噂の真相 4

「理子ちゃん、知らないで慌ててたの?【“猿猴(えんこう)”】って言うのは【河童】の一種で、猿に似てるって言われてるの。」


「えっ?【河童】?」


「世間一般で知られてる【河童】とは、だいぶ違うと思うわ。絵を見た方が早いかな?」



そう言って、大谷さんがタブレットで見せてくれたのは、《薄茶色で毛深く、猿に河童のお皿を乗せた様な姿をした、不気味な妖怪の姿》だった。



「へぇ~コレが【猿猴】かぁ。」


「全国的に有名な【河童】のイメージは、たぶん【遠野】の【河童】のイメージね。」


「大谷さんって妖怪とか詳しいんですか?」


「職業柄いろいろ調べたりしてるから。

ところで、ここ裏口は大丈夫なの?」


「裏口なら、たぶん大丈夫だと思いますよ。坂野君が戻って来る前に、満月が出て行きましたから。」



と徳さんが言って直ぐの事、満月が裏口から入って来た。どうやら誰か連れて来た様ね。



「お前ら何やってんだ?黒瀬さん店に入れなくて困ってたぞ。」


「どうも~。こんにちわ黒瀬です。」


「「「こんにちわ…… 」」」


「「いらっしゃい黒瀬さん。」」



黒瀬さんは最近、家が立ち退きになった為に、この辺りに引越して来たオネェさん。何時もサングラスにマスク、キャスケットにロングスカート姿で、だいたいこのくらいの時間にやって来るお客さん。



「アレ?その声…もしかして、さっき坂野君に、落とし物届け様としてたのって?」


「あ!そうそう、はい坊ちゃん落とし物。」



そう言って、落とし物?を渡そうとする黒瀬さん。ところが、坂野君は……



「いや、それ俺んじゃねぇし!!しかも、びしょ濡れじゃないか!」



黒瀬さんが差し出したのは、びしょ濡れのビニール袋に包まれた黒いバッグみたいだった。



「えー違うの?じゃあどうしよう?」


「とりあえず、中身確認してみたら?何か手掛かりがあるかもしれないわよ?テンプレだと、大量の現金とか金塊とか死体とか白骨だったりするのよね~♪」



確かに大谷さんの言う通り、開けて見れば解る。どうか後ろの2つじゃありません様に……



万が一を考えて、ビニール袋を開ける為に、皆んなで近くの空き地に移動する事になった。と言ってもお店に誰も居ないと困るから満月と徳さんはお留守番。



びしょ濡れの床も掃除しないと行けないし……



ホントは、何かあった時に身元の怪しい2人が居ると、話がややこしくなるからなんだけどね。



黒瀬さんも『せっかくコーヒー飲みに来たのに、もし変な物が見つかったら飲む時間が無くなるし、この後仕事だから…… 』と言って来なかった。



どうやら黒瀬さんの職業は、“夜のお仕事”らしい。



「そう言えば、大谷さんと黒瀬さんって背格好似てますよね?」



移動する途中で、薫ちゃんが少し前を歩く大谷さんを見てそんな事を言い出した。確かにさっきは気が付かなかったけど、ぱっと見は似ているかも……



どちらも似たようなサングラスにマスク、ロングスカートだし。違いは黒瀬さんがいつも被っているキャスケットくらいかな?



「そう言えばそうかも……

まぁ似た様な格好の人なんかたくさん居るわよ。」



そうこうしている間に、目的地の空き地に着いた。



「この辺でいいか?じゃあ開けるからな!」



坂野君が“家(ウチ)”から持って来たハサミで、ビニール袋に巻いてあったテープを切ってバッグを取り出す。



ビニール袋に入れてあったから、バッグは濡れて無かった。慎重にバッグを取り出し、そっと開けてみる。



皆んなで中身を確認すると、中にはテンプレ通り大量の現金と貴金属が!!



「「「「マジ!?」」」」


「冗談で言ったのに、ホントに入ってた!」


「どうしよう?山分け???」


「阿保か!!そんな事したら、俺達まで捕まるかもしれないだろ!!

落とし主が現れなかったら、その時山分けにすればいいだろ!!」


「「なるほど!!」」


「ちょっと、皆んな何言ってるのよ!とりあえず警察呼ばないと!!」



その後直ぐ、通報で駆けつけた警察に、バッグとそれを包んでいたびしょ濡れのビニール袋は回収された。



「君達ねぇ…こういう時は直ぐ警察に、知らせてくれないと…… 」


「「「「は~い!次から気をつけま~す!」」」」


「次からって、君達ねぇ…… 」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


(その頃ストロベリームーンでは…… )



「オイ、黒瀬!!わりゃ何やっとるんじゃ!?」


「えっ?何って???」


「「『何』じゃないわ!この馬鹿タレが!」」


「なんじゃこの【ずぶ濡れの幽霊の目撃情報】の数は!?ほぼ毎回見られとるじゃないか!!」


「あれほど『見つからん様に、気いつけぇ!』言うたのに!!」


「えーだって、あそこ隠れる所無いし……

この時間に出て支度しないと、仕事に間に合わないんだよー。」


「お前の所為で、あの池は暫く住めなくなるぞ!」


「えぇっ!?何で~???せっかく住み慣れて来たのに~!」


「お前が“あがぁな(※1)”もん拾うて来よったけん、この後あの池は警察が見張りを立てたり、池さらいするに決まっとるじゃろうが!!」


「警察が来る前にサッサと引越しせぇ!!」


「そんなぁ~。」


「早う行かんと、荷物を取りに行く時間が“無(の)”うなるぞ!」


「うわぁー大変!急がなきゃ!!」 



ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


そう言って黒瀬さんは、慌てて【猿池】に帰って行ったそうです。



黒瀬さんの正体……

それは…一部地域を騒がす【ずぶ濡れの幽霊】こと【猿猴】だった。

近くの運送会社で、“夜勤専門の事務員”をしているんだそうです。



何それ?私聞いて無いわよ!!



そして、あのずぶ濡れのビニール袋を拾ったのは、いつの間にか坂野君という事になっていた。



どうやら“豆狸(タヌキ)”が、何かやったらしい。



数日後…あのお金の出所を警察より早く、薫ちゃんから知らされた。



「バッグの中身は【2カ月前に空き巣に盗まれた、現金と貴金属】だったそうよ…… 」


「それって、もしかして?」


「まぁ、時期的に考えても犯人はたぶん“三盛(※2)”の親じゃね?」


「たぶん、今日のお昼のニュースの時間には警察から発表があると思うわ。」



流石は薫ちゃん!情報早いわね!それにしても…ここで三盛さんの両親に繋がるとは思わなかった。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


♪♪砂月ちゃんのミニ広島弁コーナー♪♪


※1


《あがぁな》→『あんな』


バリエーションとして


《そがぁな》→『そんな』


《こがぁな》→『こんな』



というのもあります。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


※2


第2章参照。




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