第9話 「おやぁ?」

「あぁ…愛しのマイハニー…」


「気持ち悪いよ、アイシス」


「ジュンちゃんはアイシスのじゃないからね」


 グラウハウトを離れて暫く。

早くもジュンに会いたくてたまらない。

ああ、次に会えるのはいつ…


「まだほんの数分しか進んでないでしょうに」


「そんな事よりアイシス。団長から伝言」


「え?何?」


「王都に帰ったら一週間、宿舎の風呂とトイレの掃除を一人でやる事、だそうよ」


「は!?何で!?」


「何でも何も。ジュンさんにキスしたからでしょ」


「辺境伯様の前で御子息の唇にいきなり。普通なら犯罪者扱いだよ」


「ジュンは怒ってなかったぞ!なのになんで!?」


 アレか、妬みか!もしかして団長もジュンを狙ってる?


「くっ、あの年増…十一歳の子供に恋するとか…犯罪だろ!」


「あんまり人の事言えないんじゃない?アイシスは」


「ま、ジュンちゃんは白天騎士団のアイドルに認定されたもんね。それをアイシスが抜け駆けするもんだから…」


「団長以外にも怒ってるが大多数だよね。ティータ含め」


「え?」


「何!ティータまでジュン狙いなのか!」


「ち、違うわよ。いきなりあんな事したら普通怒るでしょう?」


 あんな事って…愛する者同士が別れ際にキスするくらい普通でしょ。キス…


「あっ」


「どしたの?アイシス」


「思い出した」


 ジュンにキスした時、隠れアビリティに変化があったんだった。ステータスで確認しなきゃ。


「……何これ」


-----------------------------------------


アイシス・ニルヴァーナ LV39 状態:接続 (ジュン)


性別:女


職(身分):騎士(白天騎士団所属 アデルフォン王国騎士爵令嬢) 賞罰:無


年齢:十五歳


称号:剣帝と成る者


アビリティ:剣術LV9 体術LV3 アビリティリンク


能力値:HP495 MP160 


    物理攻撃力2350(350) 


    魔法攻撃力182(50) 


    物理防御力1080(200)


    魔法防御力498(120)


    力250  魔力126


    体力699 器用さ720


    知力54  精神力448


    速さ790 魅力719


----------------------------------------


 おおう。LVが上がってた。

魔法訓練のかいもあって魔力が結構上ってる。


 それより気になるのが状態が接続になっててジュンの名前がある事だ。


 それと隠れアビリティが「アビリティリンク」に変わってる事。


 …もしかしなくても私の隠れアビリティの開示条件ってキスだったのか。

それに多分これ…特殊ユニークアビリティだ。

ううん…兎に角、詳細を見よう。


【アビリティリンク︰自身の魂と選んだ人物の魂が一時的に繋がり対象のアビリティを使用可能になる。発動条件︰対象とキス】


 …うわぁ。やっぱり。

ジュンにキスした事で私の隠れアビリティの開示条件が達成。ついでにアビリティが発動しちゃったのね。

で、状態が接続でジュンの名前があるのは、ジュンと接続しちゃってる、と。


 ん?つまり…私は今、ジュンのアビリティが使える?

「全魔法LV8」が使えるって事かぁ。でも「全魔法」の詳細知らないし…どこかで確認出来ないかな?


「あ、出来た」


「さっきから何ブツブツ言ってんの?アイシス」


 ステータスの(ジュン)の詳細を確認したら使用可能アビリティ一覧が出た。そこで「全魔法」の詳細が見れる。

あと、ジュンの隠れアビリティは隠れたままで見れないみたいだ。


 ええと、なになに…


【全魔法LV1︰全魔法の威力・効果向上(小)】

【全魔法LV2︰全魔法の消費MP低下(小)】

【全魔法LV3︰全魔法の効果範囲拡大(小)】

【全魔法LV4︰全魔法の威力・効果向上(中)】

【全魔法LV5︰全魔法の消費MP低下(中)】

【全魔法LV6︰全魔法の詠唱省略】

【全魔法LV7︰全魔法の効果範囲拡大(中)】

【全魔法LV8︰全魔法の威力・効果向上(大)】


 …なるほどなぁ。

つまりジュンは覚えた魔法は全て、かなり低燃費でかなりの威力を出せると。

しかも長ったらしい呪文を唱えなくても魔法名を唱えるだけでいいっぽい。


 でもアビリティリンクで繋がっていてもジュンが覚えてる魔法まで使えるわけじゃないみたい。

私が覚えてるのはジュンに教えて貰った「マジックショット」と「マジックアーマー」だけ。

これじゃあまり意味無いなぁ。


 ん〜…アビリティリンクで繋がった対象に何か影響が出る事は無さそうだけど…解除しておこうかな。

アビリティ名が判明した今なら自由に解除可能な筈…


「おやぁ?」


「アイシス?どうしたの?」


 解除出来ない…何故?

ジュンと離れ過ぎた?

いや…こういう他者を対象にしたアビリティは離れ過ぎたら自動で解除される筈。

どのくらい離れたら解除されるかはアビリティによって違うけど…


「任意で解除出来ないって、どうなってんの?」


「何?何の話?」


 取り敢えず…色々試してみよう。

今の所、何も異常は無いけど解除出来ないままじゃ不安だし。

いや、解除出来ない事が既に異常事態か…


「ブツブツ…」


「何かアイシスが真剣な顔してブツブツ言ってるよ?」


「不気味だなぁ…」


「もう放っておきましょ」


 それから色々やってみたけど…解除は出来なかった。

後試して無い事は…意識を失う事。

つまりは眠る事。眠る事でアビリティを解除出来る事がある。

後はそれに賭けるしかないか。

それでもダメだったら…その時に考えよ。


「今日は此処で野営ね。皆、準備して」


「「「「「はい」」」」」


 考え事しながら進んでると、結構進んでたみたい。

今日は見渡す限り何もない草原で野営か。

確か来る時も此処で野営したっけ。


「アイシス、ボッーとしてないで。テント建てるの手伝いなさい」


「あ、うん」


 野営の準備を進めて食事を摂って就寝。

見張りは各小隊毎に一名ずつ。

私は最初で次のティータに交代した。

んじゃ、お休みなさい…zzz





………………


「…てください!ジュン様!起きてください!」


「…んあ?何?私、もう見張りやったよ…」


「寝ぼけている場合ではありません!何者かが城に侵入して騎士が応戦中です!ジュン様を狙っての事かもしれません!急ぎ避難を!」


「…侵入?応戦?」


 このメイドは何を言って…メイド?

何で野営地のテントにメイドが?

アレ?私も何でベッドで寝てるんだ?

テントで寝袋に入って寝てた筈…それに…


「此処はどこ?」


「ジュン様!お早く!あっ、きゃあ!」


「見つけたぞ!ターゲットの一人だ!」


「殺せ!」


 げ。何か如何にも暗殺者でございますって風体の方々が。

私を狙ってる?ジュンを狙ってるんじゃないの?

…ん?ジュンを狙ってる!?


「きっさまら!ジュンを狙うとは!殺される覚悟は出来ているんだろうな!」


「何を言っている?ジュンは貴様だろう」


「惑わされるな!殺れ!」


「魔法の達人らしいが、この距離ならば魔法は不利!」


「魔法を使う隙など与えん!」


「大人しく死ね!」


 はい、こいつら死刑確定!何故私を魔法使いと思ったのか知らないけど。

私の剣で地獄に…あれ?剣が無い!?


「死ね!」


「ちょっ!」


「素早いぞ!」


「囲め!」


 何で剣が無い!?寝る時だって手を伸ばせば届く場所に何時も置いてるのに!ええい!もう!


「スキル!クリエイトソード!」


「な、何!?」


「剣術のスキルだと!?」


 クリエイトソードは「剣術LV7」で獲得出来るスキル。

自分の適正に合った剣をスキルの力で一時的に具現化。

その切れ味はそこそこ高いが一定時間過ぎると戦闘中でも消えるから、余り使い所の無いスキルだけど…



「がっ!」「ぐあっ!」「ぎゃっ!」「そんなっ、ぐはっ!」「うっ!」


 この程度の賊相手なら問題無い。五人いようが瞬殺だ。

もう五人いても瞬殺する自信がある。


 …でも、おかしいな。

クリエイトソードは使用者に最も適した形の剣を自動で選んで具現化する。

私の場合は細剣がそうだ。

でも今は…右手に長剣、左手に小剣の二刀流?

何か身体にも違和感を感じるし…


「うぅ…ジュ、ジュン様?賊は?倒されたのですか?」


「あっ。無事?」


 賊が来た時に突き飛ばされたメイドは気絶しただけみたいだ。

取り敢えず大きな怪我は無いかな?


「はい、私は大丈夫です…そ、それよりも!早く旦那様の下へ!賊はまだ居ます!旦那様の側が一番安全です!」


「旦那様?いや、それよりも、何で私は此処に?…ん?」


 よく見るとこの部屋見覚えが…ジュンの部屋?

って、あれ?鏡に写ったあの姿は…あれ?


「…ジュン?」


「ジュン様?混乱されてるのですか?御気持ちは分かりますが、今は兎に角、旦那様の下へ!」


 アレ?此処はジュンの部屋で?

 メイドは私をジュンと呼んで?

 鏡に写ってるのはジュンで?

 つまり私はジュンで?


「ジュン様?」


「なるほど。分かった」


「お分かりいただけましたか。さ、お早く」


「これは夢だ。高い所から飛べば目が覚める」


「はい?ジュン様?」


「フライング・ザ・スカーイ!」


「ジュン様ぁぁぁ!?お気を確かに!」

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