第8話 割り込み裁判②

開廷すると、最初に裁判官の1人が何の罪なのか概要を話し始めた。


「以上です。」


「ゴホン、それでは弁護人。今の内容に対して異議はあるか?」


ん?弁護人?そんな人さっきまでいなかったような…って!?


「や、ヤリスは悪くないのさ!いい娘なのさ!今回のことも…そう、久々の雄に興奮しただけ!決してやましいことではないのさ!」


…ああ、これはだめだ。


「以上かね?」


案の定裁判長からの心証は悪そうだな。


「では、今の証言に対して異議を申し立てよう」


何故か裁判長が検事役を始めた。


これ誰がどう見ても出来レースだなこりゃ。


さて…どうするものか…。


「だーかーらー!ヤリスはすごいのだ!罠も武器もなしに狩りができるのさ!どうだ!すごいだろ!」


うん、やっぱり俺がシャルティアにお願いするしか—


「ありゃりゃ?なんか面白そうなことしてるー?」


俺が腰をあげようとした瞬間、入り口の扉が開き、女が現れた。


「はぁ、ノルンか。何用じゃ?」


「キャハ♡そんな怖い顔しないでシャル〜。ちょーっと面白そうなことしてるな〜って思って♡」


ノルンとかいうやつはカツカツとヒールの音を響かせながら部屋へと入ってきた。


「話は聞いてるよ、シャル♡男の子現れたんだって〜?えーっと、男の子さんは…キミだ!」


今まで法廷のど真ん中に立ってたはずのノルンにいつの間にか俺はバックハグをされている。


「う、うわ!びっくりしたぁ!」


「ふ〜ん、男の子なのに可愛い顔してるのね♡」


ぺろっ。


「ひぃい!」


「おい、ノルン!その男から離れるのじゃ!」


「ありゃりゃ?可愛い反応♡首筋が弱いのかな?ねえ?どうなのかな?」


ザザザザザァ!


「ありゃ?死霊ちゃん達なんて出して、危ないじゃない?」


俺とノルンを囲む形で死霊騎士が刃を向けた。


「シャルティア?俺も死にたくないんで剣を納めてくれねえかな??」


その言葉にシャルティアは血走っていた目を閉じて死霊達を下げた。


「答えるのじゃ。なぜぬしがここに来た。」


「そんなの決まってるじゃない♡この子はシャルちゃんだけのものじゃないよ〜?って伝えにきてあげたの♡」


シャルティアはバツの悪そうな顔を浮かべる。


「いや、これは俺が決めたことだし。君に何か言われる筋合いは—」


シャィイン


ノルンの右腕が鎌状の刃物に変化し、俺の喉元に襲いかかってきた。


「きみもしかしてなーんにも聞いてないの?」


「な、何のことだよ。」


ノルンがシャルティアの方をチラリと見るとシャルティアは目を逸らす。


「ひどいねえ、シャル?♡」


ノルンが説明を始めようとすると、シャルティアはそれを制した。


「ノルン、よい。ワシから話をする。」


そう言うとシャルティアは俺の目の前へと飛び降りてきて魔力の結界を展開して、俺ら3人以外には声が聞こえないように配慮した。


「おぬしに最初に出会ったとき、ワシはお告げの話をしたじゃろ?あれには続きがあるのじゃ。」


シャルティアは少し間をおき、また話を進める。


「生を繋ぐものに選ばれしものにはその意思を身体に刻み込まれる。意思はやがてその子らへと受け継がれ、永遠の繁栄をもたらすであろう。」


シャルティアの話の1割も理解できていないことだけは理解できた。


つまり、俺が選んだ相手に俺の意思が引き継がれるってこと?


「シャルティア?つまりどうゆうこと?」


「はぁ、まあつまりだ。おぬしの精液を見に取り込んだものの心体は変化、いや進化を遂げることができるのじゃ。」


「そーゆーこと♡きみの体ってね、ある意味特別なんだよ?何の魔力も宿すことのない肉体なんてあり得ないもの♡そんなキミの遺伝子が私たちの体内に入るとね、体内の魔力回路の流れに変化を与えちゃってね、全くの新種回路を形成しちゃうってわけ♡どう?面白いでしょ?」


「面白いかどうかはともかく、そういうことじゃ。ちなみこの事実を知るものは限りある。お告げを知るものは少なくとも貴族階級、またはそれに準ずるものにしか伝えとらんからのう。他言をするでないぞ、おぬしの命のためにもな。」


なるほど、少し理解できた。

ノルンは俺のこの力を欲している、もしくは広めたがっている。

シャルティアはそれを妨害し俺を守ってくれてるといったところか。


「シャルティア、ありがとうな。」


「なぁっ!そ、そんな礼などいらぬ!」


「は〜い、イチャイチャしな〜いの。ていうか、そろそろこの結界とかない?あつ〜い。」


結界が消滅すると、シャルティアは従者達や裁判官達に立ち去るように言い、ティナやヤリスを含む5人だけ残った。


「な、何がなんなのさ!」


「ん〜、私拘束されるのそろそろ飽きてきちゃったかも?」


「は〜い、おふたりの話は後ね〜♡今からこの男の子…ひかるちゃんだっけ?が今後どうあるべきかお話し合いするよ〜♡」


ティナもヤリスはポカーンとしていたが、ほか2人にとってはお構いなしのようだ。


「ノルン、おぬしの考えを聞いてやろう。だが、おぬしは些か言葉を選ばなすぎる。慎重に話をすることじゃ。」


「こわいこわい♡じゃあ、言うけど、なんでシャルはひかるちゃんを独り占めしてるのかな?ひかるちゃんはこの世界の救世主。誰のものにもしちゃいけないよ?」


「そ、それは…!こやつを守るためじゃ!こやつの意思に反き、乱暴を働く者があるかもしれん!現にあの魔女はこやつを…!」


「本当にそれだけ?」


「そ、それだけじゃ!」


「ふ〜ん」


美少女2人が取り合ってくれてるようでオトコ冥利に限るがちと雰囲気が怪しくなってきたな。


「それだけね?それだけだったらさぁ、ひかるくんが認めた子ならひかるくんの意思でまぐわってもいいんじゃないかな?♡」


今この戦いはノルンに勝利の風が吹いている。

俺はそう信じることにした。


「だめじゃだめじゃ!」


「シャル?わがままはダメよ?」


「いやじゃ!こやつは…ひかるはワシの婿なのじゃ!」


「シャルティア…。何でそこまで…。」


「はーい、それ私も聞きた〜い♡そんな会ったばかりで好きになるものなのかな〜?」


「うるさいっ!…ひかるが初めてじゃったのだ。」


「初めて?」


「そうじゃ、ワシを皇帝として、ネクロマンサーとして偏見を持たずにワシをひとりの人として見てくれたのじゃ…。


初めてだったのじゃ…。


ワシの顔色を伺わず、ワシの行動を正そうとしてくれたやつは…。


こやつは…。ひかるはワシの婿なのじゃ!」


堪えていた涙が溢れ出すと、シャルティアはそのまま膝をついてしまった。


「ありゃりゃ?これはちと虐めすぎたかな♡でもね、シャル。実際問題この世界か〜なりやばいし、こうしてる間にもバンバン子供増やさないとまずいんだよね〜。」


シャルティアの涙を見るのは2度目だ。

本当に感情が豊かな娘なんだろうな。


「シャルティア、もう泣くなって。」


「うぐぅ…。誰のせいじゃ…。」


目をごしごしと拭うシャルティアはどう見たって普通のめちゃくちゃ可愛い女の子だ。


「シャルティア、俺はどこにも行かない。お前は俺の嫁なんだろ?ずっと一緒にいるよ。」


シャルティアの瞳から流れる涙は冠水し、ぽたぽたと地面を湿らせた。


「だから泣くなって!…ったく。」


大事にしよう。

この子だけは俺が支えないと。



「は〜い、イチャイチャしな〜い。これで2度目ね〜♡」


「痛てぇ!!腕がぁ!変な方向曲がっちゃってるからぁ!」


「あとでノルンちゃんが看病してあげるから♡」


「加害者に看病されたかねえわ!」


「それで結局どうなのさ!どうなるのさ!」


「そうよね、ビーストちゃん♡こんなイチャイチャでごまかされちゃだめよね?」


ノルンの視線はシャルティアに向けられたが、シャルティアもまたノルンを見ていた。


「分かっておる。これはワシのわがままじゃ。世界のため、一国家を治めるものとして、ひかるの子作りに全面的に協力すると誓おう。」


「わたし、無罪?」


「そうよ魔女さん、良かったわね♡まああなたは有罪になろうがどうせ殺せないし、国外追放程度だったろうけどね♡」


「万歳なのさ!勝利なのさー!」


とりあえず一見落着—


ガシッ


シャルティアのたわわな胸が俺の腕を包み込む。


「でも、正妻はわしじゃ!それだけは譲らないのじゃ!良いなひかる!…良・い・な!?」



力強い言葉と潤んで不安気な瞳のミスマッチ感が何とも言えない色気を醸し出していて、気づいた時には俺はシャルティアの唇を奪っていた

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