第3-2話
まなとハイガルに見せつけられて、僕は映像を切った。そして、後半部分の映像を削除し、魔王へ報告に向かう。まなが髪の毛をいじり始めた辺りも含めてざっくり削った。
「──途中で終わっているようだが?」
「いやあ、トイレが我慢できなくてさあ」
適当に誤魔化すと、魔王は肘置きを指でトントン叩く。
「それで。いつまで一緒にさせておく気だ」
「そうは言うけどさ。ハイガルくん、めちゃくちゃ強いじゃん。勝てないって」
「四天王はどうした」
「さあね。てか、あの三人より、ハイガルくん一人の方が強いでしょ。なんでクロスタなんか四天王にしてるのさ? 普通ハイガルくんだよね」
「やつは目が見えぬ。だから四天王には据えられない」
「うわあ、そういうの、差別って言うんじゃないの?」
まあ、おそらく、ハイガルがまだ若いため、配慮しているのだろうが。
分かっていて、からかっていることを理解している魔王は、ため息をついて聞き流す。それにしても、機嫌が悪そうだ。
「なんかあった?」
と、白々しく聞いてみる。
「お前には関係のないことだ」
「ふーん。タマゴのことかなあと思ったんだけど、ま、いいや」
魔王の耳がぴくっと反応する。
「……なぜ、貴様がそのことを知っている」
「なぜって、聞かなくても分かるよね? 僕と君の仲なんだし」
「騙されぬぞ。貴様が知っているのは、あくまで、『世界のすべて』であって、『可能性のすべて』を知るのは、賢者であるレナだけのはずだ」
「その通り。ま、今回はちょっと、協力してくれる子たちがいてねえ。可能性の中でも、必然かもしれない事柄については把握してる。──なんかさ、こういうのって、僕たちにしか分からない話って感じがして、カッコよくない!?」
「そうか」
「露骨に興味なっ。……ま、でも、差分があるかもしれないし、一応、説明しておいてくれる?」
というわけで。魔王に説明させたことによると、最近、『さたたんのタマゴ』が盗まれたらしい。さたたんというのは、めちゃくちゃ強い人型モンスターで、人間と魔族との戦争の際に、戦力として活躍することが期待されていたとか。
「それが盗まれたってことか」
「そうだ。……それで、犯人は誰だ?」
「いやあ、誰だろうねえ?」
「貴様、ふざけるのも大概に──」
「まあまあ。あんまりしつこいと、時、戻すよ?」
喧嘩など、する必要がない。いざこざに発展しそうだと思えば、適当なところまで、時を戻せばいい。
すると、魔王は先ほどまでの怒りをすっかり忘れたように、物憂げな様子で頬杖をつく。
「むやみに時を戻すな」
「いいじゃん、別に。どうせ、そのうち死ぬんだからさ」
よくあるパターンだが、時を戻す代償は、使用者の命。簡単に言うと、使えば使うほど、寿命が縮まる。
「最後に一つ聞かせろ」
「ん、何?」
「盗んだのは、ハイガルか」
「──さあ? 僕みたいな一般人が知るわけないじゃん」
そう言い残して、僕はその場を後にした。
***
タマゴを盗んだのは確かに、ハイガルだ。だが、その目的までは分からない。まなならあるいは、と思わないでもないが、僕がタマゴのことを知っているというのは伏せておきたい。さて、どうしたものか。
「あかり、あかり。どうかした?」
寝ていたわけでもないのに、教室でまなに声をかけられる。その理由を考えて──周りが全員、すでに帰宅していることに気がつく。今日はいつもより人がいなくなるのが早いが、それには理由がある。
「いやあ、明日から夏休みじゃん? もう、宿題のこと考えてたら、なんも手につかなくなってさあ」
「そ。ハイガル、帰りましょう」
流された。でも、それでいい。
気がつくと、校門を出ていた。無意識でも、靴を履き替えて歩くことくらいはできるらしい。
「手でも繋ぐか?」
「迷子になんてならないわよ」
「繋ぎたいんだ。……ダメか?」
「ダメよ。あんた、あたしに触れてたら何も見えないんでしょ?」
「まなが守ってくれれば、問題はない」
「……別に、いいけど」
「ふっ、ちょろいな」
「なっ……!?」
ほんとにね、などと、内心でハイガルに同意していると、赤面するまなの手は、見えていないはずのハイガルに掴まれ、あっという間に恋人繋ぎにさせられる。
「なんで、指の間に指をいれるの?」
と、純粋なまなが問う。
「世間ではこれを、恋人繋ぎ、というらしい。ギルデに聞いた」
ギルデに聞いたとか言ってるけど、こいつ、絶対、最初から知ってただろ。こいつは間違いなく、変態の部類だ。そういうニオイがする。
ちなみに、まなは恋人、と聞いただけで顔を真っ赤にしていた。こっちもこっちでなんなんだよ。
「まな、ちょっと話したいことがあるんだが」
「え、何?」
「あかりが、邪魔なんだ」
「めちゃくちゃはっきり言うじゃん」
二人の邪魔というのもあるが、タマゴの話がしたいのだろう。この様子だと、盗聴も盗撮もできそうにない。しかも、ハイガルだしなあ……。
「あかり。いい話がある」
「え、何?」
なんの話だろう。今度はまったく、思い当たることがない。
そんな僕に、まなが思い出したように、ぱっと笑顔になる。──いつからこの子は、こんなに素直に表情を変えるようになったんだったか。
「この間、お見舞いに行ったときにね、エトスが、一度お見舞いに来い、って言ってたわよ」
エトス──僕の大嫌いな、アイのお兄さんだ。
「よかったな、許されて」
「許されてる気はしない」
「もう夏休みだし、今からでも行ってきたら?」
最終日は半日授業だったので、時刻はまだ真っ昼間。魔法で空を飛んでいけばあっという間だ。
「二人は来ないの?」
「今日はルーク──ハイガルの鳥がお父さんに呼び出されてるから、新幹線に乗らなきゃいけないの」
ふーん……ん!?
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