第12話 モテ期
遂にこの日が来たか。
「おーい、お前!大丈夫なのかー!」
大丈夫?
あいつはなにを聞いてるんだ?
帝国最西の城砦、アーナム。
砦の外から全速力でこちらに向かってくるは、筋肉自慢の狂騒化した獣っ娘の群れが数万。
そして俺も今、砦の外にいます。
1人です。縛られてるので逃げられません。
砂煙の中から徐々に獣の群れが現れる…。
「雄ジャア!!」
「ブヒヒヒ。待ッテテヨ、可愛コチャン♡」
「グヒャヒャヒャヒャー!チ◯ポーー!!!」
「おい、大丈—」
「ギブアァァァアーーーーップ!!!!!」
—およそ30分前 アーナム城砦 見張り塔にて
「どうしたの?浮かない顔?だよ?」
「いえ、私はまだこの作戦にどうも納得できず…。」
「まあ仕方ない?とは思うよ?」
「お気遣いありがとうございます。しかし、ノルン様の作戦は過激とはいえ、これ以上の策が現状ないのも事実ですから。」
「獣人族の強い欲情?を利用した作戦だよね?」
—同刻 アーナム城砦 本部前広場にて
「それにしても意外だわ♡シャルがOKしてくれるなんて、嬉しっ♡」
「仕方なかろう。ひかるが任せろと言うのじゃ。あやつの度胸に掛けてみたくなったのじゃ。」
「ふーん…。惚れた?」
「ふっ。より惚れたわ。」
「ありゃりゃ?素直すぎて可愛くな〜い」
「陛下、そろそろ敵軍が到着するとのこと。中にお戻りを。」
「わかった。」
「私は上登ってひかるちゃんの勇姿見てるね♡」
シャルティアの足取りはとても重かった。
「ひかる…。どうか無事でおれ…。」
—現在 アーナム城砦 城外にて
「ぐぎゃぁぁああ!!だ、誰か!誰でもいいから俺に救いの手を!
俺はもう無理だ!ごめんさない!強がってました!カッコつけました!
ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!」
そんな中でもお構いなしに獣の群れは襲いくる。
そして、当然始まってしまった計画を今更誰も止めてはくれない。
「それじゃそろそろ始めよっか♡」
「ん?分かった?よ」
ヤリスの暗唱が始まる。
それは進行するたびに天を覆い隠すほどの霧を発生させ、終いには1m先が見えないほどの超高濃度な霧を形成した。
「や、ヤリス!怖い怖い怖い!」
ヤリスの魔法で目の前が見えなくなり、獣が雄を求める声が霧により反響しながら四方から響き渡る状況が形成された。
「魔女ちゃん、よろしく〜♡」
「ん〜、よいしょ?」
ぎゅきゅいいんんん!
硬いものが擦れる様な大きな音ともに、先ほどまで展開されていた霧魔法が小さな球体状に凝縮されてやがて弾け飛んだ!
…し、失敗?
「ヤリス、お前—」
ヤリスへ文句をぶちまける前に俺は異変に気づいた。
「グガガ、ドコニイル。」
「雄ガイナイ。ナゼダ。」
もうすぐそこまで獣達は来ている。
俺からはしっかり見えているのに何でだ?
「成功?よかった?かな」
「最高よ、魔女ちゃん♡」
「さすがですねヤリス殿。前列の敵のみとはいえ、あれだけの数の敵に認識阻害を与えるとは。本当に、味方でよかった。」
「次?よろしくでいいよね?」
「はい!お任せを!」
シエラはノルンの元に歩み寄り手をそっと差し出すと、ノルンもそれに応える様に手を握った。
「団長ちゃん、始めるよ。」
「はい。」
ノルンは大きく息を吸った。
「ちゅうもーーーーーくぅ!!!」
ノルンの声は風に乗り、敵軍勢が怯むほどの大声で伝わった。
「ノルン様、もう少しボリュームをお下げください…。」
「ありゃりゃ?ごめんごめん♡」
シエラの魔法属性は振動だ。その能力を利用して、ノルンな発した声の振動を増幅したようだ。
手を重ねたのは、より揺れをコントロールしやいとかなんとか
「それじゃ、改めて獣ちゃん達に挨拶ね〜♡
私の名前はノルンちゃん♡
皇帝のシャルの従姉妹で〜す♡
どう?驚いてる??
そんな私からキミたちに提案だよ!
今ね、キミらが欲しくて欲しくてたまらないひかるちゃんを隠しちゃいました!
欲しければ、まずはそっちの偉い人とお話がしたいかな〜?
考えておいてね!以上解散!♡」
なんつーデタラメな演説…。
でも敵が明らかに動揺してるな。
—王国軍 拠点基地にて
「報告デス!」
獣王ガルムスの元に慌てふためく伝令が駆け込んできた。
「ナンダ、騒シイゾ」
伝令はひかるのこと、ノルンの演説のことを端的に説明した。
「なるほど、これは一本取られましたね。」
「本当ニ雄ガ、イタトハナ。」
「あら、私の言ったこと信用してなかったですか?」
「ワタシハ、見エル物シカ信ジナイ」
「そうですか。あら、このコーヒーおいしいっ。」
設置されている簡易テーブルには肉をメインにしたフルコースが並ぶ。
「応じましょう。」
「敵ノ手ニ、ノルノカ」
「ひかるさんを隠したのは間違えなく霧の魔女です。何を考えているのか分かりませんが、彼女が深く関わるこの現状はスルーすべきですね。」
「…分カッタ。」
「ありがとうございます。さーて、忙しくなりそうですね。」
—同刻 アーナム城砦にて
どんどん、軍が引いてくぞ!
うまくやったのか!
「おーい!元気かー!!」
敵が見えなくなると城壁からティナが飛び降りてきて俺の前に着地した。
「今外してやるからな!」
ザッザッ!
俺を縛っていた紐がティナの爪で切れると俺は1人では立ってられずに、ティナにもたれかかった。
「うわゎ!なんなのさ!は、恥ずかしいぞ!」
「うぅぅ…。怖かったよ…。獣人…怖いよ…。」
「ははは…私も獣人なのさ。というか—」
くんくんくん
「…お前もしかして」
「…。」
俺の下半身は恐怖のあまりガクガクを震えていた。
あらゆる力が抜けて、立つこともままならない俺の下半身は中心から扇状にずぶ濡れになっていた。
「…私はこの臭い、意外と嫌いじゃない…ぞ?」
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