scene.41 悪役は1人で落ち込む
あーあ……どうせオーランドは死ぬんだろ……
なんかもう……どうでもよくなってきた……
自室のベッドでだらしなく寝転がり、何をするでもなく脱力しながら天井を見ていた。
ここがゲーム『グランドフィナーレの向こう側』の世界であり、俺がそのゲームでのストレスマッハ要因である悪役オーランド=グリフィアであるとわかってから、そこそこ頑張ったと思う。
頑張って死を回避しようと思って、自分のことを会った瞬間からずっと嫌いだったという捨て台詞を吐くようなオーランドの婚約者……常に笑顔を張り付けその裏でオーランドへの憎悪を募らせる仮面のヒロイン、フェリシア=リンドヴルムとの関係を良好なものにしようと思った。
毎日のようにやってくるどうでもいい内容の手紙に返事を書き、興味もないくせに近況を聞いてくる手紙に返事を書き、毎日嫌がらせのようにやってくる何通もの手紙に返事を書いても、どうせ主人公とくっついたら俺は殺される。
それでも俺は手紙を書いた。これは未来への罪滅ぼしだ。俺は将来、ラーガル王国から逃げ出し家族を捨て、名を捨て、フェリシアと言う婚約者も捨てる男だ。いくらフェリシアが俺の事を嫌っていようと、グリフィアの嫡子から捨てられたとあれば彼女の評判、リンドヴルムの評判はきっと落ちる。
だから、矢継ぎ早に送られてくる手紙のやり取りになんの意味があるのかはわからないが、せめて18歳までの残りの時間は誠意をもってフェリシアに接しようと思った。謝って許されることではないが、婚約者を捨てて逃げる俺を許して欲しいという思いをこめて、1通1通、頭を捻りながら丁寧に返事を書いた。
何が罪滅ぼしだか……女性は一度冷めたらお終いだと言うし、そもそも出会った瞬間に冷めてしまったのなら今更俺が何をしたって何の意味もないのにな……
黒い髪と黒い瞳……前世の記憶があるからかどうかはわからないけど、俺は本当にケルシー=アトワラスが綺麗だと思った。美少女とはこういう子の事を言うのだろうと思った。
自身の黒い髪が呪われたものだと信じ込み、周囲に不幸が降り掛からないようにと常にクールで無口な態度をして人を遠ざけている彼女は本当は人一倍お喋りが好きで、本当はみんなと楽しくお話をしたいと考えていて、困っている人を見ると助けようとする優しい女性(ヒロイン)だ。
そんな優しいヒロインだから、できれば近寄りたくもないヒロインの1人だったケルシーを励まそうと思った。心無い周りの言葉になんて耳を貸す必要はないんだと、落ち込む必要なんてないんだと言った。誰だって幸せになれる権利があるんだと、俺だって幸せになれるんだと……でもダメだった……
ラーガル王国の王女。シャーロット=ラーガルもそうだ。
そりゃあヒロインではないし、この国の王家だから嫌われないようにご機嫌を取っていたのは事実だけど、ラーガル王が臥せっている中で公務を頑張っている10歳の女の子を応援しようと思ったのは本当だ。
毎日彼女の気が少しでも紛れるのならと思って、グリフィア家から走れば10分もしない距離の王城まで1時間をかけて身嗜みを整えて30分も馬車に揺られて王城に赴き話し相手になった。
そんな時間があるなら少しでも剣の修行をしたかったし、面倒だし大変だけど、でもこの子は俺なんかよりもっと大変なんだって、そう思って…せめて俺がラーガルを去るまでは支えの1つになれればと……でもダメだった……
シャーロット王女もケルシー=アトワラスも……
たった一度……たった一度だ……たった一度、俺が平民のリリィを庇っただけでいとも簡単にオーランドを見限りやがった……『好きにすればいい』と。
あれから3ヵ月以上経った今、ドブ掃除ばかりしていた時でも毎日のように誘われていたお茶会には一度も誘われなくなった。ホント……くだらねぇ……
マリア=カラドリアもよくわからない。
ラーガル王国すら買えてしまえるような莫大な金をもった一族のたった1人の孫娘として育ったあいつは家族から愛情を注がれることこそあれ、その他の人間からは歩く金くらいにしか認識されていないし、年頃になれば金で好みの男を買ってしまうような可哀想な女の子だ。
だから、もしかすれば俺がマリアの心の隙間を埋められるのではないかと思った。子供のうちにこの子の寂しさを埋めてあげられれば歪まずに成長するんじゃないかと思った。
だから主人公がやっていたように、あいつを1人の女の子として見るようにした。近寄りたくもないヒロインだったが……それでも出会ってからずっとそれだけを徹底して……そうしなければ、マリアがあまりにも可哀想だったから……どうにかして彼女を救い上げてあげようと……だが、何の意味もなかった。
主人公ならマリアの心を簡単に開かせてあげて、今頃2人仲良く手を繫いで街中でデート三昧だ。マリアはデレるととことんまで甘甘になるキャラだったし主人公の全てを肯定するような奴だからな。
だと言うのに、俺は未だに馬鹿にしたような笑顔を向けられる…魔物討伐の時もそうだ……甘甘どころか喧嘩腰で喋られることもある塩塩じゃねぇか………
やりすぎてしまった俺が悪いとは言え、襲われている子を助けたら一言も喋りかけてこなかった。
めちゃくちゃビビったままガタガタと震えて……ぶっ殺してしまった男連中よりも怖がられていた。男連中には大声で喚いていたのに、俺には声もあげず、まるで全て俺が悪いかのように恐怖と絶望に染まった緑色の瞳を向けてくるだけだった。
襲われてた連中よりも助けた俺の方が怖がられるとか我ながら凄いな……ははは……頑張れば簡単に立派な悪役になれるかもな……ホント……
くっだらねぇ……………
あれから10日程が経ったが、前世の記憶が蘇ってから初めて何もやる気がおきなかった。
やる事なすこと全部が全部裏目にでる。
運命は変わらない
オーランドはどれだけ長くても18歳で死ぬのだろう
どうしてなんだろう……
俺だって……
俺は……
何も知らない悪役のままで居たかった……
誰が異世界転生させてくれなんて頼んだよ
こんな事なら前世の記憶なんて思い出したくなかった……
前世の俺にだって……飯塚(いいづか) 陽翔(はると)にだって……
やり残した事は沢山あったんだぞ……
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