15

「先生、ほんと優しい。好きです!」


思わず口からこぼれたもう何度目かわからない告白に、梶先生は初めて笑って答えてくれた。


「ははっ、いつもありがとう。真帆さん」


びっくりして顔が一気に真っ赤になった。そんな私を見て、逆に梶先生が驚いた顔をする。


「どうしました?」


「いや、あの、名前で呼んでくれたので」


だって今まで一度だって名前で呼んでくれたことはなかった。いつも“杉浦さん”って、名字だったのに。

すごく、嬉しい。


「名前を呼んだけでそんな反応されると、こちらが恥ずかしくなりますよ」


先生は困ったように眉を下げた。

私はぐっと拳を握って気合いを入れると立ち上がった。


「先生、私、学生生活頑張ります。今は相手にしてもらえないかもしれないけど、立派な大人になって、絶対先生を振り向かせてみせます!とりあえず修学旅行楽しみます。先生ありがとうございます!」


早口で捲し立てるように宣言をすると、私はその場から逃げるように立ち去った。恥ずかしさと緊張でどうにかなってしまいそうだったからだ。


「……まいったな」


口元を押さえてため息が出た。

ストレートな気持ちは何だかむず痒い。

去っていく彼女には聞こえていないだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る