第6話 「それって…」
「ーーよし、ここ迄にしよっか」
「あ、ありがと…うございました…」
ティータさんと二人でお風呂に行こうとするアイシスさんを何とか思いとどまらせ。
剣の稽古をつけてもらっていた。
主に模擬戦形式で。
「剣術LV1を持ってるだけあって基本は出来てる。だけど身体作りがまだまだだね。子供だから仕方ないんだけど」
「は、はぁ…」
…ボク、正真正銘の全力だったんだけどな。
アイシスさんは呼吸も乱れてないし、汗もかいてない。
「じゃ、次は私に魔法教えて!」
「え…す、すみません。少し休憩を…せめて呼吸が整うまで…」
「えー?」
「アイシス。いきなり貴女に合わせて訓練するのはジュンさんにはキツいわよ。少し休憩を挟みなさい」
タフだ…タフ過ぎる。
二時間は訓練していたのだけど…
「じ、じゃあ…アイシスさんは何か魔法を使えますか?」
「ううん。全く」
「全く?どの属性もですか?」
「うん」
「私もですね。魔力を認識する事から躓いてます」
魔力を認識出来ない。
これは魔法を使えない人が挙げる理由の中で最も多い理由だ。
魔力は誰しも多かれ少なかれ必ず持っている。
だけど己の中にある不可視の力を認識するのは難しい…らしい。ボクは当たり前のように出来たのでこれを知った時は驚いた。
「なら魔力を認識する事から始めないとですね」
「あー…やっぱり?」
「はい。魔法は魔力を扱えないと話になりませんから。何か不安でも?」
「うん…昔散々やったけどさ。全く出来なかったんだよね」
「私もです。白天騎士団で魔法が使える者は居ませんね」
「大丈夫ですよ。誰でも簡単に魔力を認識する方法はあります。安心してください」
「へぇ?どうやるの?」
「それはですね…休憩が終わったらやりましょう」
そして休憩後。
アイシスさんにボクに背を向けて座って貰う。
で…
「アイシスさん、今から首に触れます。いいですか?」
「え?うん…でも何で?」
「はい、説明しますね。今からボクがやる魔力を認識する方法は相手の素肌に触れる必要があるんです。だから手でも足でも構わないのですが…過去の経験上、首が最も効率が良いみたいなので」
「う、うん…で、首に触れてナニを?」
「ボクの魔力をアイシスさんに流し込みます。他人の魔力が体内に入って来る事で自分の魔力と混ざりあう、或いは拒絶しあう。どちらの場合でも自分の魔力を認識出来る筈です」
「拒絶しあうって…何か危なくない?」
「大丈夫。流し込む魔力は極少量です。拒絶反応が出たとしても直ぐに治まります。では行きますよ」
「うん……あうぅん!」
アイシスさんの首に触れて、魔力を流す。
実はこれ、ボクが開発したオリジナルの方法。
魔法が使えないメイドに相談されて物は試しとやってみたら出来たのだ。
御蔭でうちのメイド…いや使用人達は皆魔法が使えたりする。
だけど執事曰く、魔力を他人の中に流すというのは他の人には出来ないらしい。
父上もそんな方法は聞いた事がないと言っていた。
「あぁ…な、何これ…わ、私の中に、ジュンの熱いモノが……あぁん!」
「……」
「あの、ティータさん?魔力を流した以上の事はしてませんからね?この反応はメイド達もしてましたけど、疚しい気持ちは一切ありませんからね?」
どうもボクの魔力と相性が良い人は気持ち良いらしい。アイシスさんは特に相性が良かったのか、ここ迄の反応は無かったけども…
「ハァハァ…や、やるじゃん…」
「何がです?…ところで、どうです?自分の魔力、解ります?」
「あ、そうだった……ええと…うん、何か熱を持ったモノがある…」
「それを掌に集めるように意識してみてください」
「うん…」
待つ事数十秒。
アイシスさんの手の平が淡く光る。
成功だ。
「あ…」
「おめでとうございます。それが魔力です。今掴んだ感覚を忘れないようにしてくださいね」
「うん!…あ、消えちゃった」
「初めて魔力操作が成功しただけですからね。今後は自分の魔力を自由に操作出来るようになるのが、魔法を使う上で必要な技術です」
そして呪文の詠唱で自分が望む形に魔力を作り変えて放つ。それが魔法と呼ばれるモノだ。
「こんなにアッサリ…ジュンさん、私にもお願い出来ますか?」
「あ、はい」
ティータさんの要望に応えて同じ事をする。
「あ、ふぅ…こ、これは確かに…気持ち良い、かも…」
ティータさんもですか。
うちにいる極僅かなメイドみたいに癖にならないといいんだけど。
「あ、出来た。出来ました、ジュンさん!」
ティータさんも無事に魔力を認識出来た。
ここ迄来たら後は地道な訓練あるのみだ。
「ではさっき言ったように、自分の手に魔力を集めるのを可能な限り速く。そして可能な限り多くの魔力を集める。これを意識してやって行きましょう」
「はーい」
「はい」
それから一時間程訓練を続けて、終了した。
二人とも武術に精通してるだけあって高い集中力を持ってる。
一時間でかなり上達していた。
「じゃ、続きはまた今度するとして。今度こそお風呂に…」
「はいはい。そろそろ戻らないと、団長から叱られるわよ。では、失礼します、ジュンさん」
「あ、はい。ありがとうございました」
「あ、ちょっとティータ!離せー!」
「駄目よ。これ以上は私だって叱られちゃうじゃない」
「団長が怖くて美少年と混浴出来るかー!離せー!」
…アイシスさんを見る眼が少し変わりそうだな。
何でそんなに一緒にお風呂に入りたいんだろう?
そして翌朝。
昨日の訓練で疲れていたボクはいつもより少し遅くまで寝てしまった。
メイド達によるとアイシスさん達白天騎士団は朝早くに出撃。
グラウバーン領の騎士団と共に盗賊団討伐に出たらしい。
そんなに急を擁する程、グラウバーン領には盗賊が蔓延っているのかと言えば、そうでもない。
むしろ父上は精力的に領内の治安維持に努めているので、少ない方だろう。
だけど帝国と戦争がもうじき始まるという噂は国民も知っている。
そういう時は人心は乱れるモノ。
盗賊に身をやつす者も少なくない。
だから今のうちに、現在存在する盗賊は根こそぎ退治しておきたいのだろう。と、ボクは考えていた。
実際、それは間違いじゃないのだけど…それだけじゃなかったようだ。
日が暮れる前に出撃した騎士団達は帰って来た。勿論、白天騎士団も。
だけど…
「父上、アレは…」
「捕えた盗賊達だな」
「捕えた、ですか。奴隷に堕とすのですか?」
「ああ。…今回、国内の奴隷を一掃する理由は二つ。開戦前に国内の安定の為。もう一つは…戦力の確保だ。少しでも、な」
「それって…」
つまり帝国との戦いに、犯罪奴隷にした盗賊達を使う、と?
そんな…
「…奴隷の兵士なら使い捨てに出来る。ましてや元盗賊の奴隷なら指揮官も心が痛まない。少なくとも一般人よりは戦い慣れしてるのも都合がいい。そして戦場で手柄を立てれば奴隷から開放。一般兵としてとりたてる。と、言って反抗を防ぐ。奴隷は首輪の力で逆らう事は出来ないが…まぁ。そういう事だ」
「で、でも…ボクとそんなに歳の変わらない子供だっていますよ!?」
「ジュン…まだ子供のお前には辛いだろうが、覚えておけ。国を守るという事は綺麗事だけでは済まないのだ。俺や騎士団の者だって喜んでやっているわけではない。だが誰かがやらなければならない。それに奴らが犯罪者なのは確かなんだ。罰は受けなければならない。わかるな?」
「はい…父上…」
国を守る、か。…ボクは恐らくは帝国との戦争に行く事は無いと思う。
だけど…何か出来る事は無いのだろうか?
せめて戦場に行く顔見知りが無事に帰って来れるように。
何か出来る事は…
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