第3話 「だとしたら許すまじ!」

〜〜ジュン〜〜



 父上とバーラント団長達を見送った後。

流石に今日は出撃しないだろうから会議の後ならアイシスさんと話をする機会があるかと思い、自室で待っていた。だけどメイドからの情報によるとアイシスさんは会議に参加していないらしい。


 それなら…!


「失礼します」


「あら?…貴方は?」


「ボクはジュン・グラウバーンです。あの、アイシスさんはいらっしゃいますか?」


 白天騎士団が待機してる詰所を訪ね、思い切ってアイシスさんを御茶に誘う事に。

…すっごい緊張する。心臓の音、目の前の人に聞こえてないかな。


 ……って、あれ?


「きゃー!凄い美少年!」


「可愛い!ちょっとちょっと!お姉さんのとこにおいで!」


「ああ〜!何かいい匂いまでする!クンカクンカ」


「離しなさい、この変態!」


 一瞬で捕まってもみくちゃに…もう何がなんだか!


「ちょっと!あんたら!その子は私に会いに来たんだぞ!」


 あ、よかった…アイシスさんが来てくれた。

近くで見ると…やっぱり美人さんだ。

あの時に見たままだ…


「大丈夫?変な事されてない?」


「あ、はい…大丈夫です。そ、それよりも!あの…アイシスさん!」


「な、何かな?何でも言ってみなさい!」


「よ、良かったら…ボクの部屋で、その…お、御茶でも如何ですか!アイシスさんと…お、お話がしたくて!」


「喜んでー!」


 良かった…受けてもらえた!

アイシスさんも喜んでくれてるみたい。

「うおっしゃー!」って叫んでるし。

でも、そこまで期待されても普通の接待しか出来ないんだけど…


「あ、でも…私まだ鎧だし…」


「では後で迎えを寄越します。準備が整い次第、来てくださいますか」


「わかった!」


 よし…よーし!ああ〜楽しみだなぁ!





〜〜アイシス〜〜



 よし…よーし!萌えて来たー!

気合い入れて準備しなきゃ!

流石にドレスは用意してないから騎士服で間に合わせるとして…新しい下着は用意してて良かったー!


「アイシス…何考えてるの?」


「いや別に!特におかしな事はなんにも!?」


「嘘だね。そのだらしない顔は見た事あるよ」


「王都の初等部の学生を眺めてた時の顔と同じ…ううん、もっと邪まな顔になってるわね」


「失敬だなー君達!」


 でもしょうがないじゃん。

あんな美少年からのお誘いだもん。

これを断るなんて女じゃない!


 あぁ〜今日はなんって素晴らしい日なのか!


「だと言うのに…なんでティータが付いて来てるのかな?」


「貴女が問題を起こさないように監視するためよ。貴女、今度何かやらかしたら団長も庇いきれないわよ?今回に限って言えばグラウバーン辺境伯様も庇ってくれないでしょうし」


「私が問題を起こす前提で話進めてない?大体、ティータは招待されてないでしょうが」


「大丈夫です。ジュン様はそれくらいで怒ったりしない方です」


「だそうよ。良かったわね」


 くっ…メイドさんによってティータの同行が認められてしまった。

何というお邪魔虫…もしかしてティータも狙ってる?


「だとしたら許すまじ!」


「何がよ?何なの、その眼…」


「着きました。こちらです」


 案内された部屋は意外にも普通の部屋だ。

普通の貴族っぽい、綺麗に整理整頓された部屋。

…いや、子供の部屋としては年相応の部屋に見えないから、そう考えたらおかしいか。


「ようこそ!急な招待に応じて頂き、ありがとうございます。さ、どうぞ座って…ええっと?」


「あ、こっちは私の同期の…」


「ティータ・フレイアルと申します。アイシスが何かしでかさないか不安で付いて来てしまいました。お許し下さい」


「フレイアル…?ああ!槍の名手として有名なフレイアル家の方ですね?」


「家の事をご存知なのですか?末端の騎士爵ですが…」


「勿論です。アデルフォン王国の貴族家の事は大体父上から学びました。さ、ティータさんもこちらへ。騎士団の事やアイシスさんの逸話などが有れば聞かせてください」


 案内された席に付くと、ジュン…様が自分で御茶を淹れてくれた。

…メイドか執事が淹れるのは見た事あるけど、貴族の子息が淹れるのは初めて見た。


「どうぞ。お口に合えば良いのですが」


「ありがとうございます」


「ありがと。…緑の御茶?」


「隣国のヤマト王国から仕入れた御茶です。玉露と言います。王都の方でも売られてるそうですよ」


 緑の紅茶は他にも見た事あるけど…これは何か独特な香りがするなぁ。


「あ、美味しい…」


「ええ。程よい甘味があって…茶器も独特ですが、これもヤマト王国の?」


「はい。亡くなった母上がヤマト王国の人だったので。母上が好きな銘柄なんです。あ、お茶請けは街で売ってる普通の物ですが、お好きに召し上がってください」


 普通の物と言っても…どれも高級品。

うちじゃこんな簡単に用意出来ないものばかり…流石は辺境伯家。


「そ、それで?ジュン…様は私のファンなんだって?」


「ちょっとアイシス。貴女、さっきから口の聞き方に…」


「あ、大丈夫ですよ。お二人の方が年上ですし、ボクは辺境伯家の嫡男でしかありません。爵位のない貴族の子供にすぎませんから、騎士のお二人にかしずかれるような立場ではありません。楽な言葉使いで結構ですよ。呼び捨てでも大丈夫です」


「あ、そう?良かったー!じゃあジュンって呼ぶから!ジュンも楽な喋り方でいいよ!」


「アイシス!もうっ…で、では私はジュンさんで」


「はい。改めてよろしくお願いしますね」


 ふふ〜ん。思った通りの良い子だなぁ。

あの子爵家のバカとは大違い!

楽しい遠征生活になりそう…グフフ…グヘヘへへへ…

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