scene.50 悪役を邪魔する者 Ⅳ
「おーーーーほほほほ!すぐにわかりましたわ!」
いやわかってねぇだろ。
マリアにありもしない事を言われて煽られたシャーロットは口をパクパクと開きながら全身を真っ赤にして怒りで言葉を失っていた。さすがはカラドリアの女だ。相手の怒らせ方までしっかり熟知していらっしゃる。
「であれば!最初に言うべき事は1つ!お身体は大丈夫ですか?ですわ!」
何の話だ?
マリアの思考は結構ぶっ飛んでいる所があるから、話を端折られるとよくわからなくなる。
「ええ、ええ、当然知っておりますわ。貴女方がリリィに暴言を吐いてオーリーに怒られたことなど。馬鹿な事をしましたわね。本当に今のグリフィアの為を思っているのなら、多少血が劣っていようとも、多少教育が行き届いていなくとも専属の側仕えなど許容すべきですもの。むしろ1人では足りないくらいですわ。それを貴女……嫉妬で当たるなど馬鹿な女ですわ!おーーーほほほほほ!」
俺は側仕えなんてそもそも要らないけどな。
リリィに衣食住を提供できて冒険に専念できるからそうしているだけで
俺はラーガル王国を捨てるつもりではあるが、だからと言って主人公やヒロインが死ねばいいとは思っているわけではないし、この国に滅んで欲しいわけでもない。というか主人公とヒロインに頑張ってもらわないと|最悪の場合(・・・・・)|世界が終わる(・・・・・・)しな。
そういう意味ではカラドリアとラーガルにはもう少し仲良くしていて欲しいのだが……
マリアが煽りすぎたせいで、シャーロットの顔は火が出そうなくらいに赤い。
目はぐるぐると焦点が定まらず、怒りで血管が切れたんじゃないだろうな……死なれるのはまずいぞ。
「その点、私は問題ございませんわ!専属側仕えの10人や20人!側室の10人や20人!好きなだけ受け入れますわ!なんでしたら私がその者達のお世話をしてあげてもいいですわ!だってそうでしょう?所詮その者は側仕えであり側室、オーリーの1番の席に座り続けられるのなら安いもののですもの!おーーーほほほほほほ!」
マリアが得意げに何かを話しているがそんなものは耳に入ってこなかった、
それよりも……
「むううううううう!!!!!!むうう!!!」
シャーロットに口を押さえられているケルシーがいよいよもってヤバイ顔をしながら何かを叫んでいる姿が強烈過ぎて、マリアの話どころではなかった。
ゲームの序盤では無口なクールビューティー、中盤以降主人公と仲良くなってからはおしゃべりが大好きな頼りになる年上ヒロインだったのだが……なんだアレは……猛獣か?あの子には近寄らない方が良いな
「あらあら王女様、顔色が優れませんわね?私わかってしまいましたわ……貴女が最初に言おうとしていた言葉は叱責や注意などではなく、3ヵ月ぶりに会ったリリィへの謝罪だったのではないかしら?おーほほほほ!オーリーの隣にいる私を見て正気を保てなくなってしまいましたのね?お可愛い事!」
隣にはリリィも居ただろ。
それにシャーロットが怒ったのはお前が俺の隣に居たからではなく、髪を適当に切って身嗜みを整えていなかったり、言葉遣いが悪かったからだ。ラーガル、アトワラス、グリフィアはこの国の中核だ。その一角が適当な事をしていたら王家としては見過ごせない、それだけだ。
「それとも本当に?本当にこの程度の事でオーリーを責めたのでしたら……王女様は私の敵にはなり得ないですわね。安心致しました……その程度のお気持ちで。おーーーーほほほほ!」
「いいいいいい、いわ、言わせておけば!!!」
怒り過ぎて血管が切れたのかどうかはわからないが、シャーロットは真っ赤な身体をフラフラとさせながらようやく言い返すために言葉をあげた
「わ!わたしだって!!わ!私は!王族だから!貴女みたいな女と背負っているものが違うのよ!!!」
「はあ?そうですの……それはお気の毒ですわね。では、オーリーは私に任せてお国の為に頑張ってくださいまし……王女様。」
ラーガルの王女を前に耳をほじりながら適当に会話が出来る子供は世界広しといえコイツだけだろうな。
わなわなと震えるシャーロット王女が結局何をしに来たのかはわからなかったが、そこまでだった。
それ以上は何も言わなくなってしまった……のだが……
「薄汚い雌兎め!!!オーランド様からはっなっれっろぉおぉおお!!!」
力が緩んだシャーロットから解き放たれた猛獣がマリア目掛けて突進してきた。
やべぇよ……なんだよあの顔!どうしたんだよケルシー!
マデリンはカラドリア商会までアイリを送り届けている最中で居ない、グレゴリー先生は!?いないな。遠巻きに見ている使用人はいるがダメだ、どうにもならない。
マリアに向かって凄まじい勢いで突進してくるケルシー=アトワラス
何に対してそこまで怒っているのかはわからないが、彼女がマリアに向ける殺気は本物だ。俺には気配だの殺気だのはまだまだピンと来ないが、今はわかる。このまま突進したらケルシーはマリアを殺すかもしれない。
それはダメよな……
俺だってあんな生き物は怖い…だけど仕方ない……
「ケルシー落ちついてくれ」
何かしらのヤバイ魔術による攻撃も考慮し<纏(まとい)>を発動してマリアの前に身体を滑り込ました。
そうして次の瞬間に来るであろう敵性魔術の衝撃に備えたのだが……
「オーランドさまぁ!」
先程までの形相が嘘のように、優しい表情のケルシーが俺の身体に抱きついてきた。
「ケ、ケルシー……大丈夫か?何があった?」
「お久しぶりでございます、オーランド様!」
「お、おう。どうした?」
抱きついてきたケルシーは頬ずりまでしてきたが…
なんだ?何があったんだ?
「この3ヵ月、オーランド様と話せぬことが毒となり我が身を蝕みました」
「そんな毒聞いたことねぇよ!!ちょ、いいから離れろって!」
「はい!」
つい先程までの様子から、もはやケルシー=アトワラスが人語を理解することはできないだろうと考えていたが、意外にも命令すればすんなりと離れてくれた。よかった。まだ辛うじて人だったようだな。
「そんで、実際の所何があったんだ?何しに来た?俺がリリィを庇ったから怒ってたんだろ?」
人の言葉がわかるのならと、一応質問をしてみることにした
そもそも何をしに来たのかがわからないからな。
「え?いえいえ、私もロティーもそんなことで怒ったりしておりませんよ」
「ん?そうなのか?じゃあお茶会とか手紙がなくなったのはなんでだ?てっきり平民の味方をした俺を2人が見限ったんだとばかり思ってたんだが……」
どういうことだ?
「そんなまさか!あれはロティーが悪いですもの!それに私は何も言ってないではないですか!そこの娘を側仕えにするのであれば好きにしてもいいとおもってます!でも、ロティーが酷いことをいってしまって、オーランド様が怒ってしまったので……どう謝ればいいものかと……」
確かに、あの日リリィに臭いだのなんだの言ってたのはシャーロットだけだが……
「いやいや、俺も別に怒ってないよ。あの時はシャーロットが言い過ぎていたから一度止めようと庇っただけで、」
「まあ!ロティー!ロティー!オーランド様怒って無いですって!もうっ!」
いいながらケルシーは頭から煙を出して座り込んでいるシャーロットの傍に駆けて行った
「もうっ!そんなところで座っていないでこちらに来て下さい!ロティーしっかりしてください!」
そして、シャーロットの腕を引っ張って立ち上がらせていた。
「なにやってんだ?」
「全く……なんなんですの……」
黙ってケルシーと俺の会話をみていたマリアもその様子を見ながら呟いていたが……
「わからんが……まだ死亡フラグは立っていない…のか?」
俺の勘違い?敵対はしていないのか?
「シボウフラグ?」
「あッッ!と……いや、なんでもない。俺の話だ」
ケルシーに連れられてよろよろと歩いて来るシャーロットを見ながら、考える。
シャーロットとケルシーは別に怒ってはいないらしい。
3ヵ月の間2人から一切の連絡がなかった事は気になるが、何か事情があったとか……?
家の用事で忙しかったり10歳だから舞踏会に呼ばれるようになって忙しくなったとかか…?
シャーロットともケルシーともまだ敵対していないのだとすれば、いけるかもしれない!
王家とアトワラスとの敵対……オーランドの死亡フラグがまだ立ってないのだとすれば……
オーランド=グリフィアはとりあえず18歳までは生きられるかもしれない!
準備不足の中、最悪今すぐにでも国外へと逃亡する事も考え始めていたが、時間に猶予が出来た。
当初の計画通り、成人の儀の前日まではここで何食わぬ顔をして生きられるかもしれない!
となれば、俺が取るべき行動は1つだ
「ロティー、ケシー、俺は最初から怒ってなんかいないよ。ただ、リリィの事を悪く言われたから庇っただけなんだ。だけど、髪を切った事や言葉遣いが荒くなっていたことは謝罪いたします。本当に申し訳ありませんでした」
そう。
俺の取るべき行動は歩いてきた2人の手を取り、跪いて謝罪することだ!
よくわからんが相手が怒ってないって言うんだったらこっちも怒ってない事をアピールして謝罪だ。
ここでの態度を謝って関係修復をすれば俺はシャーロットとケルシーから殺されずに済む!
のだが……
「あらあらオーランド様……随分と沢山の女の子に囲まれておりますね」
俺の後ろから聞こえてきた声は忘れもしない
「フェ、フェリシア!?何故ここに!!」
オーランド=グリフィアの婚約者。
オーランドを憎悪する笑顔の仮面を貼り付けた女、フェリシア=リンドヴルムの声だった。
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