ex3

 退屈で、倦怠で、うんざりするほどつまらない、神たちの仕事の話をしよう。



 神たちはすべて、主神に従わなければならない。


 主神が定めた運命に従わなければならない。


 そして、必ず、ルールに従わなければならない。



 これらを破った神には、天罰が下る。死の概念がない天界における罰は、永遠を意味する。



 ――死神は、運命に従い、地上の生命を殺す。


 ――無神は、運命に従い、ものや概念を消滅させる。


 ――破壊神は、運命に従い、形あるもの、ないものを、壊す。



 これらはすべて、主神が作った運命に従う。



 天界のルールを定めたのも。


 他の神たちに、神としての役割を与えたのも。


 地上、天上、天界を創造したのも。


 今地上で起こっている出来事、あるいは、それぞれの生命の物語のシナリオも。


 すべては、主神の手によるものだ。



「だから本当は僕、最初からこうなるって、知ってたんだよね」


 まなには、運命のシナリオがない。だが、他が決まっている以上、予測はできる。


「って、言いたいとこだけど、想定外もあった」


 まなを利用すると決めたあの日から、僕はれなが死神としての役割を果たすあの日を待っていた。運命に逆らい続けているある人物を、いかなる方法を用いてでも処分するよう、シナリオを書いた。



 ――あの日。まなが死んだあの日。本当は、ハイガルが死ぬはずだったのだ。



 僕が書いたシナリオからは外れているが、愛と(まな)がそろって言うのだから、ほぼ間違いない。


 それを利用すれば、間違いなく、まなの心は衰弱する。そこを狙うつもりだった。


 だが、結果として、死にはしなかった。それを許容することは、主神としてできないが、それはともかく。


「むしろ、死ぬよりもよかったよね。下手に死んでたら、乗り越えちゃったかもしれないけど、あれなら、まなちゃんは間違いなく、自分を責めるからさ」


 運命を変えた要因は、いくつか考えられる。


 僕やれなのような、地上での運命を持たない神たちが、全知全能には程遠い存在である「人」として、地上に降りていたこと。


 または、日本で不幸な目に遭った僕たちを助けてくれた神たちの介入。だけど、これはまずない。他の世界の神たちは、新しく世界を創造する以外の目的で他の世界に介入しないからだ。


 そして、もう一つ。――バグの存在だ。


 どうやら、運命を超える力が存在するらしい、というのは僕も昔から気づいていた。運命通りにいかないことも、ままあったのだ。


 例えば、「魔王になる運命を持たないものが、魔王に即位した場合」。その魔王は天界の運命に従わない、バグとなる。まあ、何事においても、例外は存在するということだ。


「前にも話したかもしれないけど、運命から外れてる君だけは、地上から運命に干渉できるんだよ。――僕がアイの父親だっていう、変えようのない運命を、変えることができるんだ。ま、さすがに、主神の運命とかには干渉できないだろうけど」


 神は運命を持たない。確かにそうだ。だが、それは、運命から外れているわけではなく、交わることすらないという意味。つまり、僕には、彼女の父親である運命を変えられない。


 白髪の少女を娘から外すことができたのは、確かに、彼女が例外中の例外であったことも一因だ。だが、それよりも先に、僕が天界にいたことが大きい。


 天界にいれば、権能がなくとも、主神としてある程度のことはできる。人として地上に降りた死神が天界と行き来できるよう、通路を開くこともできる。


「てか、どっちかって言うと、本当は開いておかなきゃいけないんだよね。死んだ魂が行き場をなくしちゃうから。ま、僕がここにいるってことは、そうしてない、ってことなんだけどさ」

「ならば、こんなところにいてよいのか?」

「いや? ほんとは死ななきゃいけないよ? 十六年……だっけ。それだけしか、運命のシナリオのストックがないから。それまでに戻らないと、その先がぐっちゃぐちゃになっちゃう」


 でも。


「――でも、僕は彼女を愛してしまったから。あの子が望まない限り、死ぬつもりはないし、あの子が望んでくれる限り、親としての運命と、主神としての運命を変えてでも、僕はあの子と幸せになるよ」

「そうか。では、貴様の、親としての運命を変えるが……本当に、いいんだな?」

「うん。まなちゃんはこれから先も、ちゃんと死なせないであげるからさ。――安心してよ、魔王サマ?」


 こうして、僕は呪いを解いた。

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