scene.16 誰もやらないクエストとはつまり
『誰もやりたがらないクエストを率先してこなす、これだけだ』
言われて見れば確かにそうかもしれない。
会社側が欲しいのは会社がして欲しい事をしてくれる人間であり、誰もやりたがらないような事をテキパキとこなしてしまえる様なかゆい所に手が届くような人材だと聞いたことがある。
ノインツ教官に色々な話を聞いた後、俺は改めてギルドの1階の壁に設置されている巨大な掲示板をみた。
掲示板は右の壁に1つ、左の壁に1つある。
右側の壁は下級冒険者が受注できるクエストが掲示されている。
左側の壁は中級冒険者が受注できるクエストが掲示されている。
上級冒険者には1人に付き1人の担当ギルド職員がつき、それぞれにあったクエストを紹介される。
そう、冒険者にはランクがありそのランクによって受けられるクエストが変わってくる。
上から順番に、
目 オクルス
耳 アウリス
口 オース
腕 ブラキウム
胸 ベクトゥス
背 ドルスム
腰 ルンバーリ
足 ペース
爪 ウングイス
<目(オクルス)> <耳(アウリス)> <口(オース)> までを上級冒険者
<腕(ブラキウム)> <胸(ベクトゥス)> <背(ドルスム)> までを中級冒険者
<腰(ルンバーリ)> <足(ペース)> <爪(ウングイス)>までを下級冒険者と分類されている
中級冒険者が下級冒険者のクエストを受けることは可能だが、下級冒険者が中級冒険者のクエストを受注する事は出来ない。そして、上級冒険者は全てのクエストを自由に受注する事ができるようになっている。
当然、今日冒険者登録をしたばかりの<爪(ウングイス)>の俺が見るべき掲示板は右側の方だ。
しかし、掲示板の前の人ごみを掻き分けながらクエストを見ても、一体どれが誰も受けたがらないクエストなのかがまるでわからないため、早速ノインツ教官に教わった通りギルド職員に相談をしてみることに決めた。
「こんにちは!」
「はいこんにちは、あら、冒険者の登録は終わったのですね?」
再度受付に並び再び元気よく挨拶したところ、そこに居たのは2,3時間前に登録説明会の場所を教えてくれたお姉さんだった。
「無事に終わりました!はいこれギルドプレートです!」
「はい、確かに預かりました。えーっと、クエストの受注ではないのですね?」
「いえ!受注しようとは考えていますが、どれが良いものかと相談に来ました」
「そうでしたか。やはり最初に受けるのであれば薬草採取がいいのではないでしょうか?常駐クエストにあるものでよければこちらで受注処理をしますが……」
「いいえ!出来ればここ数日…いえ、ここ数週間数ヶ月と誰もやっていないようなものはありませんか?たとえば、誰も受けたがらないようなクエストとかってないですか?」
常駐クエストなんていう査定の低いものを受けてたまるか、そんなものよりも誰も受けたがらないようなクエストってのを教えてくれ受付のお姉さん!
「え?ええ…それは、まあありますけど……どうしてまたそのような?我々としては助かりますが、あまり割りに合わないものなので推奨は致しません……それでもよろしいですか?」
割りに合わないから誰もやらないクエスト。
何故そんなどうでもいいクエストの評価が高いのか疑問だったが、各街のギルド毎にクエスト達成率やノルマがあるのだと考えればこれらのクエストの評価点が高い理由も頷ける。ギルドとして一度依頼を引き受けてしまった手前なんとかしてクエストを処理したいと言ったところか?
それに、そういった誰もやりたがらないクエストを率先してこなす冒険者を擁するギルドは強い。
『どんな依頼でもあそこのギルドに頼めば処理してくれる、また次も頼もう』『あの人の依頼が処理されるのであれば自分の依頼もお願いしてみよう』など、一度そういう集団心理を味方にしてしまえば後はどんどん依頼が舞い込み冒険者ギルドの実績はうなぎ上り、仲介量でお金もがっぽりだ。
「任せてください!いつまでもクエストが達成されなくて困っている依頼者の為にも僕は頑張りたいと思います!」
ふっふっふ、さあ受付のお姉さんよオーランドの笑顔をみて歓喜に震えるがいい。
困っている人のために誰もやりたがらないクエストをこなそうとする子供だ、さぞや可愛く見えるだろう
生活の為に魔物を倒し金を稼がなければならない冒険者と俺とでは根本的にギルドに対する向き合い方が違う。他の冒険者にとっては割りに合わないクエストであろうが俺にとってはどうでもいい。なんせ生活が掛っている冒険者と違って今の俺は全く金には困っていないし、家に帰ればご飯が食えるわけだから。
今俺が欲しいものは金ではない、もちろん将来的には金は腐るほど欲しいが今ではない。なんだったら今は無償労働でもいいとさえ思っている。その代わり少しでも高いギルドからの評価が欲しい、それだけだ。
目を輝かせたお姉さんから紹介されたクエストは、もう数ヶ月も放置されている王都貧民街のドブさらいだった。
◇ ◇ ◇
「うぅ……くっせぇ………」
目が痛い!!病気になりそうだ、なんだこれは。誰か掃除しろよ!
ってそうか、誰もしないからこうなってるのか……
本当にこれがランクアップの為の最短距離なのだろうか。
もし違ったらノインツ教官を殴ろう。
幸いにも水魔術が使えるのでざぶざぶと洗いまくれたが、それでもかなり重労働だった。
本当に今まで誰も掃除しなかったようで、皆好き勝手にゴミを捨てるからか異様に汚かったこともあり、昼過ぎに受けたにも関わらずたった一箇所のドブ掃除を終えた頃には陽が沈みかけていた。
完全に綺麗になったと判断した所で冒険者ギルドに報告に戻ったのだが、俺の周りだけ誰も近寄らなかった。
臭い、汚い、近寄るな、目が痛い……2階の報告カウンターに並んでいた人達は口々に好き放題に文句を垂れていたが、一番臭いと思ってるのは俺じゃボケェ!!!!
本当にこれを繰り返せばランクが早くあがるんだろうな………
偶然にも報告カウンターに来ていた受付のお姉さんは顔を逸らしていた
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