第2-4話

 監視カメラの映像に、右から数えても、左から数えても、三番目の指を立てながら、僕はことの成り行きを見守っていた。場所はハイガルの部屋だ。


『なんだ?』


 部屋に入り込んだまなに、ハイガルがそう尋ねる。


 ――正直、他人の告白盗み見するってどうなのって感じだけど、ま、気になるから仕方ないよね。許せ、ハイガル、まなちゃん。


 なんて、言い訳をしておく。


『あのね。あの、え、えっと……』


 まなちゃん、めちゃくちゃ緊張してるじゃん。あ、そっか。多分、初めてだもんね。僕も保育園で隣の席のふーちゃんに告白するとき、めちゃくちゃ緊張したなあ。ちなみに、三日で別れた。特に何かするってわけでもないし、これ別に付き合ってなくてもよくね? って思っちゃったんだよねえ。


『あ、あた、あたたし』


 あり得ないくらい声震えてるんだけど、大丈夫かなあ……。なんか、こっちが緊張するんだけど……。いつもの怖いものなしな態度はどうしたよ。


『深呼吸だ』


 ハイガルにそう言われて、まなはやっと呼吸を思い出す。落ち着いた瞬間を見計らったハイガルに両肩を掴まれて、無理やり正面を向かされる。


『それで、続きは?』


 ハイガルもハイガルで、続きを待つ気持ちが抑えきれていない。あまずっぺえ。


 そういえば、アイは初告白のとき、緊張とか、表に出さなかったなあ。ま、アイの場合は、王女だし、感情を隠すのに慣れてるから、っていうのもあるか。


『うん。あたし、ハイガルが…………』


 おっと、今度はそこでフリーズしたか。一回、練習させておくべきだったかなあ。ま、この様子だと、練習なんて役に立たなそうだけど。


『オレが?』

『ハイガルが、ががががが……』


 もう見てられないんだけど。共感性羞恥ってやつ。どうしたらいいこれ。乱入する? いや、邪魔しちゃダメだ。信じて待つしかないな……。


『そう焦るな』

『あせっ、ああ、あせってなんか――』

『じゃあ、噛まずに言えるな?』


 ドエスか。


『……言えるわよ』


 でも、まなちゃんの覚悟は決まったらしい。さすがだねえ。扱いが上手い。


『あたし、ハイガルが……好きなの』


 よく言った! 頑張った! どんどんパフパフー。


『え? 小さすぎて聞こえなかった』


 いや、鬼畜か。


『だ、だから、好きなの!』

『何が?』


 おい、顔がゲスいぞハイガル。絶対、告白されるって分かってたよな。で、聞こえたよな?


『あたしが、ハイガルを、好きだって言ってんの!!』


 ……まなちゃんも、頑張るねえ。健気すぎて、おじさん、泣けてきちゃう。


『そうムキになるな、ちゃんと聞こえてる』

『はあ!? 聞こえてんのに、な、な……』


 怒りで固まるまなちゃん。あーあ、怒られ――、


『悪かったな。かわいすぎて、つい』

『……にゃっ!?』


 そこで噛んじゃうのかあ。


『オレも好きだ』

『誰が?』


 やり返した、みたいな顔してるけど、引っかかったね、これは。まなちゃん、乙。


『――まなが』


 はい、言うと思ったあ。このタラシめ。


 そうして、僕は映像と音声を切った。


「あーもう、嫌だあ!! 僕もマナといちゃいちゃしたいー!! ……いや、そんなこと言ってる場合じゃないか」


 ハイガルと付き合った以上、彼氏になってまなの願いをもらう、というのが非常に難しくなった。まなに二股させたり、ハイガルから奪ったりすることも考えたが、真面目でぞっこんなまなに対して、それは非常に難しい。


 まあ、おそらく、数日後に、「あたしたちって、付き合ってるの?」「付き合うって、ちゃんと言ってなかったな、ふっ」「とぅんく……」みたいな一悶着があるとは思われるが、そんなことはどうでもいい。割り込む余地があれば話は別だが、そんな隙をハイガルが見せるとも思えない。


 願いの魔法はもちろん、本人の意思でしか使えない。となると、まなに「僕の願いを叶えたい」と思わせる必要がある。騙してもいいが、彼女の勘は侮れない。


 となれば、彼氏の次。一番大切なオトモダチ、を目指すしかない。だが、これは付き合うよりむしろ、ハードルが高い。なぜか。


 一度、告白しているにも関わらず、今さら、「僕は異性として君を意識していない」ということを印象づけなければならないからだ。非常に難しい。


 まあ、正直、本当に意識していない。だが、それが嘘だと気づいていても、告白された側は、そこそこ意識してしまうだろう。その上、まなは経験が少ない。つまり、免疫がない。


 また、友情というのは、関係の深さと、付き合いの長さで決まる。まれに、出会ってすぐに運命を感じた、今でも親友、なんていうのもあるが、まずない。


 短期決戦を狙うなら、関係を深めるしかないのだが、深い関係というのは、出来事によって決まってくる。


 大きな事件や出来事をともに乗り越えれば、絆も深まる。だが、現実に、そんなものはそうそう転がっていない。


「いや、待てよ――」


 ないなら、作ればいいじゃないか。

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