第7話 「吠え面かかせてやるわ」

「というわけで。私達にも魔法の指導をお願いしたいのです、ジュン殿」


「は、はい…」


 白天騎士団とグラウバーン領騎士団の合同による盗賊…討伐が終わった翌日。

白天騎士団のバーラント団長からお願いをされた。

白天騎士団全員に魔法の指導をして欲しい、と。


 どうもアイシスさんとティータさんが魔力の認識に成功したのを周りに話したらしい。

それで、こんな短期間で出来るなら全員にお願いしたいと言う。


 ボクとしても何か出来る事は無いかと考えていたし、父上からの許可は既に貰っているとなれば是非も無し、だ。


「わかりました。早速始めましょう」


「はい。では私から」


「ちぇー…私とジュンだけの時間になる筈だったのに…」


「アイシスだけはズルいよねー」


「ほんとだよ。私だって魔法使いたいし」


「その前に。何故、私を省いてるのかしら?」


 アイシスさんが不満そうにしてるけど…ボクもちょっと残念な気がする。

剣の指導もアイシスさんだけじゃ不安だからと、バーラント団長も付き添う事になったし。


 バーラント団長も剣の腕は確かで、教えるという意味ではアイシスさんより上手だとか。

だから不満は無いのだけど…やっぱりちょっと残念。


「あふぅ…こ、これはぁ…」


「あぁ…く、癖になりそう…」


「んんっ…はぅぅ…」


 今日は人数が多いのでちゃっちゃっと魔力を流して行ってるのだけど…白天騎士団には相性が良い人が多いみたいだ。


 特に…


「ハァハァ…やっぱり効くぅ…」


 と、前回やったのにもう一度と懇願して来たアイシスさんと…


「こ、こんなの…初めてぇぇぇ!」


 と、バーラント団長が赤い顔で叫んでた。

…何だろう?ここ迄過剰な反応する人居なかったんだけど…何か拙いのかな、この方法。


 何人かの痛い視線を受けつつ…白天騎士団全員に魔力を流し終えた。

そして二時間経った頃には全員が前回のアイシスさんとティータさんの二人と同じくらいに。

一歩先を進んでる二人はかなり短時間で手に魔力を集める事が出来るようになっていた。


 この二人は次のステップに進んでいいだろう。


「アイシスさんとティータさんはもうかなりの上達ぷりですから、次のステップに進みましょう」


「はい」


「どんとこーい!」


「次はこうです」


 ボクは掌に直径20cmくらいの、魔力で出来た球体を浮かべる。

ほんの少し、手から離れて浮いた状態だ。


「これを真似てください。最初はこれ程大きくなくてもいいです。だけど米粒くらい小さくするよりはある程度の大きさがあった方が楽ですよ」


「お、おぉ…わかった!」


「やってみます…」


「これが出来たら魔法使いになる一歩手前まで来てます。頑張りましょう」


 だが此処からが難しい。

才能がある人でも何日か掛かる訓練だ。

ましてや白天騎士団の人達は魔力が認識出来ないでいた、魔法は苦手と諦めた人達。

これが出来るようになるには時間が掛かるだろうな。


「む、難しいですね…」


「く、くぅ〜…ねぇ、ジュン!何かコツとか無いの?」


「こればっかりは…地道な訓練を繰り返すしかありません」


「ぬぅぅ!」


 結局、二人はその日には出来ず。

続きはまた後日となった。

そして盗賊討伐が主目的なのは変わらないので、毎日を訓練に費やす訳にはいかず。


 ならばとボクは城に残った騎士や兵士達に魔法を教える事にした。

戦争が始まったら…父上は彼らを率いて戦場に行くだろう。

グラウバーンの治安維持もあるから全員は行かないにしても…魔法が使えるなら、それに越した事は無い筈。


 そんな風に魔法を教えて、ボク自身も剣術の稽古をしてもらう生活を続けて一ヶ月。遂に白天騎士団の全員が魔力の塊を手から浮かせる事に成功した。最後まで手こずったのは意外にもバーラント団長だった。


「ふ、ふふふ…ここ迄来たら魔法使いになる一歩手前…待ってなさい、ネーナ。吠え面かかせてやるわ…」


 バーラント団長が怖い…何だろう?


「あの…ネーナさんて?」


「ああ…ジュンは知らないか」


「紅天騎士団の団長ネーナ・クリムゾンの事です」


 ああ…確かバーラント子爵と同じで北方の小領主のクリムゾン子爵家の。


「紅天騎士団は私達白天騎士団と同じで女性だけの騎士団。ですが紅天騎士団は魔法使いの集まりなのです」


「で、魔法が使えない私達を何かとバカにしてくるんだよねー」


「同じ魔法使いだから宮廷魔道士達と仲良いし」


「皆さんとは仲…悪いんですか?」


「も、最悪」


「特に団長同士がね。もう三十年くらい争ってるらしいよ」


「…は?三十年!?」


 え?三十年って…どう見てもバーラント団長は二十代前半…


「ああ、それも知らないか」


「バーラント団長はエルフの血を引いているのです」


「エルフの特徴の長い耳がないから、普通の人族に見えるけどね」


「ああ見えて御年五十八歳。立派なおばあちゃ…」


 アイシスさんがおばあちゃんと言った瞬間。

何かが光ってアイシスさんの髪の毛が数本落ちた。

バーラント団長の手には剣が。

いつ抜いたのか全く見えなかった…


「何か言った?アイシス」


「い、いえ!おばあちゃんで未だ独身なんて言ってません!」


「言ってるじゃないの!余計な一言まで増やして!」


「え?バーラント団長は独身なんですか?」


「あー…うん」


「うちに既婚の奴なんていないよ」


「彼氏が出来たら裏切り者扱いだしね」


「そもそも女だけの騎士団に出会いなんてありませんから」


 そういう…ものなのかな?よくわからないな…


「だけど皆必死なんだよね。彼氏が欲しくてたまんないって人多いよね」


「行き遅れの団長を見てるとねぇ…」


「でも…王城には男の人もいるでしょう?確か蒼天騎士団は男性だけの騎士団だと…」


「蒼天騎士団?ダメダメ!あり得ない!」


「あそこの男は…大体がゲイの集まりです」


「え?」


「ノンケの奴も蒼天騎士団に入ったら一ヶ月後には立派な変態になってるって噂だよ」


「もしくは数日で逃げ出すって言う、危険極まりない騎士団だよ」


「もしもジュンさんが七天騎士団騎士団に推薦か、勧誘されても蒼天騎士団だけは選ばない方がいいですよ」


「はぁ…あの、ゲイって何ですか?」


「「「え?」」」


「え?すみません、聞いた事が無い言葉で、知らないとおかしいですか?」


 一般常識だったのかな。でも周りにゲイ?だとか呼ばれる人は居なかったし。


「知らないのかぁ」


「まぁ貴族のお坊ちゃんて少なからず世間知らずだったりするしね」


「ジュンさん、ゲイというのは…えっと、男性が好きな男性の事です」


「え?」


「不思議そうな顔するのも無理は無いですけど…実際にそういう男性を前にしても気持ち悪いだとかは言わない方が良いですよ。態度にも出さない方が良いです。トラブルの元になりかねませんから。強引に口説かれでもしない限りは」


「蒼天騎士団の連中からしたらジュンは美味しそうな獲物にしか見えないだろうから。…うちでもそうだけど」


 アイシスさんが最後の方にボソッと呟いたセリフはよく聞こえなかったけど…蒼天騎士団はどうやらボクにとって危険な人の集りらしい。

…もし本当に勧誘があっても蒼天騎士団は絶対に止めよう。

うん、心に刻んだ。


「ま、まぁバーラント団長も皆さんも、美人な方ばかりですし。いつかきっと良い人が見つかります、よ!?」


「そう!?そう思いますかジュン殿!?いやジュン君!」


「君?い、いや、思います、思いますから!ゆ、揺らさないで!」


「あ、あら。ごめんなさい」


 …こ、今後はバーラント団長の前では年齢と結婚の話はしないでおこう…うん。心に刻んだ。

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