scene.42 ケルシーは我慢の限界を迎える
「うぅ………」
オーランド様は今日もお庭で剣のお稽古をしています
カッコイイ……
でも私はそれを遠くから見ることしか出来なくて…
お話をする事も出来なくて…
お手紙も書けなくて…
「どうして……私は関係ないのに……」
83日前
ロティーはオーランド様の専属側仕えに暴言を吐きました。もちろん、リリィと呼ばれていた子の態度は悪かったですし、シャーロット様を相手に許されるものではありませんが、だからと言ってロティーのあの物言いはいただけません。
ロティーらしくもありません……お元気な方にはそっと後ろから教えるのが普通です。あのように面と向かって……仮にも女の子を相手に臭いなどと……それはオーランド様も怒りますよ。
出で立ちこそ見窄らしくはありますが、あの子はオーランド様がお決めになられた専属なのですから、私達がとやかく言うのは程々にしなくてはなりません。そのくらい理解しているはずなのですが……
「オーランド怒っていたわ……どうしたらいいのかしら…」
「謝りましょうロティー?きっと許してくれますよ!」
「でも……」
ロティーはオーランド様に怒られたことが相当堪えたようで、許して貰えなかったらどうしようと言って謝罪すら出来ずにいました。アレほどまでに落ち込んでいるロティーを見たのは初めてで私もどのように声をかければ良いのか思案に暮れていて……それだけなら良かったのですが……
「ちょっとだけ待ってねケシー……一緒に……一緒に謝ってほしいの……お願い……だから……」
初めてでした…ロティーからお願いをされたのは…
ですが、よりにもよって初めてのお願いがオーランド様との接触を少しだけ待って欲しいなどと言う無理難題だとは思いもしませんでした。貴重な魔物の素材を持って来て欲しいとか、黒い髪を染めなさいとか、もっと簡単なものにして欲しかったです……どうして私がオーランド様と会うのを待ってと言うのでしょう…あんまりです……
それでも……
その時の私は、すぐにいつものロティーになると信じて快くお願いを聞き入れました。
オーランド様に嫌われたら悲しいですもんね
一緒に謝れるように待ってあげましょう・・・と。
それがまさか……
こんなにも長くなるなんて……
65日前
「ま、また……カラドリア………!」
オーランド様を観察してしばらくすると敵が現れました。
マリア=カラドリア……カラドリアの孫娘……
オーランド様のお稽古の邪魔ばかりにして……オーランド様が嫌がっているのがわからないのでしょうか……許せない。きっとオーランド様は脅されているに違いありません。お可哀相に…
35日前
「なんなんですかあの顔は!ゆ、許せない!」
初めはオーランド様を馬鹿にしたように見ていたくせに……それがなんなんですかあの顔は!は、発情した兎め!身体をくっつけるのはやめなさい!ゆ、許せない!
21日前
「そんな……酷い……」
世の中にはやっていい事と悪い事があるといいます。
大体のことは許されないますが、これは駄目です。
オーランド様を見る為のお屋敷が何者かに奪われました。
何故お屋敷を手放したのかと聞いた所、
お父様はただ一言、すまない、と仰いました。
私にはわけがわかりませんでした。
ですが、お兄様に聞いたら教えてくださいました。
「なんでもカラドリアの孫娘が欲しがったらしくてね……父上もケルシーに買い与えたものを手放す事に苦悩されていたが……どうしようもなかったようでね……うーん…僕としてもケルシーの要望は聞いてあげたいんだけど、こればかりはね…」
人にはやって良い事と悪い事があります。
オーランド様に近寄るだけでは飽き足らず、
嫌がるオーランド様に嬉しそうに抱き着いて、
初めて我儘を言って買って貰った屋敷まで奪って、
あの女……
3日前
「今日もお部屋から出てこられなかったのですか……」
今となっては密偵からの報告だけが全てですが…
オーランド様は体調を崩されたご様子
ここ数日は部屋から出て来ないという報告ばかり…
無理もありません
あれ程のように毎日カラドリアに付きまとわれては…
むしろ今までよく耐えたものです。
オーランド様が体調を崩したのは間違いなくマリア=カラドリアに起因するものでしょう。それ以外に考えられません。私がオーランド様を見てさえいればこんな事にはならなかったと言う意味では私にも責任があるかもしれません……本当に申し訳ない事をしてしまいました。
私は今まで色々な事を我慢しました。
ロティーとの約束を守って…
ロティーが立ち直るのを待って…
いつかまた3人で楽しくお話が出来ると信じて……
オーランド様とのお茶会を我慢して…
お手紙すらも我慢して…
我慢なんて…今迄は簡単に出来ましたが……
マリア=カラドリア……
金しか頭にない意地汚い青い鳥め……
私のオーランド様に仇なす賊め……
あの女…許さない…
もう待つのはやめにしよう。
遅かった……こうなる前に動くべきでした。
オーランド様に何かあってからでは遅いのです。
遅すぎました。
確かに…カラドリアは力は強大ですが…同じ人間……
殺(ヤ)って殺(ヤ)れない事はないはずです
いつまでロティーを待てばいいのか
いつオーランド様とお話が出来るのか
嬉しそうにオーランド様に抱きつくカラドリアを見る度に
勝ち誇ったような笑みを遠くに居る私に向けるたびに
私の心はどうしようもない程に熱を帯びました。
そして今日
「ロティー……私はもう限界です……!」
私は我慢を止めることにしました。
いつまでも足踏みしているシャーロット様を引っ張り上げるのは忠臣であるアトワラスの務めであり、いつまでも落ち込んでいるロティーを立ち直らせるのは友である私の役目だったのです。もっと早くこうするべきでした。
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