第2話 出会うふたり
今回、久しぶりに、カレンとアレクサンダーが登場します。
このふたりにも、色々変化があったようです(とくに、アレクサンダー)。
🐈🐈🐈🐈🐈
サクラコの目に飛び込んできたのは、金髪ショートボブにサファイアブルーの双眸を持つ少女。その隣には、この辺りでは珍しい黒髪アフロの少年。
ふたりは、話しながら広場の芝生の上を歩いている。
金髪の少女は、周囲の学生たちの視線を集めていた。
はっきり言って、王女であるサクラコよりも注目を浴びている。
サクラコの前に立つ三人も例外ではない。すぐ後ろに、この国の王女がいるというのに、その視線は金髪の少女と黒髪アフロ少年に釘付けだ。
サクラコも、べつに気にしてはいない。その方が気は楽だから。
「ふあっ!? サ、サクラコさま! 失礼いたしましたっ!」
背後に立つサクラコに気付いた学生達が、慌てて道をあける。
「あの方が、『セキレイの聖女』カレン・ブラント……」
サクラコは、思わず息を呑んだ。
彼女は道をあけて頭を下げている学生達の前を横切って、カレン達の方へと歩き出した。
サクラコの薄紅色のツインテールが靡いている。
かなりの早足である。
これでも、はやる気持ちを押さえているようだ。
サクラコは、王立学院でカレンに会えるのを楽しみにしていたのだった。
幼い頃から、話しだけは聞かされていた。
セキレイという小領地に、五歳で最上位聖属性魔法を扱い、病気で苦しむ領民を救済した「聖女」がいると。
「聖女」は、自分と同い歳だった。
だから、ちょっぴり嫉妬もした。
自分にもその力があれば、セイランが死ぬことはなかったのに。
なぜ、自分にはカレンのような力が無いのか。
こんなに無力で何も出来ない人間なのに、王女というだけで、かしずかれている自分。
他方で、自分の力で領民を救った自分と同じ歳の小領地の領主の娘。
暗殺未遂事件以来、カレンの名前がサクラコの頭から離れたことはない。
自分だって負けない。
必ずカレンのようになってみせる。
魔力の扱いを学び、剣を学び、その他王女として恥ずかしくない教養を身に付けようと努力してきた。
カレンへの羨望と嫉妬は、いつしか尊敬に変わっていた。
そして、いま自分の目の前に「セキレイの聖女」がいる。
カレンと黒髪アフロの少年は、凄い勢いで近づいてくるサクラコの姿を見て立ち止まった。
すぐさま道をあけて頭を下げる。
サクラコは、カレン達の前で立ち止まった。呼吸を整えてから、目の前に立つ金髪の少女に声をかける。
「カレン・ブラントですね? 面を上げて下さい」
サクラコの若葉色の瞳。カレンのサファイアブルーの瞳。
ふたりの目が合う。
「お初にお目にかかります。サクラコ様。セキレイ領主サウロが長女カレン・ブラントにございます」
カレンは、ちょこんとスカートをつまんで挨拶する。
「あなたにお会い出来て嬉しいわ。入学前から楽しみにしていたの。近いうちに、お茶会しましょうね」
そう言って、にこりと微笑むサクラコ。
「光栄です。サクラコ様」
カレンは、目を閉じ右手を左胸に当てて会釈した。
そしてサクラコは、黒髪アフロの少年に顔を向ける。
その時だった。
「……‼」
脳天から背筋を抜けて爪先までビリビリとしたモノが走る。
それは、まるで雷に打たれたようなカンジだった。
サクラコは、じっと黒髪アフロの少年を見詰めている。
「サクラコ様?」
カレンが声をかけるまで、サクラコはぽーっと彼を見詰め続けた。
やがて、少し俯いてもじもじし始めたサクラコ。
顔を見合わせるカレンと黒髪アフロの少年。
サクラコは、視線を上げて黒髪アフロの少年を見てはまた視線を下げてを繰り返しながら尋ねた。
「あ、あのっ、そのっ、こちらの男性は、なんとおっしゃるの?」
「私はカレン様の護衛騎士見習いで、アレクサンダー・ドレイクといいます。よろしくお見知りおきを」
アレクサンダーと名乗った黒髪アフロの少年は右手を左胸に当てて、にこりと笑顔で答えた。
「アレクサンダー……さま」
サクラコは顔を上げて、アレクサンダーを見る。
彼の黒曜石を嵌め込んだような目と、サクラコの目が合ってしまった。
かあっと赤くなって、また俯くサクラコ。
カレンとアレクサンダーは、サクラコに何と声をければよいのか戸惑っていた。
三人の間に微妙な空気が流れる。
サクラコは、はっと我に返ったように顔を上げた。
そして、
「し、失礼いたしますっ! 後日、お茶会にご招待いたしゅま……」
噛んだ。
口を手で塞ぎ、視線だけ動かしてふたりを交互に見るサクラコ。
しゅぱっと左向け左をして、早足でカツカツと歩き出した。
そんなサクラコの姿をカレンとアレクサンダーは、ぽかんとした表情で見送った。
やがて、ふたりは明日以降の予定について話しながら、サクラコとは反対方向に歩き出す。
サクラコは、振り返った。
離れていく、ふたつの背中。
「サクラコ?」
腕のなかのルナが、ひょこっと首を伸ばしてサクラコを見る。
ルナの声に気が付かなかったのか、サクラコは離れていくカレンとアレクサンダーの背中から目を離さなかった。
てしっ。
ルナは右前足を伸ばして、サクラコの口元を肉球で軽く叩いた。
はっとして、腕のなかのルナを見るサクラコ。
彼女は、また歩き出した。
何度も何度も振り返りながら。
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