第13話 VS FURIDASHI ROUND1
央跡地。反転した今は零ノ国とも言える、大陸中央部に出没した『陸獣』。
名を「フリダシ」。
山の如く巨大な塊に浮かび上がるは、無数の眼。
「スウウウウウウゥゥゥゥゥゥ!!」
その一つ一つが開眼し、周りを囲む代表達一人一人を睨め付けた。
と、その瞬間。心臓が跳ねるような寒気が波紋状に広がり、代表達を襲った。
「「・・なんでだ」」
同時に口にするは、肆ノ国代表ポセイドゥンとハテスの二人。
彼らは「フリダシ」に攻め入るため、トライデントとバイデントをそれぞれ取り出そうとしたのだが、その手中には何も生まれなかったのだ。
程なくして、戸惑いの声は連鎖していった。
その理由は共通。才が発動しないのだ。
「スウウウゥゥゥ!!」
嘲るような「フリダシ」の鳴き声が、代表達の鼓膜を揺らす。
「フリダシ」の体に浮かび上がった無数の眼は、囲む人間達の才を封じたのであった。
「スウウウゥゥゥ!!」
次いで、無数の眼の隙間から黒く細い無数の腕が伸び、代表達に迫った。
「しまっ!」
才が発動しないなど、殆どの者が経験したことのない出来事。
それは国を代表する者達においても同じことであった。
「フリダシ」の体から伸びる無数の腕が、代表達の体を掴み、持ち上げる。
囚われた者達はどうにか逃れようと足掻くが、その力は腕の細さから想像できないほどに強く、思うようにいかない。
更に、無数の腕は「フリダシ」の体に戻るように段々と引いており、このまま行けば巨大な体内に呑まれてしまうと思われた。
「『ボイスリング』」
その声が聞こえると同時に、囚われていた代表達を浮遊感が包んだ。
「フリダシ」の細い腕が、突如発生したリングによって切断されたのだ。
「フリダシ」をすっぽり覆う程巨大な、透明なリング。
透明でありながら目に見えるそのリングの正体は、「音」であった。
それを生み出したのは、参ノ国代表ゲー・レ・マーチ。
盲目の彼は、「フリダシ」による、才を封じる効果を受けずに済んだのだ。
「『AI』」
続いて、「フリダシ」の上空に大きな一つの眼が開いた。
その瞳の出現に、「フリダシ」の体に浮かぶ無数の目が、揃って上を向く。
直後。無数の目は光を失い、睡魔に襲われたかのように、瞼を閉ざした。
巨大な一つ眼を生み出したのは、透灰七菜であった。
彼女もまた、マーチと同様の理由で才は無事だったのだ。
巨大な一つ眼の効力は、無効化。
七菜の才『コンパイル』は、「フリダシ」の才を無効化する能力を翻訳し、無効化したのだ。
無効化の無効化。「フリダシ」の才を封じる能力は、七菜の才によって封じられたわけだ。
「お手柄だな」
「・・いえ。力不足、でした」
地面に着地した六下の言葉に、七菜は歯痒そうにしている。
その理由は、周りの代表達を見れば一目瞭然であった。
「才は・・」
「戻ってない、な・・」
同じく着地したポセイドゥンとハテスが顔を見合わせる。
七菜が無効化できたのは、「フリダシ」の無数の眼に宿った能力。
その眼に犯された代表達の効力を打ち消すまでには及ばなかったのだ。
「おでたちもだべ・・」
「力が湧いてこないっぺな・・」
無事であれば大きな戦力になっていただろう海千兄弟の「矛」も、どうやら封じられたままのようだ。
「スウウウウウウゥゥゥゥゥゥ!!」
「フリダシ」が遠吠えを上げる。
それに伴い、巨大な塊のような「フリダシ」の体に、明確な変化があった。
まるで粘土を捏ねるようにして、姿形がみるみると変わっていくのだ。
出来上がったそれは、三種の生物を継ぎ接ぎしたようなモノであった。
脚は魚。色は青。
鱗で覆われた二足の脚部は、人魚や魚人を連想させる。
胴は人。色は紫。
分厚い胸板に、太い両腕。筋肉質な胴部はエネルギーに満ちている。
頭は龍。色は赤。
髪の毛の代わりに生えるは、龍。その数を百の龍達は、それぞれ意思を持ったように畝っている。
再構築され、浮かび上がった「フリダシ」のシルエットは、化物。
海・陸・空。
それぞれの支配者を掛け合わせた、最強の合成獣が、今ここに生まれ落ちた。
「おいおい・・」
「冗談だろ・・」
空を見上げ、ハテスとポセイドゥンが口にする。
姿形を変えた「フリダシ」の図体は、雲にかかるほど巨大であった。
空に開いた眼『AI』。七菜の才によって生み出された一つ眼にも、手を伸ばせば届きそうである。
その巨躯を見上げ、各国の代表達が共通して抱いた感情は、絶望であった。
先の陸獣戦の疲労が残る者も多い中、闘いの基となる才は封じられたまま。
振り出しに戻るどころか、ゴールが遥か遠くに。下手をすれば消滅してしまったような状況に、代表達の表情は一様に深く沈んだ。
「未知による恐怖と、未知による可能性。これが挑戦者の景色か」
突如耳に届いた声に、ハテスとポセイドゥンが右と左にそれぞれ顔を向ける。
「「セウズ!!」」
二人の間。いつの間にやらそこに姿を現したのは、肆ノ国代表将。絶対王者、セウズであった。
「お前、もう大丈夫なのか───」
声をかけるポセイドゥンを制すように、セウズが右手を伸ばす。
「今の俺に、お前達の安全を保証する余裕はない。全員退場願う」
伸ばした右手を体の前に運び、拳を握る。
次の瞬間。セウズを除いた各国の代表達は、全員一所に集められた。
「セウズ!」
突然の出来事に皆が困惑するなか、ハテスが叫ぶ。
その先には、「フリダシ」と一人向き合う、セウズの背中があった。
ゴゴゴゴゴゴ
地面から響く低い音。
迫り上がるようにして現れたのは、かつて「央」の街を囲んでいた城壁。
分厚く大きいその壁は、代表達の視界から、二つの最強の姿を断った。
───壁の外。
「遅くなって悪かったわね。皆」
代表達が集められた一所には、肆ノ国代表ユノの姿があった。
彼女は泣いていた。
涙の理由は、セウズ。ここに来る直前、ユノはセウズ相手に才を発動していた。
「ユノ様の決心を尊敬します」
ユノの背後でそんなことを言うのは、案内人肆ノ国代表担当ノーヤ。
ユノをここまで連れてきたのは、ノーヤを含む六人の案内人達であった。
セウズの過去に自分に向けられた負の感情があることを恐れ、なかなか才を発動する踏ん切りがつかなかったユノだが、案内人達の説得もあり『専知専能』を発した。
その結果、ユノが知ったセウズの過去。
そこにユノに対する負の感情は全くなかった。
あったのは正の感情のみ。
自分のことを敬愛してくれているユノに対し、セウズが抱いていたのは「感謝の念」それのみであった。
「私達の絶対王者が帰ってきた。これでもう安心よ」
対象の過去を知り、対象の才を能くすユノの才。『専知専能』。
これによりセウズの過去を知ることには成功したユノであったが、セウズの『全知全能』を完全に能くすことは叶わなかった。
手にした不完全な『全知全能』を駆使してユノが行ったのは、セウズの失われた「全知」の補完であった。
セウズの過去が詰まった「専知」を、不完全な「全能」を利用してセウズに渡すのだ。
ちなみにセウズとユノを隔てるように出現した城壁には、本来才を無効化する効果が付与されているのだが、上空に開いたままの『AI』によって、無効化されていた。
このおかげで、城壁を挟んで尚、セウズとユノの繋がりが切れることはなかった。
「セウズ様の晴れ舞台。及ばずながら、力添えさせて頂きます」
片目は開き、片目は閉じた状態のユノ。
閉ざされた方の瞳からは、ツーと一筋の涙が流れていた。
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