第5話 家族
「陛下…。」
悲しげな表情を浮かべるシエラのもとにジリジリと死霊どもが迫ってくる。
「ま、魔法!?くそ!この世界なんでもありかよ!」
「ワシはネクロマンサーじゃよ。子を生すことの出来ぬこの世で便利な能力じゃろ?」
「相変わらず下品?ですね。」
「なっ!?」
突如シャルティアの背後に現れたヤリスに動揺したシャルティアは、入り口の死霊どもの方へと一足飛びで着地した。
「そちらも相変わらずせせこましい戦い方やのう、霧の魔女さんや。」
やはり2人は知り合いのようだ。
まああまり良好な仲とは言えないだろうけど…。
「んで、お前は俺の後ろでなにしてんだ?」
「うるさいなよお前!皇帝の死霊に物理攻撃は効かないのさ!私の牙も爪も歯が立たない…、死ぬしかないのさぁ!」
「いや、そういうことじゃなくて、なぜ俺の足に肩擦り付けてる?」
「しょうがないだろ!ワービーストは昔からめぼしいオスを見つけると尻の匂いをそのオスにつける習性があるとはなんとかで…。とにかく、これは別にしたくてしてる訳じゃないのさ!」
「へーっ。」
そんな事をしている間に死霊は刻一刻と迫ってきた。
ヤリスに至ってはすでに死霊との交戦を始めている!
「おい!逃げ道探すぞ!早くしろケモノっ娘!」
「ちょちょ!なんであんたまで逃げるのさ!皇帝の狙いは私たちなのよ!」
「はぁ?!見捨てられる訳ねえだろ!余計なこと言ってねえで逃げ出す方法考えんだよ!」
「お前…。分かった、協力頼むのだ!」
「よしきた!そんじゃどうする。お前なんか考えあるか?」
「うん、その前にあの子どうするのさ?」
誰も見ぬうちに死霊に囲まれたシエラは剣も振るわず両手を重ね、天へと祈りを捧げている。
「ば、ばか!なに天に召されようとしてやがる!」
くそっ、間に合え!
シエラに向けて懸命に駆ける。
「お前!危ないのだ!」
俺は死霊騎士の振りおろす刃とシエラとの間に割り込んでしまった。
ジュワワァ!!
思い切り閉じていた瞳をゆっくりと開けると、先ほどまでの死霊騎士は霧散し、代わりにシャルティアの口づけが待っていた。
「ん〜〜。…ぷはっ!」
シャルティアはわざとらしく下唇を舌でぺろりとしてみせた。
「これが“男”とのキス…。格別じゃ。」
意味深な言い回しに突っ込む余裕もなかった。
目の前で見るシャルティナの深い瞳に飲み込まれ、このままどこまでもその深みへと沈んでいきたいと願ってしまっていた。
「おい!ひかる殿!平気か!?」
シエラの声に引き戻された俺は周りを見渡すと全ての死霊が消え去っていることに気がついた。
「それにしてもひかる?あれはなんの真似じゃ?」
シャルティアは本当に不思議そうに言っている。
これが常識なのか?
間違っているだろ、こんなの。
俺は、シャルティアの両肩をぎゅっと掴んだ。
「きゃっ!何をする気じゃ??」
「…。」
「な、なんじゃ?」
「シャルティア、俺はあんたのモノにはなれねえ。いや、なりたくねえわ。」
シャルティアはキリッと上がった瞳をまん丸くした。
「ど、どうしてじゃ?ぬしは先ほど良いともうしたではないか?」
「嫌なんだよ。」
「な、なぜじゃ…。なぜじゃ!」
「なんで分かんねえんだよ!」
掴んだ肩を大きく揺さぶるとシャルティアは俯いた。
「…。」
シャルティアは黙り込んでしまった。
「シャルティア?」
返事はない。
「おーい、シャルティアさん?」
「ぢゃやぁじゃぁあああ!【略:嫌じゃ】」
シャルティアはお菓子コーナーにいる駄々っ子のように床を転げ回り、訳のわからん雄叫びをあげている。
「ちょっ!そこまで泣かなくても…!?」
そうしてシャルティアをそれっぽい言葉で慰めること30分が経ち、ようやくまともに話ができるようになった。
俺は今度はあまり角が立たない言い回しを選んで、俺がなぜシャルティアと一緒にいらないのかを順序立てて説明した。
「それでな、シャルティア。俺は誰かが死ぬとか殺すとか殺されるとか、そういうのは嫌なんだよ。分かってくれる?」
「…うん。分かったのじゃ。」
「ふぅ、ありがとうな。」
「でも嫌なものは嫌なのじゃ。」
はぁ、全然分かってないご様子で…。
「そもそもなんで殺そうとしたの?」
「いやいや、お前それはないのだ、ひどいのだ。」
殺されかけた側のティナが何故かシャルティアを庇っている。
それに呼応するかのようにシャルティアが頬を膨らませ、俺の方をじっと見つけてきた。
「言わなきゃ分からぬのかこのアホ!」
そう言うとシャルティアはゆっくりと俺の胸へと頭を寄せて、トンっと額を充てた。
「ぬしが他の者に触れられるのが嫌じゃからじゃ」
「いやいや、まだ会ったばかりでそれは…。」
「恋愛?は突然にじゃない?」
ヤリスも納得かよ…。
てかこの世界の人たち男の免疫無さすぎるな。
「まあ、分かったよ。シャルティアの気持ちは嬉しいし、もうこんなことしないって約束してくれるなら一緒にいよ。」
「こ、子作りしてくれるのかえ!?」
「ま、まあそういうことだ。」
憧れのハーレムって訳じゃないが、こんな可愛い子とそう言う関係になれたのか…。
こうして俺は皇族の仲間入りを果たし、元の世界でいうところの王妃?みたいな感じでシャルティアを陰で支える感じになった。
シャルティアに襲われた3人はその後お咎めなしだが、ヤリスとティナは俺のことを知りすぎたために城の外へと返すわけにはいかないと、そのまま場内の適当な仕事につかされることになるようだ。
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