scene.27 交渉と鑑定結果



 ふざけんな!ふざっけんな!!!


 そんな事ってないだろ……

 カラドリア商会にきたのは今日が初めてだぞ?

 なんでこうなるんだよ……俺が何したっていうんだよ………



「初めまして!私はリリィよ!」


「初めましてリリィ様、えっと……」


 元気よく挨拶をしたリリィに一礼し、マリアは困った顔で俺の方にチラリと視線を向けた


「……初めまして、オーリーです」


「初めましてオーリー様」


 俺が名乗ると、マリアは嬉しそうに微笑みかけてきた。

普通なら何て可愛い子なんだと思うだろうが…………実に胡散臭い笑顔だ。実に胡散臭い。

 テーブルの上に置かれた飲み物にも手をつける気がなくなってしまうくらいには胡散臭い状況だ。


「まず、本日は突然このような場に案内したことを謝罪させて頂きますわ……」


 テーブルの向かいに座り、頭を下げてきたが……


「いや、それは構わない。俺とリリィは鑑定結果を聞いたらすぐに帰るので謝罪される程のことではない」


 まともに相手をするつもりはない。

今俺が取るべき最善の選択肢は、さっさと話を聞いて逃げる、これだけだ。


 ヒロイン連中となんて関わってたまるか。

不本意ではあったが王女とケルシーと敵対した今、俺にはもう退路がない。どうせ1人敵対した時点で先行き不透明になったのだから、今更全員と敵対しようが何ら問題はないと言えば無いし、今ここで多少マリアの機嫌を損ねた所で今更だが……

 関わらないで済むなら関わりたく無いし、敵対しないで済むならそれが一番だ。故に、最善策は会話を最小限に抑えての逃亡だ。


「はい……お話と言うのはその事についてですわ」


 だろうね、だと思うよ。だってそれしかないし。


「いいわ!話しなさい!」


 リリィは何もわかっていないようで羨ましい……


「私共カラドリア商会はかねてより鑑定を――」


「前置きはいらない。用件だけを教えてください」


 何か話を始めようとしてきたが、そんな事は知らん。

 いいから早く鎧と短剣を返せ


「……では、単刀直入に申し上げます。リリィ様とオーリー様が本日鑑定を依頼された品、その両方を私共カラドリア商会にお譲り願えないでしょうか?」


 はー……出たわ出たわ……そんなこったろうとおもったわ……


 俺とリリィを値踏みするように向ける視線はこの取引の成功を確信してのものだろうが……


「いやよ!アレはママから貰ったものだから誰にもあげないわ!!」


 リリィは即答した。そして当然……


「そうですね。俺もお断りさせていただきます。あれは先祖代々受け継がれているものらしいので」


 俺も即座に断った。

 プリドウェンを譲れだと?冗談じゃない。


 確かに、俺は将来的に家を捨て家族を捨て国を捨てる人間だが、だからと言ってご先祖様が大事にしていた幻獣の素材で作られた鎧を誰かにやる気はない。まあ、俺にそのご先祖様の血は流れてないけど……


 俺は全てを捨ててこの世界で生きていく男だが、これを売るのはダメだ。

 これはお母様が俺の事を思って準備してくれた最高の鎧だ。前世の俺が手放しても構わないと思っても、この身体がこれを手放す事を拒否している。オーランド=グリフィアの魂がこれを手放すなと言っている、全てを捨てても家族の優しさだけは捨てるなと……だから、これだけは譲れない。



「いえいえそう言わず、ご希望の額をご提示ください。必ずご納得いただける値段をつけさせていただきます」


 にこにこと笑って余裕のつもりか?

金を積めば何でも手に入ると思っていると勘違いしている世界一の金持ちお嬢様め……


「だそうだぞ?リリィ、どうするんだ?」


「いやよいやよいやよ!!返して!!!ママの剣を返してよ!!!」


「お、落ち着け落ち着け!大丈夫だって、返してもらえるから……すまんがリリィは堪え性がなくてな、今すぐにでもこの子の短剣を返してやってくれないか?」


 隣に座っていたリリィが立ち上がり見る見る怒気を放ち始めたので、俺はそれを慌てて静止した。

 こんな所で暴れてしまえばそれこそ相手の思う壺だ。


「……そうですか。それでは仕方ありませんね……」


「おっと、俺の鎧も返してくれよな?俺もリリィも金じゃねぇんだよ、こいつが平民だと思って買い叩けると思ったんだろうが残念だったな」


 立ち上がって今にも殴りかかろうとするリリィを抑えながら精一杯の嫌味をこめていってやった。

 俺は、主人公に矯正されるまでの何でも金パワーで解決しようとするこいつのことが大嫌いだからな。



「もう結構です……お客様がお帰りです」



 そう言うと、マリアはテーブルを軽く手を叩いて立ち上がり一瞬で背中を向けてドアの向こうに消えていった


「リリィ、大丈夫だ。短剣は返してもらえるから落ち着け」


「わ!!わ、わかった……」



 それからすぐに短剣と鎧が返却されたが、返却後は追い立てられるように外に出されてしまった。

 なんて態度の悪い奴らだ。取引が上手く行かなかったからって大人気ないクソどもめ……などと思ったが、もう二度と会うこともないだろう相手にイライラしても仕方がない。厳密には学園に入学すれば会うことになるんだろうけど……



 ◇ ◇ ◇



「返してもらえてよかったなリリィ。んで、鑑定結果はなんだって?」


 しかしまあ、隣を歩いているリリィはとても嬉しそうなのでこれ以上考えるのはやめておこう。



 鑑定でわかるのはアイテムの名称とそれぞれのアイテムに応じたステータスだ。


 武器であれば攻撃力や補正


 防具であれば防御力や耐性


 魔導具であれば使用用途や効果


 回復薬などであれば効果量や品質


 こんな感じでアイテムごとに鑑定結果で伝えられる内容は変わってくる。



 今回リリィが見てもらったのは短剣、武器なので武器の名前、攻撃力や補正などの数値が記載された木の板が鑑定品と共に鑑定結果として渡されているのだが、建物の中を急いで出てきたので俺達はまだ自分の装備品の鑑定結果を見ていない。



「よ、よめな…字はまだ、覚え……全部覚えていないです……」


「ああ、すまんすまん。俺が読むよ」


 最近勉強を始めたばかりだし仕方ない。リリィは酷く落ち込んだ顔をしてしまったが、気にすることでもない。

 リリィから受け取った木の板に書かれていた内容は



 名称:マルミアドワーズ

 分類:特大剣

 補正:筋力S 技力A ζ



 ん?なんだこりゃ?



「分類特大剣……?リリィの短剣が?」


「なんて書いてあったの!」


「あーうーん……名前はマルミアドワーズって言うんだってさ」


「知ってるわ!!」


 知ってるんかい!!!


「んじゃあ、次に分類は特大剣ってなってるけど、短剣だよな?」


「んーーー…………短剣ね!」


 自分の剣をぐるぐると見ながら少し考えたようだが、どう見ても短剣にしかみえないようで元気よく答えてきた。


「だよな?なんだろう……いい加減な鑑定されたのかもな。」


「そうなの?」


「いやわからん。わからんけど、特大剣にはみえないしな……まあ次に補正だけど、筋力補正S、技力補正Aと……なんかよくわからない文字が描いてるっていうか……これは関係ないか」


 なんかζうにょうにょしたものが描いてるがこれは誤植だろう


「それってすごいの?」


「凄いって言うか異常だな。筋力と技力の2つの補正が高いし、なにより威力補正Sの武器なんて伝説の武器とかそういうのじゃないと有り得ないんじゃなかったっけ?」


 少なくともゲームの中では補正Sの武器は激烈に難しいダンジョンの中でしか入手できなかった記憶がある。ゲームの中ですら激烈に難しいのだから、現実世界で実際にダンジョンに潜って手に入れるとなるとその難易度は計り知れないと言うか……不可能なんじゃないだろうか……すげぇもん持ってんな……


「そうなのね!やったわ!!!」


 まあでも特大剣とかζうにょうにょした汚れとか、名前以外はあんまり当てにならんかもな……嫌がらせに適当なこと描いてきた可能性もあるが……ってそうか、この数値が本物だからこそマリアはこれがほしかったのか。

 嘘を書くならわざと低い数値を書いたはずだしな………つまり、この鑑定結果は本物か?

 やっべぇな、いきなりゲームクリア直前に手に入れるような武器もってるとか、リリィのママって何者だよ。



 のんびりと歩いて帰る中、プリドウェンの鑑定結果をみた俺はまた頭を悩ませた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る