第二章 生と死の狭間で


「出て行けよ!!」


叫び、枕を掴むと、女に投げつけた。枕は、女をすり抜け、床に落ちた。


「えっ…?」


女は、口をパクパクさせながら、両手を伸ばし、秋彦に近付いて来る。


「く、来るな…来るなよ.........来るな!!」


怒鳴った秋彦に、女は、悲しそうな顔をすると、フッと消えた。


「な.........何なんだ、いったい.........?」


秋彦は、瞳を震わせ、両手で顔を覆うと、頭を軽く振った。




何故だか理由は、分からないが、その日から、秋彦は、この世の者ではないものが視えるようになった。

最初は、怖くて、不安で、戸惑っていたが毎日のように、視える別の世界の者に、次第に慣れていった。


ただ、困ったことがあった。

それは、この世の者と、あの世の者の見分けがつかないこと。

血みどろで、いかにも、もう死んでるなという姿の者は、分かったがそうじゃない者もいた。


彼等は、普通に生活をしていた。

病院の屋上で、洗濯物を干していたり、他の患者の話に笑っていたり、待合室のソファーに座っていたり。


病院にいると、どうしても、そういった光景をよく視てしまう。

秋彦は、予定日よりも早く、退院することにした。

まだ、頭のふらつきはあるが身体には、何も異常がない為、医者の許可もおりた。


「視えるからって、何だってんだ。俺に、どうしろってんだ。」


ただ、視えるだけ。

その視えるだけで、自分達に気付いてくれた秋彦を頼って、彼等は、近付いてくる。


秋彦は、そんな自分の視える力に、困惑していた。

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