魔帝と剣帝を混ぜたら
J
第1話 「天才はやめてください」
ボクはジュン・グラウバーン。
アデルフォン王国の東部に位置するグラウバーン辺境伯家の嫡男。十一歳。
アデルフォン王国では現在、隣国の一つ西方に位置するファーブルネス帝国と開戦間近…緊迫した状況にある。
そんな中、ボクが住むグラウバーン辺境伯領の領都グラウハウトにアデルフォン王国でも屈指の実力と国民からの人気も高い、女性だけの王家直属騎士団『白天騎士団』が来る為、出迎えの為に城で父上と待機中だ。
何故、ファーブルネス帝国がある西方ではなく、真逆の位置にあるグラウバーン辺境伯領に『白天騎士団』が来たのか。
それは開戦前に国内の安定化を図るべく、王家直属の騎士団を国内各地へ派遣。
各地の盗賊や国境付近の小競り合いを鎮圧すべく動いていた。
そこで大規模な一斉討伐の為にやって来たのが『白天騎士団』。
今日はその出迎えの為、ボクは父やグラウバーン家の家臣達と一緒に城で待機中…なんですけど。
「…ふぅ」
「どうした?疲れたか、ジュン」
「はい、少し…」
「緊張してるのか?こういう場へ出るのは初めてだから無理もないが、お前はグラウバーン辺境伯家の嫡男。これからいくらでもこういう仕事が待っている。今から慣れておけ」
「はい、父上」
そう話すのはボクの父、ガイン・グラウバーン。
アデルフォン王国で名うての武人を数多く輩出した名家として名を馳せたグラウバーン家。
その歴代当主の中でも最高の武人として名高いのが父上だ。
見た目からして強面で身体も力強い筋肉で溢れた、如何にも武人といった様相の父上。
でもボクにはとても優しい、家臣からも領民からも慕われている自慢の父だ。
緊張してる理由は…それだけじゃないんですけどね。
「ガイン様、白天騎士団が参られました」
「うむ。通せ」
グラウハウト城謁見の間に五名の女性騎士が入って来る。
騎士団名に合わせた白色の鎧を着こんだ女性達。
先頭に居るのが『白天騎士団』の団長ラティス・バーラント。
長身で長い銀髪を一本のオサゲにした髪型で、見えてるのか見えてないのか解らない糸目の女性。
確か北方の小領主バーラント家縁の方だ。
「ガイン・グラウバーン閣下。白天騎士団団長、ラティス・バーラント以下五名。国王陛下の命によりグラウバーン辺境伯領の盗賊団討伐の為馳せ参じました」
「よく来てくれた、白天騎士団。歓迎しよう」
団長さんと一緒に居る四人は白天騎士団の部隊長クラスの人達だろう。
そして、その中の一人に…ボクの憧れの人がいる。
「それと…久しぶりだな、アイシス・ニルヴァーナ殿。今年の初めに王城で会って以来か」
「はい。その節は御世話になりました」
「何、大したことはしておらん。気にするな」
アイシス・ニルヴァーナ…その剣の腕前を認められ、まだ成人する前、若干十二歳で白天騎士団に入団。
数々の武勲を挙げ、白天騎士団最強の呼び声も高い『剣帝と成る者』という称号を持つ女性。
流れるような長い金髪。やや釣り目の碧眼。騎士としては細身で今年十五歳。
とても美しい人で…ボクの、いや国中の憧れだ。
「閣下、そちらの方は…」
「ああ、バーラント団長は初めてだったな。紹介しよう。俺の息子のジュンだ」
「初めまして、ジュン・グラウバーンです。誉れ高い白天騎士団の方々にお会い出来た事、光栄に思います」
「ああ、やはり…私共も『魔帝』と呼ばれる若き天才魔導士、ジュン殿にお会い出来、光栄です」
「はは…天才はやめてください。それにまだ『魔帝』には至ってませんので…」
剣帝が剣を極め剣士の頂点に立つ者なら魔帝は魔法を極め魔導士の頂点に立つ者。
ボクは『魔帝と成る者』という称号を持ち、この歳にしては異例の速さで魔法を習得。
アビリティ「全魔法 LV8」を持っている。
称号とは所持者に何らかのステータス補正、或いはステータス向上、アビリティの取得難易度の低下。アビリティLV向上の補正等、様々な恩恵がある。
基本的に所持者に恩恵のある物ばかりだが、中にはマイナスしかない称号等もある。
ボクが持つ『魔帝と成る者』には魔法関するのステータス向上。
魔法アビリティのLV向上に補正が付く。
アビリティとは生まれつき、或いは努力の成果によって獲得出来る能力の事。
武術には剣術や槍術、弓術等があり、魔法には火魔法や水魔法。回復魔法や召喚魔法等がある。
Lvが上がる毎にステータス補正が上がったり、スキルを獲得したりする。
例えば「剣術 LV1」では「斬撃」という普通に斬るよりも威力の高い攻撃技が手に入る。
次に魔法アビリティはLvを上げても新しい魔法を習得しない。
例えば「火魔法 LV1」では火魔法の威力向上。「火魔法 LV2」では火魔法の消費MP減少、となっている。
並の人間だとその道一筋に一生涯掛けて訓練しても精々Lv5。
秀才と言われるような才能ある人間でLV7まで。
天賦の才能を持つ一握りの天才だけが最高値のLV10に至り「帝」の名を持つ称号を得る事が出来る。
こう説明すると自分で自分を天才と言ってるように聞こえるけど…ボクは生まれつき持ってた称号『魔帝と成る者』の恩恵の御蔭で「全魔法 LV8」を習得出来たに過ぎないわけで。
「全魔法 LV1」も生まれつき持ってたし。
「御謙遜を。ジュン殿の噂は王都にまで轟いていました。天才と呼ぶに相応しい魔法の使い手。そして美しい容姿。謙虚な性格。どれも噂通りです」
「それは…ありがとうございます」
あんまり否定すると父上が怒るし…機嫌よく頷いているから、此処は素直に御礼を言っておこう。
ボクはグラウバーン家では珍しく…というより初めてと言っていい魔法の才に溢れた子、らしい。武家として名を馳せたグラウバーン家の者としては異端だと思うのだけど、父上はボクの魔法の腕が上がる度に大喜びで。あちこちで自慢してるそうだ。
今もバーラント団長の言葉を聞いて上機嫌だ。
「さて。長旅で疲れているだろうが、早速、作戦会議と行きたい。構わないかな、バーラント団長」
「はっ、勿論です」
「では会議室へ行こう。こっちだ」
此処でボクの出番は一先ず終了。
憧れのアイシスさんと御話しは出来なかったけど…会議が終わった後なら、少しは出来るかな?
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