第11話 白への執着

「魔女よ、その後薬の結果はどうだ?」


ヤリスはシャルティアの執務室に呼ばれていた。


「うーん、まあ結構いい感じかな?服用した子の0.01%くらいだけどね、しっかり子供に恵まれたかな?」


「ふむ。少し確率が低い気もしなくはないが、まあよいじゃろう。」


「手厳しい?ね。あと、ちょっとだけ問題かな?」


シャルティアはその問題を耳にするなり、謁見の間に人を集めるよう指示を出した。


「皆のもの、手短に話すぞ」


爵位を持つ家の代表者がずらりと参加したこの会議はなんというか堅苦しくって何となく居心地がよくない。


しかも何人かは俺を舐め回すように見てくるのはいいんだけど、シャルティア達に比べたら正直そそらない。


「先日、魔女が作った薬を持ち逃げした者が現れた」


凛々しく佇んでいた令嬢達に動揺がはしる。


「まあ驚くのも無理はないのう。しかも、それを盗んだのが裁判長補佐官のメリシアときた。あのくそ真面目女がこんな大それたことをするとはのう。」


「なあ、メリシアって誰だ?」


「とても優秀な方ですよ。ヤリス殿の裁判の際にもいらしたとか。えーと、そうですね、眼鏡をかけていつも髪を一つに纏めていますね」


あー、あの罪状読み上げてた人か。

確かに真面目そうな人だった気がする。


「それでじゃ。あやつが盗みおった薬は厄介なことに獣王国の手に渡ったようじゃ。」


さも、みんなご承知のみたいな言い方だがよくわからん。

何でみんなこんなに慌ててんだ?


「ということで、対策本部を建てることとする。メンバーは、シエラ、魔女、ひかる、それに獣人であるティナにも入ってもらう。それ以外のものには追って必要に応じて召集をかけよう。以上じゃ。」


疑問だらけの会議が終了し、名前を呼ばれた俺たちのみが残された。


「なっ!なっ!全然わからないのさ!またお前なんかしたのか!?」


「してねえよアホ狐!まあ俺もよくわかんねえし、シャルティアに色々聞きたいのは俺もなんだけどな。」


「まあそうであろう。おぬしの反応をちょこちょこ見ておったが、まるで頭に入っておらんかったようじゃしな…。」


「前置きはいらねえよ。」


シャルティアはくすっとイタズラっぽく笑った。


「まず薬のことじゃ。あれは失敗品じゃ。」


「ひどい?と思うよ?あれは失敗じゃなくてね、効果がありすぎただけだよ?」


「吐かせ。誰が“狂騒薬”なんぞを作れといった。」


狂騒薬?

ゲームとかで出てくるような一時的にパワーアップするような薬のことかな。


「まあね?気づかなかったのは私の落ち度かな?まあ身体能力も魔力量も少ない庶民?の娘達が治験代欲しさに服用しただけだし。それじゃなかなか気づかないかな?」


「確かにそうですね。元々の魔力量の少ない方の魔力量が例え倍になっても1が2になったくらいじゃ本人すら気付きませんね。」


「なるほどのう。はて、困ったものじゃ。」


薬の効果もそうだが、まだ治験段階って方も結構驚いた。


もうばばばーっと世界中が妊娠祭りなのかと思ってたぜ。


「なるほどなー。ってか別に体に害があるわけではないんだよな?それなのに、お前らは服用してないんだな。」


一瞬で空気が凍りつくのが分かった。


「ま、まあ私は騎士団長としての責務がありますから…。」


「私も特別なことはないのさ!本当なのだ!!」


「まあワシもそうじゃのう、皇帝は慎重なのじゃよ…。」


明らかにみんなの様子がおかしい。


「みんな嘘?はよくないと思うよ?あったかい?のが欲しいんでしょう?」


ズルっ!


「きゃぁああ!!ヤリス殿!な、な、なんてことを!」


「うぅ〜。うぅぅ〜うがー!もう我慢できないのさー!」


ヤリスによってあらわになったムスコに目を血走らせたティム。

そして、ティムの暴走を止めようとするシエラに、なにやらぶつぶつ呟いているシャルティア。


「ひかるのひかるじゃ。ひかるのひかるがおるのじゃ—」


何をぶつぶついっているのか分からないがまともな精神状態ではないのはわかった。


「というか、私はもうひかるの白いの?をいただいたんだし、今更我慢する必要ないような気もするけどね?」


「だ、だ、ダメじゃ!ワシがこんなに我慢をしていると言うのに—」


後半もじょもじょってして聞こえなかった。

なんだか今日のシャルティアは歯切れが悪いな。


「そんなことよりじゃ!本題に戻るぞ!」


発情モードのティナがヤリスの手によって眠らされるとようやく本題に戻った。


「なんか、ティナ…いつもすまん。」


「何ぶつぶつ言っとるのじゃひかる。


…ゴホン。


まあ薬の効果は先程の通りじゃ。それを獣王国が持つと言うことじゃが—」


シャルティアによると、獣王国は何百年もの間帝国との小競り合いを重ねてる国らしく、帝国が奴隷制を行っていた時なんかは特にひどいもんだったらしい。


シャルティアの先祖によって奴隷制が廃止された今も遺恨は残ってるようで逆に人間を攫っては奴隷として飼い慣らしているようだ。


そして何よりも厄介なのは、圧倒的な身体能力とそれをさらに高める身体強化系魔法の数々。


「まあね?あの薬はとくにね、身体強化系に相性はいい薬だね?」


「そうですね、私のような魔法剣士にも有効でしょう。しかし、陛下のような繊細な魔法操作が必要とされる方には狂騒による集中力低下は致命的でしょう。」


「なるほどな、向き不向きがあって、獣人には超向いてるということだな。」


「そういうこと?かな?」


まったく、俺の遺伝子どこまでいきやがるんだ。


「ありゃりゃ?また私抜きで面白そうなことしてたりするのかな?♡」


「うおっ!びっくりした!」


この世界の女は男の背後に回るのがどうも好きなようだ。


「今度はなんなんだよ!ノルン!」


「ありゃりゃ?私の名前覚えててくれたのね♡いいこいいこ〜♡」


「子供じゃねえんだ!頭撫でるな!」


どうして全然嫌じゃなかったが、シャルティアの手前強がってしまった。やめないでくれるかな?


「それで何用じゃ」


「だから怖いってシャル〜♡私もいい考えがあったから来たのに〜♡」


「考えじゃと?」


「興味ある?」


「うむむ…。」


どうやらシャルティアはノルンへの苦手意識はあるものの、無下にはできない何かがノルンにはあるようだ。


「あの国って要するに力自慢のアホ猫ちゃん達がいーっぱいいるからかったるいってことだよね?

それならあいつらが有利にならない方法で戦えばいいだけだよ♡」


「アホ猫って…。まあしかし、その様な方法があるのですか?」


「シエラちゃん、軍を指揮するならこれくらいわからないと♡つまり1体1のバトルにしちゃえばいいってことじゃない♡」


なるほど、確かにノエルの言う通りだが。

しかしそれは…。


「どのようにしてその状況を作るつもりじゃ?やつらは常に群れで行動する習性があるのじゃぞ?」


「キャハ♡そーれーは—」


カシャリ…


俺の両腕にはいつの間にか手錠がかけられていた。


「ひかるちゃんをおとりにしちゃえばいーの♡」


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