scene.17 順風満帆なゴミ野郎
「おめでとうございますオーランド様、本日より<足(ペース)>にランクアップです」
冒険者になってから2週間もしないうちに最初のランクアップが訪れた。
毎日2箇所か多いときは3箇所ほど、毎日毎日毎日毎日、王都貧民街の掃除をした。
道端の糞の処理から、ドブ掃除、打ち捨てられている生ゴミや不燃ごみの回収。滞っているクエストはないかと毎日ギルドのお姉さんに相談に行くたびに、溜まりに溜まっているそれら貧民街に関するクエストばかりを斡旋してきた。
朝から晩までゴミにまみれ、身体に臭いがついているのではないかと疑うほど常時臭い毎日を過ごした2週間だったが、どうやらノインツ教官の言っていたことはやはり嘘ではなかったようだ。
どうして貧民街の掃除などと言うクエストがあるのか、そもそも誰がクエストを依頼しているのかも俺の冒険者ランクでは開示されていないからわからないが、王都の汚い場所を掃除するだけでランクがモリモリあがるというのなら好都合だった。魔物の戦闘と違って命の危険がないからな。
自分のしている事に意味があるとわかってからはより一層街の掃除に全力を出した。
その間、王女からの呼び出しもあったり、何故かケルシーからの呼び出しもあったが、『今は王都のドブ掃除で忙しくて全身が臭くて会いにいけそうにない』と断りを入れる口実まで出来てしまった。
それとは別に、度々やってくるフェリシアからの手紙への返事ははちゃんとした。ちゃんと返事はしているが、手紙が多すぎる。最近は本当に毎日どうでもいい内容の手紙ばかりが来ているし、何を考えているのかわからないが本当に頭がおかしくなりそうだった。
嫌がらせにしては性質が悪すぎるが、だからと言ってご機嫌を損ねるわけにはいかない。ヒロインの機嫌を損ねる=オーランドの死という判りやすい式を知っている俺は、どうでもいい手紙にも毎日返事を書かざるをえなかった……
そうして毎日ゴミに塗れながらギルドのお姉さんから斡旋されるクエストをひたすらこなし2ヶ月が経った頃、俺は下級冒険者の最上位<腰(ルンバーリ)>へランクアップした。
ノインツ教官には感謝してもしきれない。
同じ日に冒険者登録をした人間は、最近ようやく1人が<足(ペース)>にランクアップしたと言う話をきいたので、俺のランクアップ速度が尋常ではないと言うことがよくわかる。
何故あんな場所の掃除にギルドがこれほど高い評価をつけているのかはまるでわからないが、同期の中どころか1年も2年も俺よりも前に冒険者になったであろう先輩方を何十人何百人と出し抜けたことには感謝しよう。
何も知らずに受注フリーのクエストやそこらの森や林にいるクソしょぼい魔物を何百と討伐している連中には悪いが、そいつらが俺を蔑み馬鹿にしている間に俺はこの最短距離の依頼を独占し黙々とゴミに塗れてランクを上げるつもりだ。
他の連中が何ヶ月も何年もしょぼい魔物を狩っている間に俺は最速で冒険者ランクを駆け上がらせてもらう!!
と、考えていたのだが……
◇ ◇ ◇
「なんであんたみたいなゴミ野郎が私よりも冒険者ランクが高いのよッ!!!」
その日ギルド職員の誰かが口を滑らしたのか、同じ日に冒険者登録した女に絡まれた。
とんでもない罵詈雑言に聞こえるが、ゴミ野郎とは俺のあだ名だ。
断じて俺がゴミみたいな人間だというわけではない。
「なんでって、そりゃギルドのために頑張ってるからだろ。あとゴミ野郎はやめろ、しっしっ」
そいつはクエストを受注した俺の後をつけて来たようで、いつものように嬉々としてドブ掃除をしようとしている俺の作業現場にやってきて絡んできた。なんて暇なやつなんだろうか……
そんなことに付き合っている暇はないので手をふって軽く追い払ったのだが、
「なんでよ!私は<長耳兎(チューピッシュオア)>だってもう何十匹も討伐しているわ!スライムだって何百匹も倒して、<丘狼(ランドヴォルフ)>だって倒せるわ!」
「へーそりゃすごいすごい。よいしょっと…うわくっせぇ…」
「ちょっと!人の話きいてるの!」
「聞いてるわけないだろ。早くあっちいけよ、俺はお前みたいに遊んでる暇はないんだよ」
「なッ!!なんですって!!!うわっぷッ!!!」
俺の言葉にむかついたのか、女が俺に殴りかかってきた。
だが、殴りかかってきた手が届く前に俺の魔術で作った水の塊がそいつの顔面に命中した。
「なにするのよ!!!許さない!!」
頭に水の塊を受けて豪快に後ろにスッ転んだが、そいつは即座に立ち上がり再び襲い掛かってきた。
「あーはいはい、いいよ別に許さないでも。だから仕事の邪魔しないでくれよ」
「うわっ!!」
「ちょっとッ!!?」
「やめッ!!!」
立ち上がって殴りかかってくるたびに顔面目掛けて水の塊をぶつける。
何て直情的なやつなんだろうか、そんな単調な動きで俺を殴れるとでも本気で思っているのだろうか
ドブ掃除をしながら、何度も突っかかってくる面倒な女に水をぶつけてつっ転がす時間はしばらく続いた。
「なんなのよなんなのよなんなのよッ!!!むかつくむかつくむかつくむかつく!!!」
どうやら俺には近づけないと判断したのか、今度は小さな木片を俺に投げてきた
「ひぃッ!!?」
しかし、その木片は俺に届くよりも前に突如現れた炎の壁によって焼き消えてしまった。
突如現れた炎の壁にびびったのか、女はその場に尻餅をついて小さな悲鳴をあげた。
「ものを投げるな、危ないだろ。ママに習わなかったのか?」
全く、躾のなってないガキだ。
冒険者ランクを上げたいのであれば俺に構ってないでさっさとクエストを受注しろよ
「ママは……いないわよ!なんなのよぉぉおおむかつくぅうう!!!」
おっと……俺と同じくらいの女の子が冒険者になってるんだ、そういう事もあるか…
そもそも冒険者になるような子供なんて俺のような人間のほうが少ないもんな。失言だった…
「いや、すまん。だが、お前だって悪いんだぞ。いいか?モノは投げるな、モノに当たるな。それはガキのやることだ」
「あんただってガキじゃない!!」
「お前だってガキだろうが、うるせぇやつだな。さっさとクエストしてこいよ」
「私はガキじゃなくてリリィよ!!!ゴミ野郎と一緒にしないでよ!」
リリィか、なるほど………こいつは多分馬鹿なのだろう
「お前がリリィであるように俺だってゴミ野郎じゃねぇよ、馬鹿なのか?俺にだって名前くらいあるわ」
「むかつくぅぅぅぅぅぅう!!!なんなのよ!!!馬鹿にしないでよ!!」
なんちゅうガキだ……早くどっかいけよマジで……
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