ヘミングウェイの猫
雲をみる
ヘミングウェイの猫
アーネスト・ヘミングウェイの猫には、指が6本あって、幸運を呼ぶと信じて溺愛されてたんだという。
わたしも、産まれたとき、左足に指が6本あって、パパとママは悪魔の呪いだと信じて、すぐに手術で1本切ってしまったそうだ。
11才の夏。左足のくすり指と小指のあいだに、小さな芽が出ているのに気がついた。
それは、薄い綺麗な若草色をした3ミリくらいの小さな突起で、触ると少しくすぐったくて、背中が酸っぱいような感じになった。
もし、葉が出て茎が伸びて、蕾ができて、花まで咲いたらどうしたらいいんだろうと思った。どんな花? すごいヘン! 咲いちゃったら靴はけないし、とか呑気に思った。
どういうわけか怖くはなかった。どうせお医者さんに行けば、すぐ切ってくれるんだろうと思った。もう一本の指みたいに。
嫌でもなかった。むしろ、切って葬ってしまったもう一本の指の分身が帰ってきたかのようで、安心したようないい気持ちになった。その夏の終わり、わたしは初潮を迎えた。
芽は、予想に反して、そのまま成長しなかった。だから、高校生になった今も、まだそのまま、綺麗な若草色の芽のまま、左足の指のあいだに、ある。そして、触ると背中が酸っぱくなる。
誰も知らない。
へんな芽のあるわたし。
いつかヘミングウェイの猫みたいに誰かに愛されたら、めちゃくちゃ幸運にしてあげるつもりだけど。
ヘミングウェイの猫 雲をみる @cloud_watcher
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます