第一話
通学路のそこそこ有名な海岸にある大きな建物は私の通う高校、県立
もう一つはうちのクラスの【妖精】の実家、老舗旅館くろかわ。
海岸沿いということもあり、部屋からの眺めは申し分ないだろう。
なんでも【妖精】の母親、つまり若女将が相当なやり手で、SNSなどを駆使して、
今では県外からも客足が途絶えない有名老舗旅館に成長したらしい。
何故友達もまともにいない私がこんなことを知っているかというと、
【妖精】こと
スラリと伸びた手足。
後ろが透けているのではないかというくらいの真っ白な肌。
涼やかだけれど大きな
女子か!と突っ込みたくなるほどサラッサラの黒髪。
しかし当の本人は物静かで誰かと喋っている所も滅多に見ないから芸能人というよりは妖精の方が似合う。
まあこれだけの要素があればクラスの女子が毎日毎日騒いでもおかしくないだろう。というわけで私も話の輪には入らなくともクラスで本を読んでいればこれくらいの情報はいくらでも入ってくる。
高校は海岸の一番奥だから私の通学路はずーっと海岸沿いを歩くだけという青春にはもってこいの条件だがそんなの私には微塵も必要ない。
HSPの診断が下りてから私は家族以外は関係を持たないようにしている。
あの女子特有のいざこざの息苦しさも、馬鹿馬鹿しくなったのだ。
それにHSPの私はいつ場の空気を惑わせてもおかしくない。
だから私はそれ以来友達と呼べる存在はいない。
元々暗い性格ではないし、どちらかというと明るい性格なので話しかけてくれる子もいる。昨日のテレビは見たかと話しかけてくれる子もいる。
でもそれまでだ。LINEの交換もしないし、一緒に登下校もしない。友達ではなく、クラスメイト、の方が適切だろうか。
でも慣れてしまえばそこまで辛くない。
話そうと思えば話し相手はいるし、「ぼっち」ではあるが、「孤立」ではない。でもなんでだろう。
時々全てが嫌になる。
もっと普通の人と同じように生きる道はなかったのだろうか。私の前を歩くあの子達の様に何でもないことでバカ笑いする関係は本当に築けなかったのだろうか。私は今、正しい道を選んでいるのだろうか。朝からネガティブな気分に浸っていると門で生活指導の先生が挨拶をしているのが見えた。
(ああ、今日から2年生か。)
私は高校につづく緩やかな坂を重たい体を引きずりながら登った。
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