scene.28 一難去った?



 名称:プリドウェン

 分類:鎧

 耐性:魔法全属性F(S) 刺突G(S) 斬撃G(S) 打撃G(S) 腐食G(S) ε

 補正:筋力G(S) 魔力G(S) 理力G(S) 技力G(S) ε   



『グランドフィナーレの向こう側』はギャルゲーではあるが、ローグライクのランダムダンジョン探索型のゲームが主要パートと言ってもいいほど造りこまれていた。実際、俺はそっちが好きだったしな。


 武器、防具、消耗品、魔導具などの数え切れない種類のアイテムをダンジョンで拾い、それを鑑定する。

どのような能力値がアイテムに付与されるか一部の装備品を除いては完全ランダムで、同じショートソードを同じダンジョン内で拾っても武器の補正値は全然違うし耐久値も違っている。


 自分がビルドしたキャラクターの能力値にあったアイテムをどれだけ集められるかによってダンジョンの攻略難易度が変わるし、自分のビルドしたキャラクターの能力傾向によって攻略しやすいダンジョンも変わる。

 だから何周でも楽しめたし何周しても毎回違った楽しみがあったわけだが……



「鎧に能力値補正が乗ったものなんてゲームには存在しなかったが……どういう風に作用するんだ?」


 自室に戻り鑑定結果が書かれた木の板をみながら呟いた。

 ゲームにはない仕様、ゲームにはなかったタイプの鎧、やはりゲーム世界でありながら何処かが違う。



 武器には補正と呼ばれるものがある。

大雑把に筋力、理力、技力の3つの補正が殆どだが、中には生命力や魔力補正武器なんていうのもある。

 

 そして、主人公の能力値と武器の補正がかみ合えば武器の強さが変動する。


 例えばここに筋力補正Sの武器があったとする。 

 そしてそれを筋力Sの主人公と筋力Gの主人公が使うとする。

 その場合、より高いダメージを叩き出すのは筋力Sの主人公だ。

 これはただ単純に能力値が高いからと言うわけではなく、武器の補正が主人公の能力値に一致しているからだ。


逆にここに技力補正Sの武器があるとして、先程と同じように筋力Sの主人公と筋力Gの主人公がこれを使っても、両者の技力値が同じであればダメージに殆ど差は出ない。


 補正とは主人公の能力値によって変動する武器の傾向のはずなのだが……



「なんで鎧に補正がついてるんだ?鎧って確か、耐性だけだよな……?」


 その耐性にしてもやり過ぎている感じはある。

普通は1種類、多いもので2種類、めちゃくちゃ難しいダンジョンの最下層とかで出るのでも3種類の耐性が付いているくらいだ。何個耐性ついてんだよ……


「このカッコは成長すればいずれそうなるとか、そういうのかな?しかも……またなんか変な文字が付いてるし……」



 なるほど、全然わからん



 ◇ ◇ ◇



 考えてもわからない事に時間を割くのは勿体無いので、よくわからない鎧の事は一先ず置いておくことにした。そうこうしている内に、リリィの近接戦闘技術を鍛えようと雇った家庭教師がやってきた。



 俺にはグレゴリー先生がいるが、彼を貸すつもりは無いしリリィに合わせて基礎から教わるなんて事もやりたくなかったので、お母様に新しい家庭教師を用意するようにお願いしておいたのだ。

 そして、お願いしてからたったの数日でリリィ用の家庭教師を手配してくれた。流石お母様です!



 流石なのだが……





「……で?なに?」


「おほほほ…会ってそうそうなお言葉ですわね。オーリー様」


 家庭教師として現れた女性…………の横に、何かが居た。


「あら?お知り合いなのですか?」


 クラウディアお母様が不思議そうな顔をして俺に訪ねてきた。

今俺はお母様から屋敷の一室に通された家庭教師を紹介されているのだが、当然家庭教師に見覚えはない。問題は家庭教師の横にいる奴だ


「ええ………まぁ、面識があると言いますか……」


「そうなのね!では改めて紹介も要らないかと思いますが、こちらは家庭教師のマデリンさんと、斡旋してくださったカラドリア商会のマリア=カラドリア様よ」


「お久しぶりですわ、オーリー様」


 綺麗に着飾った服、可愛らしい顔、人当たりの良い笑顔

 お母様のマリア=カラドリアに対する第一印象は最高だろう。


「……これはどうもお久しぶりです」


 これに対して俺は引きつった笑顔で返事することしか出来なかった


「ふふふ、オーリーと呼ばせているのね。オーランドが心を許している相手からの紹介であれば何も文句はありません。これから宜しくお願いしますね、マデリンさん」


「畏まりました奥様、身命をとして任務に励む所存です」


 マデリンと言う名の家庭教師はこれ以上ないくらい仰々しく母の前に跪いていた。


「そう堅くならなくても構いません。指導を頼む相手はオーランドの側仕えですから、好きにおやりなさい」


 お母様はもうこいつでいいやと考えているみたいで、マリアの外見やマデリンの態度にご満悦な顔をしている……なんてことだ、カラドリア商会は家庭教師の斡旋まで仕事にしていたのか……グレゴリーにもあとで何処の紹介でうちに来たのか聞いてみるか……



「それでは私は仕事に戻りますので、後はオーランドがマリア様とマデリンを案内してあげなさいね。ふふふ、2人が顔見知りで話が早くて助かりましたわ」


「あ………はい」


 返事を待つまでも無く、お母様はその場を立ち去ってしまった。



「オーリー様、案内宜しくお願い致しますわ」


 どうしてこんな事になっているのかと呆気に取られている俺に、マリアはニヤリと笑いながら声を掛けてきた


「何しに来たんだよ」


「マデリンの紹介に来たのですわ」


 マリアはにっこにこだ。ムカつく。


「そうかい……それで、本当は何しに来たんだよ」


「鎧と短剣を譲って貰いに来たのですわ」


「だよな」


 知ってた。


「ご理解が早くて助かりますわ。いくらでお譲りいただけるのか早速商談といきましょう、オーリー様」


 そう言うと、マリアは身体を押し付けるようにして馴れ馴れしく俺に腕に抱きついてきた。なんてあざといやつなんだ……だが残念だな、そう言うのは大人の女性がやってこそ威力を発揮するんだよ。胸部能力Gのマリアがやった所でその技の真の力は引き出せんだろう。



「商談はない。マデリンがリリィの家庭教師として働いてくれればそれで十分だ。それ以上もそれ以下もない」


「ご希望の額を仰ってくださいませ、きっとご納得いただける金額を用意致しますわ!」


「話を聞けよ!!」


 振りほどこうと手を動かしてもマリアは離れようともせず、結局そのまま屋敷の案内をする羽目になった。




 最悪だ……リリィの短剣(マルミアドワーズ)も俺の鎧(プリドウェン)も、なんでもかんでも金にものを言わすような1番面倒臭いやつに目をつけられてしまった。

 銀行業も務めている商業ギルドであるカラドリア商会に張り合えるだけの金を持った組織は存在しないので、こいつが欲しいと思えばなんでも金の力で手に入るんだよな……



 まあいい……マデリンが少しでも失態を演じたら即座に追い出してマリアとの縁を切ろう。

 それしかない。


 そもそもあのリリィだぞ?

俺以外に簡単に懐くとは思えないしすぐにでも勉強が嫌だとか言って文句を言うに決まってる。

 そうなれば新しい家庭教師を探すわけだが、マデリンが失敗してしまえば『マリアの紹介した家庭教師はだめだった、次はカラドリア商会以外から雇いましょう』と胸を張ってお母様にも言える。


 あまり心配することでもないのかもな

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