scene.12 ケルシー=アトワラスはじっと見る
私は呪われた子供
私がこの世に生まれたせいで母は死に、
私のせいでたくさんのドラゴンがやってきて、王妃様は命を落とし、ラーガル王は傷を負った
アトワラスの者の中でどうして私だけは黒い髪に黒い瞳なのだろう
私はきっと本当の子供じゃなくて、周りの大人が言うとおり災いを招く悪魔の子供なんだ
お兄様もお姉様もお父様も、私の事を見るたびに悲しそうな笑顔を見せる
きっと私なんか居なければいいと思っているんだ……
どうして……私の髪は黒いのだろう……
アトワラス家は代々王家に使える『銀の文字』と呼ばれる一族です
ラーガル王家が剣となり国を切り開き、グリフィア家が盾となり王を守る
そして、アトワラス家は剣と盾によって作られた道に王国の輝かしい銀の文字を書き記していく
初代ラーガル王……英雄王の名で知られる御人と共に肩を並べ数々のダンジョンを冒険した原初のパーティーメンバー、それがグリフィアとアトワラスです。数々の冒険を共にした始まりの3家は血より固い絆で結ばれ、それは何百年と経った今でも受け継がれております。
ラーガル王国が今尚大陸の中心で覇を唱え続けていられるのは、この3家の固い結束があったからです。
病に臥せっておられる王と、一度だけ言葉を交わした事があります。
『前を向きなさいケルシー=アトワラス。誰が何を言おうが関係ない、そなたは我が盟友アトワラスの娘だ。そなたがこの世に生を受け、私もまたそれを嬉しく思っている。くだらぬ声に耳を傾けるな、大丈夫、誰も不幸になどなってはいないさ……そうか、わからぬか……案ずるな……いつかそなたを暗闇から引き上げる者が必ず現れる。それまでシャーロットの傍にいるがよい』
ラーガル王は呪子の私にもお優しく……私のせいで偉大な王が怪我をされたことが悲しくてたまりませんでした
その後すぐ、私はシャーロット王女の遊び相手としての任務を受けました。
同じ歳だというのに、シャーロット様はお強く、美しく、金の剣と呼ばれる王家の名に恥じぬお方です。
遊び相手とは名ばかりで、私はいつもシャーロット様に守ってもらっていました。
すぐに泣いてしまう私を嫌な顔ひとつせず、妹をあやすかのように優しく慰めてくれ、いつでも一緒に居られるようにと王城で同じ家庭教師の下で勉学に励むようになり、誰かに会うのが辛いのならと、この国でもっとも安全な王族の私室で寝泊りしてもいいと。
シャーロット様は優しく、強く、お美しい方で……そんなシャーロット様から私は王妃様を奪い、王を奪い、何一つ返す事が出来ずにいる事が悲しくて悔しくてたまりませんでした。
そしてあの方に出会いました。
「大丈夫よケルシー!私も先日お会いしたばかりですが、オーランドはとても良い子だったわ。絶対に大丈夫!ラーガル、グリフィア、アトワラスは血より固い絆で結ばれた盟友ですもの!」
初めは不安でした。
シャーロット様が突然、男の子をお茶会にお招きすると言い出したのです。
それも相手はあのグリフィア家の嫡子。私は噂でしか聞いたことがありませんが、とても元気で手のつけようがないほどの悪童だとか……絶対に私の事を苛めてくると思いました。
予感は的中しました。
彼は私の髪を、瞳を、食い入るように見詰めてきました。きっと気持ち悪いと思ったのでしょう。
だから私は会いたくなかった。グリフィアの嫡子であればお兄様やお姉様のような本物のアトワラス家の人間と親交を結んでさえいればよかったのです。
『純粋に……黒く美しい髪に見惚れていただけなのです。どうか許して貰えないでしょうか?』
この髪が美しい?そんなはずはありません。
黒く禍々しい魔族の血のような髪が美しいはずがありません。
そんな言葉をかけてくるのはロティーだけです。もう一度確かめてみても
『黒い髪も黒い目も、美しいと感じる事こそあれ怖いと思う気持ちは理解できませんね』
まるでそれが本当に理解できないというように、オーランド様はあっけらかんと答えられました。
本当に?いいえ……シャーロット様の前ですからね……
その後、シャーロット様の計らいで2人で話す時間が出来ましたが、しばらくの沈黙が流れました。
それはとても友誼を深められる雰囲気ではありませんでした。
ロティーの前だけのポーズだと思っていたものの、オーランド様は私についての話を本当に何も知らない御様子であったため、彼のためにも私の事を話すことにしました。近くに居ては不幸になるのだと、呪子である私には関わらない方がいいと。不浄なこの身のことを語りながら情けなくも泣いてしまいましたが、それでも必死に説明しました。傍に居てはいけないと。
『いいや、それはない。俺は不幸にはならないしシャーロット様も不幸にはならない』
どういう事でしょうか?
私の説明が上手く通じていなかったとは考え辛いのですが、ラーガル王ですら苦しめている私の呪が怖くないのでしょうか。オーランド様は噂で聞くような悪童ではないと感じますし、それが理解できていないはずがないのですが、不思議に思いました。
それからはとても強引で、とても荒々しい言葉が続きました。
私の手を取り、彼は熱く語ってくれました
『俺は君の傍にいても必ず幸せを掴み取って見せる!不幸を誰かのせいにするような奴らに負けるな!』
『前を見ろ!俺を見ろケルシー=アトワラス!』
オーランド様はこれまでの紳士的な態度がまるで嘘であったかのように荒々しい言葉で私の心の中をかき回されました。
ですが、その言葉は今まで聞いた誰の言葉よりも強く響いたように思います。
『前を向きなさいケルシーアトワラス』
ラーガル王と同じ言葉を言われた時にようやく理解しました。
王が仰られていた。私を暗闇から引き上げてくれる人が誰なのか、ようやく理解しました。
冷たい私の手を握るこの熱が、淀んだ心を吹き飛ばすこの言葉が、私を暗闇から引き上げる光なのだと
オーランド=グリフィア様が私の光なのだと、この時に気付きました
『見てろって、俺は死んだりしないし不幸にもならん。だから、俺(や王女)を見るたびに思い出せばいい。ケルシー、君は誰かを不幸にするために生まれてきたんじゃない。君は俺(や王女様、君の周りにいる全ての人)を幸せにするために生まれてきたんだってことを』
俺の事だけを見ていろだなんて………
俺を幸せにするのは私しか居ないだなんて……
なんて熱烈な人なのだろう……
「はい…ずっと……ずっと……見てますね」
この人の熱が、この人の想いが、私を導いてくれるんだ
もう周りの言葉なんてどうでもいい
私はオーランド様だけを見ていよう
オーランド様が幸せになる所をずっとずっと……
この人だけをずっと傍で見ていよう
ケルシーの耳に入った言葉はかなり歪に変換されていた。
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