第2話 「…始まる!」
「ここがグラウハウトね」
「ようやく着いた〜…」
「あたし、もうつかれた。寝たい…」
私はアイシス・ニルヴァーナ。
七つある王家直属の七天騎士団の一つ『白天騎士団』所属の騎士だ。
七天騎士団はそれぞれ色を冠した名を持つ騎士団でそれぞれに特色がある。
例えば私が所属する『白天騎士団』は女だけの騎士団。
更に全員が何らかの武術の達人の域にある。
主な任務は王家の女性が王城から離れる際の護衛。
それと国内に存在する不穏分子の排除。
そして全七天騎士団共通の特徴として七天騎士団に命令を下せるのは王家の人間だけ。
今回グラウバーン辺境伯領の領都グラウハウトに来たのは国王命令によるもの。
勿論拒否権は無い。
「全くぅ…めんどくさいよねー。たがだか盗賊退治に駆り出されるなんて」
「全くね。領軍だけでやればいいのに。ねぇ、アイシス」
「あなた達、団長に聞こえるわよ」
この三人は私の同期。
と言っても三人共二つ年上なんだけど。
少し子供っぽい喋り方をするのがレティ。
猫の獣人で「弓術 LV6」を持つ弓の達人。
少しくせっ毛のある茶髪のセミロング。
笑うと本物の猫みたいな眼になる。
日向ぼっこと昼寝が大好きな娘だ。
私達の中で一番背が高くて大柄なのがダイナ。
メイスを武器に大盾を持って戦う防御型の騎士。
「盾術 LV5」と「槌術 LV5」を持つ。
赤髪のショートヘアーで笑うと八重歯が見える。
男装が似合いそうなワイルドな女の子。
でも意外と面倒見が良くて編み物が趣味だったりする。
サラサラの長い青髪でドレスを着たら何処の貴族令嬢にしか見えない気品と美しさを持ったのがティータ・フレイアル。
…実際にフレイアル騎士爵家の貴族令嬢なんだけど。
「槍術 LV7」を持つ槍の達人。
『白天騎士団』の中でも上から数えた方が早い実力者だ。
髪型はポニーテール。涼やかな眼をしていて女の私から見てもかなりの美人だ。
でも大酒飲みで酔うとキス魔になる厄介な一面がある残念美人だ。
そして私、アイシス・ニルヴァーナ。
ティータと同じ騎士爵家の出。
「剣術 LV9」を持つ『白天騎士団』最強の騎士だ。
「グラウバーン領に入ってからチラホラ居たけど…黒髪の人が多いね?」
「だね。それに…何か同じ髪型の子供が多くない?」
「ほんとだ」
アデルフォン王国では黒髪の人は珍しい。
そしてその黒髪の子供は後髪…襟足だけ伸ばして結ってる髪型が多いように見える。
「此処グラウバーン辺境伯領は東の小国ヤマト王国と隣接した場所だから。隣国から此処へ移り住んだ人が最も多いのがグラウハウトなのよ。確かもう亡くなられたけどガイン・グラウバーン辺境伯様の奥様もヤマト王国の出身じゃなかったかしら?」
「よく知ってるねぇ、ティータ」
「これから暫くの間活動する場所だもの。少しは調べるわよ」
「真面目だねぇ…たかが盗賊退治に来ただけなのに」
「アイシスはもう少し真面目にしなさい…それと同じ髪型の子が多いのは…あっ、着いたわ。この話の続きは後で。此処から暫くは私語厳禁よ」
グラウバーン辺境伯家の居城に着いた。
直ぐに私達が今後使う事になる待機所に案内され、ラティス団長からこの後の予定を聞く。
「皆、御苦労様。私はこれから辺境伯様に御挨拶に行くわ。各部隊長は一緒に来て。それから…アイシス。貴女も一緒に来て」
「え?私が?なんで?」
「何でも辺境伯様の御子息が貴女のファンだそうよ。出来れば会わせる機会を作ってやって欲しいって辺境伯様から事前にお願いされたのよ」
「えー…」
「文句言わない。貴女はグラウバーン辺境伯様には御世話になったでしょう?例の一件で」
「う…」
…確かに御世話になった。
以前、王城で何処かのバカ貴族が私を口説いて来た。
何度断わっても付き纏って来るし馴れ馴れしくベタベタと触って来るし、我慢出来なくなって剣で殴ってしまった。
当然バカ貴族は怒り狂い親の権力を振りかざして来たのだけど、それを穏便に終わらせてくれたのがグラウバーン辺境伯様。
私も一応は貴族だけど騎士爵なんて末端貴族。
吹けば飛ぶような家でしかない。
相手は子爵家だったし…正直凄く助かった。
「他の者は休んでていいわ。それじゃ行くわよ」
はぁ…私も休みたかったな。
「残念だったねーアイシス」
「有名で人気者なのも考えものだねぇ」
「くっ…ここぞとばかりにニヤニヤと…他人事だと思って」
「そう気落ちする事はないと思うわよ。少なくとも前回の子爵のバカ息子みたいにはならないから」
「どういう事?」
「さっきの話の続き。街に同じ髪型の子が多い理由。何でも辺境伯様の御子息も黒髪で領民に凄い人気だそうよ。髪型を真似るほどにね」
「へぇーそれは凄いねぇ…ん?グラウバーン辺境伯様の御子息?」
「何か聞いた事があるような…ああ!」
「そう。アイシスと同じくらいの有名人よ。何せ武人として名を馳せた名家グラウバーン辺境伯家から生まれた王国で初の『魔帝』だもの」
ああ…そういえばそんな噂を聞いた事がある!
僅か十歳にして宮廷魔道士に匹敵する実力を持ち、魔力量だけなら既に王国最高だとか。それだけじゃなく…
「魔法の実力は最高。更に超が付く美少年。正直、私も会ってみたいわね」
「あー…でもさ、それって…」
「アイシスには最も会わせちゃいけない相手なんじゃない?」
「だよねー…なんせアイシスは…」
「筋金入りのショタコンだもんね」
「失礼な。私は可愛い少年を愛でるのが好きなだけだ」
「それを世間ではショタコンと言うのよ…」
「否定するならせめてその弛んだ顔を何とかしなよ」
デヘヘ…そっかー美少年なのかー…しかも私のファン!
となれば…二人切りになる機会があれば…グヘヘ。
「あー…ヤバい事考えてる顔だわ、これ」
「だねー…大丈夫かなぁ」
「大丈夫よ。ラティス団長だってアイシスの趣味は知ってるんだから。団長なら上手くやるわよ。二人切りにはさせないでしょうね」
ぐっ…確かに…いや、しかし!
暫くは此処に滞在するんだし、向こうから近付いて来るなら幾らでもチャンスはあるはず!
それに幾ら団長だからって個人の自由恋愛に口出しする権利は…
「アイシス!何をしているの!早く来なさい!」
あっと…団長がお怒りだ。行かないと。
「じゃ、行ってくる」
「行ってらっしゃっいー」
「どんな子だったか教えてね」
「暴走しないようにね」
団長達に付いて謁見の間へ。
其処で待っていたのは想像通り。
ガイン・グラウバーン様とその家臣団。
そして…
「ガイン・グラウバーン閣下。白天騎士団団長、ラティス・バーラント以下五名。国王陛下の命によりグラウバーン辺境伯領の盗賊団討伐の為馳せ参じました」
「よく来てくれた、白天騎士団。歓迎しよう」
団長が代表して挨拶した相手がガイン・グラウバーン様。
金髪のオールバック。巨漢の渋みのある髭のおじさん。
「槍術 LV9」を持つ槍の達人。
以前ティータに槍の稽古をつけてた事もある。
で、その辺境伯様の隣に立つ少年が…
「閣下、そちらの方は…」
「ああ、バーラント団長は初めてだったな。紹介しよう。俺の息子のジュンだ」
やっぱり!ジュンて名前なのか!確かに超が付く美少年!
スラリとした長い脚。綺麗な黒髪。
左が黒眼で右が翠眼のオッドアイ。
その神秘的な瞳にはその容姿も相まって惹き込まれそうなほどに魅力的。
「…始まる!」
「(? 何が?)」
「(私語は慎みなさい!)」
あっと…思わず声に出してしまった。
隣にいる部隊長に聞かれて団長に叱られた。
でも…あの子が…私のファン?
やだ、思わずニヤけちゃう…グフフ…
「?」
「はうっ」
ガン見してたらコテンと首を傾けて小さく手を振ってくれた。
やっべ!可愛い!惚れそう!いや惚れた!
「グフフ…デヘヘ…」
「(ちょっとアイシス?どうしたの?)」
「(静かにしなさいってば!)」
始まる…!私の恋の物語が!
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