第16話 君のもの

「よっこらせ!」


ふかふかのベッドは今日もしっかりと掃除されていて花の香りがする。

俺専用に設けられた部屋にはたくさんの本が並んでいて元々は前皇帝の部屋だったらしい。


「はあ、明日か…。」


シャルとのデートで頭から吹っ飛んでいた決戦のことがじわりじわりと脳裏によぎる。


コンコン


「はい!」


「ひかる、わしじゃ。ちょっとばかし良いかのう?」


「お、おう!」


ガチャリ


「まだ起きててよかったぞ。


…そっちに座っても良いかの?」


「お、おうよ!当り前よ!」


シャルのパジャマ姿は久しぶりに見た。

あの時との違いと言えば、今日は髪が上品に結ってあって、大人っぽく見える。


「今日は楽しかったのう。」


「そ、そうだな。」


「…。」


くそ!何緊張してんだ俺は!


「それで、ど、どうしたんだ急に?」


「そ、そうじゃな、用を伝えんとじゃな!」


シャルは胸に手を当て、ゆっくりと深呼吸をした。


「なあ、ひかる。おぬしはワシのこと…その、どう思っているのじゃ?」


「きゅ、急だな。」


「そうじゃ…急じゃ…。」


少しの沈黙が流れた。


「可愛い、と思ってる。」


「そ、それだけか!?」


シャルは俺の顔を覗き込んだ。

その時初めて、シャルが普段はあまりしない化粧をしていることが分かった。


「可愛いし、みんなを引っ張ってるときは逆にかっこいいし、尊敬してる。


言葉はきついけど何だかんだで人の気持ちをよく考えてるし、何よりも最初に出会ったころよりもよく笑ってくれるようになったのがすごく嬉しくて…もっと見たいって思うよ。」


「そ、そうか…。」


頬を赤く染め、俯くシャルは、俺の右腕の裾をつかんだ。


「わ、ワシはおぬしのことが好きじゃ…。できることならワシだけのおぬしにしたい。


…でもそれは叶わぬ。


…。


だからせめて—」


ガバッ


胸に飛び込んできたシャルの鼓動が俺にぶつかってくる。


「ワシをおぬしのものにしてはくれぬか?」


急激なのどの渇きを感じた。

きっと俺の鼓動の音もシャルを叩いているだろうと感じるほど、しっかりとその音が体内に響く。


「シャル、好きだよ。」


唇を1度だけ重ねるとシャルはまた俺の胸に身を寄せる。


2度目も3度目も同じように身を寄せ、4度目にやわらかいその腕で俺を包み込んだ。


「優しくするのじゃぞ?」


そう言うと、シャルは強張っていた肩の力を抜き、俺にその身の全てを預けてくれた。



—翌日


サーサーサー


カーテンが開き斜光が部屋に差し込む。


「ひかる、朝じゃ。」


カーテンを開けるとシャルは俺に覆いかぶさり、じっとこちらを見ていた。


「おはよう、シャル。」


俺とシャルは額を合わせると、初めてのおはようのキスをした。

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