第3話 クラス分けテスト

 サクラコが入学したヴィラ・ドスト王立学院は、「シュテルンフューゲル」という街にある。

 王立魔導研究所と王立学院を中心に発展してきた街だ。

 書店、文房具店はもちろん、衣料品店、魔導具店、武器屋、薬屋、食堂などの店が軒を連ねる。学生達が必要とするモノは、たいてい、この街で購入することができる。


 学生たちが生活する学生寮も、多くはこの街に存在する。王立学院に通う学生は、出身領地の領主が経営する学生寮で生活する。

 王族であるサクラコは、この街にある王族専用の離宮、レネン宮殿から通うことになった。ガイウスもアマティもクラウスも、この離宮から通学したという。


 さて、王立学院入学にともない、サクラコのもとに新しい側仕がやって来た。側仕がランファひとりでは色々と不便だろうと、長兄ガイウスが国王ジェイムズに掛け合った結果だ。


 新しい側仕えの女性は、


 ――レベッカ・アドラー

 ファンフィールドの領主ヴァルトマール・アドラーの娘である。ランファとは王立学院時代の同級生だった。水色の銀髪をポニーテールにして、くりっとしたスカイブルーの双眸とぽてっとした唇が愛らしい少女である。童顔のためか、ランファよりも年下に見える。

 ランファのような戦闘スキルは持っていない。


「行ってらっしゃいませ。お早いお帰りをお待ちしております」


 朝食をゆっくり取り過ぎて、大急ぎで支度をしてレネン宮殿を飛び出したサクラコ。

 後から聞こえてきたレベッカの声に振り向いて手を振った。


「姫様。急ぎませんと、遅刻してしまいます」


 ランファが、やや焦り気味の表情でサクラコに伝える。


 サクラコはシュテルンフューゲルの大通りを、護衛騎士のディランと側仕のランファ、そして黒猫ルナとともに駆け足にも似た早足で王立学院へと向かう。


 朝の街の景色を楽しむ余裕などなかった。


 ちなみに、馬車で通学することは王立学院の校則で認められていない。

 

 しっぽをぴんと立てて、先頭をとてとてっと歩くルナ。時折、ちらっとサクラコの方に振り向く。

 ルナの後を追いかけるように進むサクラコ。

 サクラコの隣をカツカツと歩くディランとランファ。


 今日は、クラス分けテストの日。


 王族として恥ずかしくない得点をしなければならない。そのため、昨夜は夜遅くまで勉強していたサクラコ。


 ちょっぴり寝坊した。

 朝食時も、かくんかくん、うつらうつらしてしまった。

 そのため、いつもよりも時間がかかってしまった。


 で、この有様である。


「それでは、私どもはここで。テスト頑張ってください」


 校門の前に着くと、ディランはサクラコにそう声をかけた。


「ありがとう。では、行ってきます」


 サクラコは、ディランとランファを交互に見て手を振った。

 ちょっと眠い目をこすりながら、クラス分けテストが行われる校舎へ向かう。


 サクラコは、試験教室へと向かう学生達の波に身を委ね歩いた。


「サクラコ様、おはようございます」


 時折、彼女に気が付いた学生達が挨拶する。


「おはようございます。今日は、お互い頑張りましょうね」


 などと、王族スマイルで挨拶するサクラコ。ほぼ、条件反射である。

 じつは、いまだ頭にスイッチが入っていない。


 校舎に入る手前でルナを抱っこする。もふもふして気持ちを落ち着かせた。


「ルナ、ありがとう」


 ルナを降ろすと、彼は、ニィと鳴いてどこかへ駆けて行った。

 ルナを見送ったサクラコは、校舎に入り試験教室へと向かう。


 試験教室となっていたのは三〇〇人収容できる大講義室のひとつ。教壇を中心にぐるっと扇状に座席が並ぶ階段教室だ。

 黒光りする太い柱や梁と漆喰の内壁が、厳かというよりはホッとするような空間を作り出している。


 黒板には、チョークで座席表が書かれていた。

 領地ごとに分かれて着席するようだ。


 サクラコの座席は、真ん中の列の一番前だった。


 指定された座席に着席し、筆記用具を準備する。

 筆記用具といっても、「プルメ」という羽根ペンのような魔導具ひとつだけだ。これ以外の筆記用具の使用は認められていない。

 この魔導具プルメを持って、魔力を流しながら羊皮紙に文字を書いていく。ペン先に集めた魔力で、羊皮紙に文字を焼き付けるようなイメージだ。魔力を流しながら羽根の部分で文字をさっと撫でると、文字を消去することができる。


 なお、魔力の加減を間違えると、羊皮紙に大きな穴が開いてしまうので注意が必要である。

 また、魔力の足りないと、すべての問題を解答できないという笑えない事態になる。


 大講義室は静まり返っていた。学生達は緊張のためか、誰もおしゃべりしていない。


 試験開始時間が近づくと、数人の教師たちが問題および解答用紙を持って大講義室に現れた。そのなかには、先日、入学式で式辞を述べた校長ジークフリート・ケトラーの姿もあった。


「みなさん。ごきげんよう。昨日は、ゆっくり休んで魔力を回復してきましたか? 本日は、クラス分けテストです」


 教壇に立ったケトラー校長が、大講義室の学生達に挨拶する。よく通る声だ。


「これから、問題用紙および解答用紙を配布します。試験開始の合図があるまで、手は膝の上においてお待ちください」


 ケトラーは、そう言うと自ら問題用紙を持ってサクラコの前に立った。どうやら彼は、サクラコが着席する列の配布を担当するらしい。


 彼は分厚い束の一番下から問題用紙を取り、サクラコの前に差し出した。そして彼女の後に座る学生達に問題用紙を配布していく。

 すぐに別の教師がやってきて、今度は解答用紙を配布して回る。


 問題用紙および解答用紙の配布が終わると、ケトラーが再び教壇に立った。


「みなさん。問題用紙および解答用紙はありますか?」


 そう言って、講義室を見回す。

 

「解答時間は、これより六〇分です。それでは、解答を始めてください」


 学生全員に問題用紙および解答用紙が配布されているのを確認したケトラーが、試験開始の合図をした。


 クラス分けテストが始まった。


 一限目のテストは国語、二限目は算数、三限目は魔法学である。

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