第15話 クレイル
カリカリカリカリッ
「ほう、やるものじゃのう。助かるぞ、ひかる。」
元の世界では特別優秀な方ではなかったけど、この世界では算術ができる・文字が書けるなどというのは重宝されるようだ。
「最近忙しいからのう。事務作業が追いつかんのじゃ。」
「まあ、言われた通りにまとめてるだけだけどな。」
転生特典なのか人族の文字は読めたのが助かったな。
初めてシャルの役に立てたんじゃないかな?
「なんじゃ?今日は少し上機嫌とみえるぞや?」
「いや、なんかこういうの良いなって思ってな」
「なんじゃ急に…。お、おぬしが良ければこのままワシの専属事務官になってくれてもいいんだぞ?」
「うん、それもいいかもな。」
シャルともっといたい。
そんな気持ちでそばにいるのも確かだ。
でも何よりも明日に控えた決戦へのモヤモヤを解消したいんだ。
「さて、こんなもんじゃの。」
シャルは既に開かれているカーテンを摘みながら外を眺めている。
「ひかる、甘いものは好きかのう?」
「んー、まあ結構好きかな。」
「そうか、結構か。」
「…。」
カリカリカリカリ
「…。」
「なあ、ひかる?」
カリカリ—
「ん?」
「城下に一緒に行かぬか?」
「すぐ行こう、今すぐ行こう。」
—30分後
これあれだよな。
で、でで、デートだよな!
やべえ、超緊張する!
てか俺の服装変じゃないかな?臭ったりしてねえかな?
ハーッ!まじ興奮する—
「待たせたのう、ひかる!」
玄関前に現れたシャルは大きなフードを深く被って現れた。
「シャルさん?その格好はいったい?」
「おぬしこそ自分の立場が分かっておらぬとみえる」
シャルは犬型の死霊を召喚すると、キャップ帽を持ってこさせた。
「ほれ、これを被るのじゃ。外はおぬしのことを見たことがない者ばかりじゃ。耐性のないところにおぬしが現れたらどうなるかおぬしも経験済みのはずじゃが?」
確かに、ティナやヤリスみたいに暴走する娘がいてもおかしくないか…。
「ごめん、ありがとうな。」
「どういたしましてっ。さあゆくぞ、ひかる!」
およそ3か月ぶりの城の外の景色。
この前の戦いのときは馬車に完全隔離されてた分、変哲もない街並みに、人に、香りにワクワクする。
「ひかる!あれを見よ!何という生き物じゃろうな!大きいのう!」
「ひかる!これはな、こうやって…ほら、これで食べられるぞ?食うてみい!」
シャルに引っ張られながら散策するのは、息つく間もなくあっという間に過ぎていった。
「ゴクゴク…ふぅ。少し休憩じゃ。」
「そうだな、ちょっと座ろうか。」
噴水を囲む石段に腰をかけると、もう日が暮れ始めていることに気づいた。
「うん、美味いねこれ!クレープ?なのかな」
「それはクレイルという菓子じゃ。わしはあの店のクレイルが好きでな、一度おぬしにも食わせたかったのじゃ。」
そういうとシャルはしばらく俯いてしまった。
「どうした、シャル?」
「おぬしを…また危険に晒してしまう…。」
「なんだ、明日のことか。」
「国のためとはいえ、おぬしを賭けの対象にしてしまったのじゃ。なんと誤ればよいか…。」
「俺を出せば敗戦しても国民を奴隷にしないって条件だろ?そりゃ誰だってシャルと同じ判断するだろ。」
「おぬしは…恐ろしくないのか?なぜ冷静でいられるのじゃ?」
「そんな怖いに決まってんだろ?今にもまたちびりそうなくらいだわ。
…でも、シャルや他の奴らの生活が脅かされてんじゃ、俺だって傍観者じゃいられない。
家族なんだろ?俺らは。」
「ひかる…。」
シャルは少しうるんだ瞳で真っ直ぐと俺の目を見ていた。
「ま、まあ勝った曙にはまたデートだな!今度は…そう!動物園だ!こっちの世界にもあるのか?ともかく、今日は帰ろう!なっ!」
城へと向かう俺の背中を見ながら、シャルは一つの決意を固めた。
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