第一章 彷徨える魂


「気付いてないの?君.........死んでるよ。それも、かなり昔にね。そこから、飛び降りて。ついでに言えば、君の恨んでる田中も、もう、いないよ。」


「…どういうこと?」


「いつまで、そこに居るつもり?君が死んでから、もう何十年と経っているのに。」


それを聞き、男は、叫ぶ。


「嘘だ!」


秋彦は、フェンスに近づきながら、呟く。


「本当だよ。ねぇ…もう、どのくらい、そこから飛び降りた?何十回?何百回?」


ガシャンとフェンスを掴み、秋彦は、冷たい瞳で、男を見つめた。


「だから、迷惑なんだよね。こんなことされると。この場所が好きで、居続けてるのは、勝手だけど。人を巻き込んじゃ駄目だろ?」


「いろんな人に、助けを求めたんだ。だけど、誰も気付いてくれなかった。何度も、何度も、助けて!と叫んだのに。やっと、繋がり気付いてくれたのが、君だったんだ。」


しばらく黙って聞いていたが、秋彦は、学生服のポケットから、線香を取り出した。


「こんなことで、君が成仏するか分からないけれど。」


そう言って、線香に火をつける。


「…ありがとう。何だか、身体が軽くなったよ。」


「そうかい?あっ、ついでに教えとくけど、君の憎んでいる田中ね。…地獄に落ちてるから。」


それを聞き、男は、フッと息をつき、口元に笑みを浮かべる。


「バカだな、君は.........。たった一人の、くだらない人間の為に、命を捨てるなんて。生きていれば辛いこともあるかもしれないけれど、楽しいこともあったんだ。」


秋彦の言葉に、悲しく笑い、男は、空を見上げる。

強い風が吹き、男の姿が消えてゆく。


「成仏しろよ。」


目を細め、空を見あげた秋彦は、どこか寂しげだった。

クルリと、フェンスに背を向けると、コツコツと歩いて行く。


「あっ.........。」


フッと足を止め、秋彦は、フェンスを振り返る。


「名前聞くの、忘れた。…まっ、いいか。」


クスッと口元に笑みを浮かべると、秋彦は、屋上を後にした。

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