scene.51 悪役を邪魔する者 Ⅴ
「婚約者の私が婚約者の家に居てはいけないのですか?」
「いえいえ!そうは言っていないじゃないですか」
なんだよこの状況、どうなってんだよ。
後ろから、屋敷の方から現れたということは裏口から入ってきたのか…?
わからん……マジでわからん……何がどうしてこうなった……
◇ ◇ ◇
「ケルシー、マリアね………聞いてないんですけど?」
「手紙に書く程のことでもないのかと……思いまして……」
突如、屋敷から現れたフェリシアがあの場を強引に収めた。
口答えする人間はおらず、俺達は引っ張られるようにして応接室に通された。ここ俺の家なんだけど……
「何を手紙に書くかはオーランド様にお任せいたしますが……婚約者である私に一言教えてくれてもよかったのではないですか?こんな……何人もの女を囲って……まさかシャーロット様にまで手をつけているとは思いもよりませんでしたよ」
応接間に通された俺は椅子に座る事も許されず、フェリシアが座る椅子の前で正座させられていた。
ここ……俺の家……じゃなかったっけ、違ったっけ…
「い!いやいや!違います!誤解ですフェリシア!そんなまさか!」
「そ!そうですよフェリシア!私とオーランド、フェリシアは友の誓いを果たしたではありませんか!」
「なんと白々しい…私が王都に居ない事をいいことにオーランド様を独占しようとされたのではないのですか?」
「違うのフェリシア。本当に、私はグリフィアとリンドヴルムと共にど、独占といえばそちらのカラドリアの女のほうが―」
「そうですフェリシア様!私共がオーランド様に会うのは本日が3ヶ月ぶりです!独占と言うのならそこに居る雌兎がそうです!私のオーランド様にべたべたとくっついて……許せるものではありませんでした!」
「アトワラスの……ケルシーと言ったかしら?」
「はい!」
「オーランド様は貴女のものではないわ。私の婚約者よ」
そう言いながら開眼したフェリシアの紫の瞳はあまりにも怖かった。
いつもニコニコ笑顔のヒロインであるフェリシアの眼光は歴戦の猛者のような鋭いものになっていた。
「い!いえ……はい、仰る通り……です」
笑えよフェリシア…お前はオーランドの前ではいつも笑顔のキャラだろ?
お前が開眼するのは物語の後半だろ?お前は笑ってろよ…こえぇよ…
射貫くような視線を浴びせられたケルシーはさっきまでの勢いが消えてしまった。
こっわ……なんだこの状況
なんだこの状況!?
「マリアと言ったかしら、そこの貴女」
「ええ、マリア=カラドリアですわ」
「そうですか……私の婚約者が随分とお世話になったようですね」
「いえいえ、お気にならないでくださいまし。フェリシア様が王都をお留守にされている間、オーリーは私にお任せください。ああ……そうですわ、ずっとリンドヴルムでお過ごしいただいても構いませんわよ?」
「貴女……いい度胸をしているわね。そう。そうですか……オーランド様?貴方の婚約者は誰ですか?」
え?なんで俺に話が来た?
「それはもちろんフェリシア様です。我が敬愛するフェリシア様」
そんなのフェリシアに決まってんじゃん。なんでそんな事を聞くんですか?
「ですって……なんでしたっけ?ああ……オーランド様の遊び相手のマリアさんでしたっけ?うふふふ、私のオーランドがいつもお世話になっておりますね。これからもお遊び相手としてよろしくお願い致しますね?」
「………おほほほ、今はまだ遊び相手ですが―」
いつも高慢で不遜な態度のマリアが何故だか勢いをなくしてきた。
何がどうなっているんだ……
「いいえ?貴女はずっとオーランド様の遊び相手よ?あらあら、私のオーランド様がお優しいから勘違いをしてしまわれたのかしら?お可愛いこと。オーランド様?もう一度言って差し上げてくださいませんか?オーランド様の婚約者は誰ですか?」
フェリシアの紫の瞳が再び俺に向いた……怖い。どうして笑ってないんだ?
「私の婚約者は貴女です。フェリシア=リンドヴルム様です」
まさかもう殺されるのか?
あれはオーランドを断罪する時にフェリシアがしていた瞳だ。一枚絵で見たやつだ!
いやだ……死にたくない……
さっきまで玄関前にいて、
シャーロットとケルシーが押しかけてきて、
マリアとシャーロットが言い争いを初めて、
ケルシーがやべぇ顔をしながら襲い掛かってきたかと思えば勘違いで、
何故か屋敷からフェリシアが出てきて、
俺はリリィと一緒にダンジョンに行こうとしただけなのに……なんでこんなことに……
「もう一度そこに居るマリアさんに言ってあげてはどうですか?」
マリアに言えばいいの?殺さないでくれるんですか?
「マ、マリアさん、私の婚約者はフェリシア=リンドヴルム様です」
「オーランド様?マリアさんはどの様な方なのですか?ご紹介してくださいませんか?」
な、なんなんだよマジで……さっき紹介したじゃん……
「こちらの方はマリア=カラドリア様ですフェリシア様。」
「オーランド様とはどの様な関係なのですか?」
「あ、はい。えっと……友…あ…いえ!はい、いつも遊び相手になってもらって、おります」
どうして笑ってないんだよフェリシア。なんちゅう鋭い眼光してるんだお前……
お前が開眼するのは主人公と出会って自分を知ってからだろ?早いよ、まだ早いって。まだオーランドを殺すのはいくらなんでも早いって!ニコニコしててくれたのむ!俺の事嫌いならそれでいいから、手紙も毎日書くから18歳まで殺さないでください……
「ですって……なんでしたっけ?マリア=カラドリアさん、でしたっけ?オーランド様のお遊びの相手、これからもよろしくお願いしますね?」
「…………」
今マリアはどんな表情をしているんだろうか。俺はそっちを振り返る事はできないが、マリアが黙るなんて相当だな。こいつらは一体なんのやり取りをしていて、俺は一体何を言わされているんだ
「リリィ?」
「はい!」
リリィにまで何か言うのか……
「私がこちらに居ない間は、専属側仕えとしてオーランド様のことをよろしくお願いしますね」
「任せてください!一緒にダンジョンを攻略します!」
「ふふ……そうですか。ですが……オーランド様はお優しい方なので、どうやら悪い虫がすぐに寄って来てしまうようです。オーランド様がお決めになられたのです。専属の貴女がお勤めを果たす事に問題はありませんが……くれぐれも節度を守ってくださいね。」
「お任せください!危険なダンジョンには行きません!」
「ふふ、リリィはいいこね」
「フェリシア様はオーリーの婚約者ですもの!仲良くしましょうね!」
「そうね、オーリーをよろしくね」
なんだ………?
リリィとは仲がいい……のか?
意外だな。シャーロットと同じように躾がなってないとか言って怒るもんだと思ったが…
それにしても何なんだろうか、このフェリシアは……
打ち込み稽古の時の厳しいグレゴリー先生とも違う
組み手の時のちょっと本気のマデリンとも違う
初めて魔物と対峙したあの時とも全然違う
身体の芯が震えるような……
本能が警鐘を鳴らす程の圧倒的な恐怖は何だ?
そんなはずは無いと思うが……
まさかこれは覚醒状態なのか?
フェリシアルートのラスボス戦限定のあの超(スーパー)フェリシアなのか?
やっぱり、俺ここで殺されるんじゃね?
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