第4話 結合された魂は幻想なのか

魂と魂が、光の速度で衝突し、一つの魂に融合する。一つの魂に融合するとは、何とも甘美な響きである。

(自分には、そんな魂を結合できるような異性と会えるのだろうか。)甲裁判官は、ふと思う。

 生殖行為とは、生物の本能的な行動であり、言わば、睡眠、食事と同様な活動である。生物は、当然ながら、特定の異性とのみ生殖活動を行うような、肉体的構造にはなっていない。他の生物もそうであるが、不特定多数との生殖行為が行い得ることを前提としている。

 人類の誕生は、およそ600万年前である。当時の人類は、多種多様の他の生物との間での、生存競争に晒されていた。その頃、人類は、生存競争に勝ち抜くために、結婚制度を取り入れていたか。恐らく否であろう。多くの生物がそうであったように、生存競争に勝ち抜くため、人類も又より良いパートナーを求めて他の異性に試行錯誤していたであろう。

 約600万年もの間、比較的ゆるやかな多数間での生殖行為が行われていたところ、現在の少なくとも日本の結婚制度はこの長期に亘る生物学的な慣習を、否定した。そもそも、結婚制度が出来たのは、いつなのであろうか。今の、日本の民法は明治時代に成立したもので、まだ100年程度しか実践されていない。現在の結婚制度が上手く行っているのか。甲を含め、婚姻しない男女は増えているし、少子化問題も切実な問題として取り上げられている。生殖という、極めて本能的な行為に関して、自由を許さないという考えてみればかなり厳しい制限の、社会的な妥当性は、歴史的な根拠を持つには至っていない。

 

 近年は、ジェンダーレス社会でもなる。同性同士のパートナーを認める法律も、そのうち出来るであろう。そこで、もし、例えば女性同士のパートナーシップを結んだ者のうち、一人が、男性との間で不貞行為を行った場合、これは、離婚原因となるのか。

 

 ふと、時計を見ると、1時を過ぎている。甲裁判官は、今月中に処理されねばならない案件が、まだ30件以上ある。思案をする余裕はない、この件は、次回に証拠調べであるが、それに備えて争点整理を手短にして寝よう。

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