願いを使った少女
「魔王様」
低くしゃがれた声で魔王を呼ぶのは、禿頭の老爺――ルジ・ウーベルデンだ。
「なんだ、ルジ?」
「わざわざ、私めが申し上げるまでもないとは思いますが、あの白髪の娘、まさか、あのままにしておくつもりではありませんな?」
「……そんなことを言いに来たのか」
魔王の娘にして、白髪の忌み子と称される少女――マナ・クレイア。生まれてすぐに処刑されるはずだった彼女が、今日まで生かされてきたのは、その願いがあったから。願いを、魔族の強化に使うために、生かされてきた。
そして、その願いは先日、榎下朱音に使われた。
「当然、魔族に仇をなす存在として、処分すべきかと存じますが」
「本当に、そう思っているのか」
静かに燃える、魔王の問いかけに、ルジは片目をつむる。
「仰る意味が分かりませんなあ」
「お前は、冷血なようでいて、家族に対しては甘いところがある。ハイガルの件で、少し、考え方が変わったのではないか?」
「――それでも、やらねばならぬのですよ、魔王様。あなた様には、分からないとは思いますが」
「分からぬのは、お前が何も語らぬからだ」
玉座から見下ろす魔王と、大げさな態度をとるルジの視線が、交錯する。
「なあ、ルジよ。そんなにも、オレは信用ならないか?」
「いえいえ、魔王様のことは尊敬しておりますよ」
「不満があるなら聞いてやる。だから、少しは肩の力を抜いたらどうだ?」
「ありがたきご厚意にございますが、あいにくと、思い当たる節がありませぬな」
「――そうか」
興味をなくしたように、視線を落とす魔王に、ルジは独りごちるように呟く。
「いやはや、あなた様にこの姿にされてからというもの、心まで爺のようにふやけてしまって、敵いませんな」
「貴様が余の指示を破り――いや、貴様が、オレの大切な娘を傷つけたからだ。何を言われても、許すつもりはない。それに、貴様が幾星霜生きてきたかは知らないが、その見た目のほうが実年齢には近いだろう」
「そうですなあ。そのようなことも、あったやも、しれませんな」
立ち上がり、礼をすると、ルジは魔法でその場を去った。直後、彼は大きなため息をつく。
「殺すのをやめる、と一言言えば済むものを。本当に、回りくどい男だな、あいつは」
伴侶を失い、余生のような日々を送る魔王には、かつて抱いていた、恐れの感情は、もはや、なかった。自らの恐れと誇りのために、娘をかばえなかった過去。しかして、今は、それすらも、些末ごとになっていた。
「仕事に戻るか」
そう呟いて、彼は公務へと戻った。
***
あとがき
まなちゃが願いを使ったら、実質、魔王サイドにまなちゃを生かしておく理由はなくなってしまうのですが、こんな感じで、生かされてました。たまにくる真面目なクロスタとかは、朱音が適当にあしらってましたね。
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