噂の真相 3

放課後、私が2人を連れてウチに帰ると、大谷さんがお店で待ち構えていた。



そう言えば今朝、『学校から帰ってから話しをする約束』してたわね。



「ごめんなさい。ちょっと用事を済ませて来るので、もう少しだけ待ってもらえますか?」


「あぁ、気にしなくていいわよ。」


「ありがとうございます。じゃあ、薫ちゃん、坂野君、ちょっと待っててね。」



2人をお店で待たせている間に、急いで問題集をコピーして戻って来ると、薫ちゃんと大谷さんは【オニレン】の話しでかなり盛り上がっていた。



坂野君と徳さんは、その話にドン引きしたらしく、少し離れた席でコーヒーを飲みながら流行りのゲームの話をしていた。



満月の方は聞こえないフリをして、明日のモーニングの仕込みをして誤魔化していた。



よっぽど聞きたく無いみたいね。まぁ男子には引かれるよねー。



「お待たせ!ハイ、問題集のコピー!」



問題集を受け取ると、坂野君はコーヒーを飲み干し私達に礼を行って、サッサと帰って行った。



薫ちゃんは大谷さんと話が盛り上がり過ぎて、まだ帰らないみたいね。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


(坂野視点)



俺の名前は【坂野快斗】、高校1年生。

得意科目は理系。

中学の時はそれなりの悪で通っていたけど、兄貴が巻き込まれた事件をきっかけに、真面目に生きる事にしたんだ。



高校の入学式の日…幼馴染の勝屋薫に誘われて、山根理子と【オカルト研究同好会】に入会させられた。



最初はやる気は無かったんだが、入ってみるとけっこう面白かった。

だが最近、やってる事が【オカルト研究同好会】じゃなくて、【“ミステリー研究同好会(※1)”】っぽいと思うのは、俺だけじゃないはずだ。



まぁ、そのおかげでこの前俺に掛けられた【濡れ衣】を晴らせたんだけどな。



ところで、昼休憩の時に勝屋が言っていた【猿池】という“溜(ため)”池は、帰り道の途中にある。



通学路からはちょっと外れてるが、『ずぶ濡れの幽霊』が出るって噂の時間帯ちょうど今ぐらいなんだよな。



俺はちょっとした好奇心で、いつもは行かない【猿池】に近づいた。だいたい10mくらい手前まで来た時だ、池の中から突然猿の様に毛深く茶色い手が出て、池の縁を掴もうとしているのを見てしまった!



思わず立ち止まって観察していると、今度は皿の乗った頭が出て来た。

ソイツは辺りをキョロキョロと見回すと、今度は池の縁に足を掛けて地上に出ようとしている。



もしかして、噂の『ずぶ濡れの幽霊』の正体はコイツか?



そう言えば昔、近所の爺さんに聞いた事があったな……



『【“猿猴(えんこう)”】はヤバいから、直ぐに逃げろ!“尻子玉(※2)”を抜かれるぞ!!』



頭の皿と茶色の毛深い体……

皿が無ければ一見猿に見える姿。

たぶんコイツがその【猿猴】で間違いない。



【猿池】という溜池は、高い土手がある訳じゃ無い…溜池の目印に細い柱が4本建ててあるだけだ。一応警戒してるつもりなのか、【猿猴】はその柱の影に隠れた。まぁ俺の方からは、殆ど見えてるんだが……



俺はそっとその場を離れ、山根の喫茶店に戻る事にした。あそこにはまだ勝屋が居るハズだ。



暫くして俺は後ろから声を掛けられた。



「あ…坊ちゃん、落とし物だよ~!」



周りには【猿猴】以外、誰も居なかった。つまりこの声は【猿猴】に違いない!



俺は全力疾走で喫茶店に向かった!

コレでも中学の時、同じ学校に居た県内2位のマラソンの記録を持ってるヤツより速かったんだぜ!



「坊ちゃん待って!待ってってば~♪」


「待てと言われて、待てるかー!!」



【猿猴】に陸上で負ける訳には行かない!!

俺は1度も振り返る事なく走り続け、けっこう余裕で喫茶店に飛び込む事に成功した!



「アレ?どうしたの坂野君?」


「えっ!?どうしたの?」


「君、帰ったんじゃなかったっけ?」


「帰る途中に【猿池】に寄ったら、【猿猴】に見つかって、追いかけられてんだよ!」



俺は皆んなに説明しながら、とりあえず近くにあったテーブルを入り口のドアに寄せてドアを押さえた。



「たいへん!鍵閉めないと!!」



そう言って、山根が急いで厨房の中から鍵を持って来た。



「えっ!?ちょっとあなた達何やってんのよ!?」



勝屋達は信じてくれたけど、東京から来た客は、信じられないって顔をしている。

その間にも俺は他の皆んなと協力して、バリケードを作った。

作り終わって直ぐ、喫茶店のドアを叩く音がした。



「坊ちゃん!落とし物だってば~♪」


「来やがったか!」



ドンドン!



「坊ちゃん落とし物~♪ここ開けてよ~♪」


「しつこいな!いい加減諦めろよ!!」


「あぁ、なるほど…そういう事かぁ~!《ずぶ濡れの幽霊》の正体は【猿猴】だったのね!コレで事件は解決したわ!」


「いや、薫ちゃんまだ解決して無いって!」


「アイツが居なくならないと、俺もお前も家に帰れねーだろ!」


「そういやそうね。どうしよう?【猿猴】退治の仕方とか誰か知ってる?」


「ちょっと皆んな落ち着こう!まず君!追いかけて来た相手、確認したの?」


「見る訳ないだろ!こういうのは『振り返って見ちゃいけない!』っていうのが、常識だろ!」



そう答えると、東京からの客は呆れた様にこう言った。



「いやだからなんでそこで、妖怪が実在する方向で話しが進むのよ!?」


「「「だって、【オカルト研究同好会】だから?」」」


「何故ここで疑問系?」



そうこうしているうちに、急に外が静かになった。

諦めて帰ったのか?だが油断は出来ない!



「こんな時になんだけど、【えんこー】って何?」



山根は【猿猴】を…知らなかった……



「「「「えっ???」」」」


「えっ?」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


※1


理子達の学校には既に【ミステリー研究同好会】があります。


第1章の【謎の暴走族事件】の時や第2章の【コンビニ幽霊事件】も調査していた様です。

しかし理子と【オカルト研究同好会】に先を越されてしまい、今のところ出番無し。



※2


尻子玉とは人間の肛門内にあると想像された架空の臓器です。


河童は、抜いた尻子玉を食べたり、竜王に税金として納めたりすると言われています。


ラムネ瓶に栓をするビー玉のようなものともされ、尻子玉を抜かれた人は「ふぬけ」になると言われている。











  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る