第3話 魂と魂の結合

当然のことながら、一方で個人の「身体の自由」を認めながら、他方で夫婦間の「不貞行為による身体の自由の制限」という矛盾は、近代の法学者も頭を悩ませた。

甲裁判官は、学生時代をぼんやり思い出す。

「結婚とは、魂と魂の結合である・・・。」ヨーロッパの法学者の論文の結論だ。


理屈は、こうだ。人は、自分の体は自由にできる。他人の体は自由にできない。では、自分と他人が同一人格となればどうか。当然他人の体と自分の体は同一なものと同視できるから、自分の体と同様に、他人の体にも口出しできる。


彼の偉大なる歌人剛田武曰く、「俺のものは、俺のもの。お前のものも俺のもの。」だ。

どうすれば、同一人格となれるか。その答えは結婚だ。


「・・・結婚とは、両当事者の魂(SOUL)が、それぞれ惹かれ合い、片方が片方へ、お互い地の果てから、あたかも光の速さで接近、衝突し、結合する。そして、二つの魂が一体となり、結果、その一個の魂は、互いの体に義務を課すことが出来、拘束し得る・・・」


この、理屈がどうであれ、当時は妙に納得した。魂と魂の結合により、お互い人格が統合され、そのため本来不可侵な筈の第三者の身体を支配できる。なぜならばその体は、自分の魂の分身のようなものであるから。


しかしながら、現実社会において、魂と魂を光の速度で衝突させて、同一の魂とするような、男女関係を構築した夫婦などいるのであろうか。

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