噂の真相

噂の真相 1

事の起こりは、高校生になって初の中間試験が始まる1週間前……

部屋で勉強をしていたら、“瑞稀(みずき)”から相談を持ち掛けられた。



「姉ちゃん…ちょっと相談に乗ってくれる?」


「試験勉強中だから忙しいんだけど、何? 」


「最近学校で噂になってるんだけど、【“人柱(※1)”のお花さんの幽霊】が“水源地(※2)”に出るって。」


「は?“人柱”?」


「うん、300年前にあの水源地を作る時に、人柱を建てたんでしょ?その時“人柱になったお花さんの幽霊”が出るんだって!」



はい?何言ってるか全然わからないんですけど……

そもそもあの水源地が出来てから、確かまだ100年経ってないし。

国の《登録有形文化財》で《近代水道百選》に選ばれてる重力式コンクリートダム湖に人柱ってありえないからね!



何故私が、これ程水源地に詳しいかというと、家から近いというのもあるけど、小学校の時の担任がコアな歴史マニアで、地元の歴史を調べるのが趣味だったからなのよ。



ただ残念ながら、先生は私達の卒業を待たずに退職された。先生は退職されるまでに、【スクモ塚】の事を語る事が無かったから知らなかったんだよね。



まったく…【オカルト研究同好会】に入ってるからって、そう言う相談持って来られても困るんだけどなぁ……



「あのね、瑞稀……

あの水源地、出来てから100年も経ってないのよ。

流石にその時代に人柱なんて建てないから…… 」


「えっ!そうなの!?」



私の説明を聞いた瑞稀はびっくり。



「だいたい、どこでそんな話し仕入てくるのよ?」


「田口さん。この辺の歴史に詳しいって言ってたから。」



あの“稲荷狐(キツネ)”適当な事を!次来た時、ぜったいシメてやる!!



「他にも“中(なか)”君が夕方、犬の散歩してたら、この辺じゃ見かけないサングラスにマスクした髪の長い女の人とすれ違ったんだってさ。

暫くしたら『ギニャー!!』って変な声が聞こえて、女の人が消えてて、怖くなって慌てて犬の散歩やめて帰ったんだって!


それから佐竹さんが、池から這い上がる女の幽霊を見たって言ってたよ!


加納君の妹は、『雨も降って無いのにずぶ濡れの女の人に声を掛けられた!』って泣きながら帰って来たんだってさ!」



…… 。


…… 。


「それ、東京から泊まりに来てるウチのお客さんだよ。3日前に“溜(ため)”池に落ちてびしょ濡れで帰って来たから……

ちょうど瑞稀は塾に行ってたから、見て無かったけど。」




彼女は1週間前から泊まってる東京から来たお客さんで、お母さんの学生時代のお友達なんだって。



人前に出る時は必ずサングラスかけてるし、食事中以外はマスクしてるから怪しく見えない事もない。



彼女が常にサングラスをかけている理由は、単に目の下のクマを隠す為。マスクは化粧するのが面倒だから……

理由はけっこう単純。



瑞稀が彼女の存在を、ちゃんと認識していなかった理由は“生活サイクル”が違うし、まだ小学生の瑞稀とは接点がないから……



彼女は完全に夜型人間で、夕方前に起き出して水源地まで散歩。

その間に泊まってる部屋の掃除を、お母さんが済ませる。という事を繰り返している。



「なぁんだ。幽霊じゃなかったのかぁ~。」


「じゃあもうこの話しは終わりね。私は試験勉強で忙しいから。」


「わかった♪ありがとう姉ちゃん!クラスの奴にも教えてやろうっと!」



瑞稀はそう礼を言って、部屋から出て行った。

さてと、試験勉強の続きしなきゃね!



しかし、まさかコレがあの事件の前触れだったとは、この時の私は思いもよらなかった……



ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


※1


【人柱】とは、人身御供の一種。

大規模建造物が災害や敵襲によって破壊されないことを神に祈願する目的で、建造物やその近傍にこれと定めた人間を生かしたままで土中に埋めたり水中に沈めたりする風習を言い、狭義では古来日本で行われてきたものを指すが、広義では日本古来のそれと類似点の多い世界各地の風習をも同様にいう。


【白羽の矢が立つ】という言葉がありますが、元々はこの【人柱】や神様への【生贄】を決める為にやっていた事です。


【人柱】や【生贄】にされるのは、その地に住む者だけではなく、偶々通りがかった旅人や攫った人を無理矢理、という事もしばしばあった様です。


(昔話【キジも鳴かずば】はこの人柱を題材にしたお話です。)



※2


【水源地】

理子達の住む町にある【重力式コンクリートダム湖】昭和18年完成。

たくさんの桜やツツジと《西日本一》と言われる藤棚があり3月~5月の間だけ一般開放されています。


近隣の人達だけでなく、多くの観光客も訪れる観光スポット。



(参考文献 ウィキペディア)


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