなんて!」
「アイシスって剣だけの剣バカじゃなかったんだね!」
「痛い痛い!皆さん、鎧で抱き着かれたら痛いですよ!」
また白天騎士団の皆さんにもみくちゃにされてしまった。
……あれ?痛い?それに苦しい?でも眼が覚めない……おやぁ?
「良くやってくれたわ、アイシス。いつの間に貴女があんな魔法を使えるようになったのか、詳しく聞きたいところだけど…急ぎ王都へ帰還するわよ!負傷者の手当と敵の始末を!まだ生きてる者が居たら捕虜にしなさい!」
「アイシスは早く着替えなよ。何時までも下着姿で…アイシス?」
「アイシス?どうしたの?」
「………………ふぅ~」
「アイシスー!?」
「アイシスが倒れたー!」
………………………はっ。
此処は…何処?
「眼が覚めた?アイシス」
「ティータ、さん?此処は?」
「昨夜もそうだったけど、何故さん付けなの?まぁいいわ。此処は馬車の中。もうすぐ王都に着くわ。貴女、急に倒れてからずっと眠ってたのよ?で、私は貴女の傍にいるように言われて、此処に居るの」
「え…」
馬車の中…白天騎士団の物資を積んだ馬車の中か。
で、ボクはアイシスさんになったまま…か。
「本当にどうしたの?貴女があんな魔法を使えた事もだけど、何かおかしいわよ?」
「えっと…」
どうしよう。
ボクはジュンです、と言って信じて貰えるだろうか?
いや、信じて貰えた所でどうしようも無いような…
「そ、それよりも状況は?」
「状況?…ああ、昨夜私達を襲撃したのはファーブルネス帝国の魔法兵団よ。生き残りを尋問した結果で、所持品からも明らかだから、確かよ。つまり…」
「戦争が、始まった…」
「宣戦布告無の開戦。そして奇襲。それだけ帝国にはもう余裕が無いって事なんでしょうね。早馬の報せによれば私達以外にも襲撃された騎士団や貴族家があるらしいわ」
「貴族家?」
「……グラウバーン家も襲われたそうよ」
「え!?」
「大丈夫。グラウバーン家は大きな被害無く撃退したそうよ。王城にも襲撃があったそうだけど、他の七天騎士団より早く戻っていた黒天騎士団が撃退。他に襲撃を受けた騎士団や貴族家もそれなりの被害は受けたけど撃退に成功。一番大きな被害を受けたのは…西方を守護するサンフォード辺境伯家の当主キャリガン・サンフォード様が…殺されてしまったそうよ」
「なっ…」
サンフォード辺境伯様が…一度王都でお会いしたけど、優しい人だったのに…
「ファーブルネス帝国にとって西方を守護するサンフォード辺境伯様は一番の障害だったでしょうから。一番確実な戦力を送っていたのでしょうね。襲撃犯は概ね討ち取って、西方の守護は御子息のエルネスト・サンフォード様が軍を率いて守護してるそうだけど…危険な状況らしいわ。すぐさま援軍を送る必要があるそうだから…ほぼ無傷の私達白天騎士団が行く事になると思うわ」
「え…」
つまり…ボクはアイシスさんになってるわけだから?このままだと最前線に!?
「な、ななな、なんで白天騎士団が?」
「仕方ないわ。他の七天騎士団も王都に帰還中に襲撃を受けて少なからず被害を受けてる。その為、王都に帰らず派遣されてた領都に戻った騎士団もあるし。援軍に行けるのは白天騎士団か黒天騎士団しかいない。でも黒天騎士団は敵地に潜入しての暗殺や攪乱が主任務の騎士団。正面から戦う戦場には不向き。となれば私達が行くしかない。準備が整い次第、出る事になると思うわ。王都に到着して…二日後。早ければ明日には出るかもしれないわね」
ど、どうする?と、取り合えず王都に着くまでにもう少し状況を正確に把握しないと。
ボクがアイシスさんになってるのはもう確定だ。
ならアイシスさんはボクになってるのか?連絡…は取りようが無いか、今は。
なら…ステータスオープン。
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アイシス・ニルヴァーナ LV45 状態:接続 (ジュン)
性別:女
職(身分):騎士(白天騎士団所属 アデルフォン王国騎士爵令嬢) 賞罰:無
年齢:十五歳
称号:剣帝と成る者
アビリティ:剣術LV9 体術LV3 全魔法LV1 アビリティリンク
能力値:HP588 MP3252
物理攻撃力2657(350)
魔法攻撃力2082(50)
物理防御力1210(200)
魔法防御力1551(120)
力288 魔力1104
体力795 器用さ802
知力852 精神力810
速さ942 魅力863
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え。何コレ。
ボクのステータスじゃなくアイシスさんのステータスなのはボクがアイシスさんになってる影響だろうけど。
アイシスさんのステータスが軒並み高くなってる。
LVが上がってるのは…昨夜の敵兵を一掃した結果だとして。
LVが上がってステータスが上昇しただけじゃ魔法関連のステータスの上昇が異常すぎる。
それにアイシスさんはアビリティ「全魔法」は持って無かった筈だし、隠れアビリティが開示されてる。
そして状態が接続?ボクの名前がある…もしかしてアビリティリンクがこの状態の原因?
詳細は…
【アビリティリンク︰自身の魂と選んだ人物の魂が一時的に繋がり対象のアビリティを使用可能になる。発動条件︰対象とキス】
選んだ人物のアビリティが使用可能に?
昨夜アイシスさんの身体で普通に魔法が使えたのはこのせいか…で、発動条件がキス。
別れ際にキスされた時にアビリティが発動したのか。
だからボクがアイシスさんになった?
いや、でもそれならあの時にボクがアイシスさんになってる筈。
アビリティリンクの詳細にも精神が入れ替わるとか書いて無いし…となれば原因は…ボクの隠れアビリティか?
ボクの隠れアビリティが条件を満たして発動。結果ボクがアイシスさんになった。
で、多分アイシスさんはボクになってる。推測だけど…多分、入れ替わってるのは間違いない。
「アイシス?どうしたの?」
「え?あ、いや…」
「貴女、昨日から様子が変よ?一体どうしたの?」
「ええと…」
や、やっぱりティータさんには事情を説明して相談しよう。
このままボクがアイシスさんとして戦場に行くのはマズい。
何とかしないと…
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