第41話 鬼怒川温泉旅行⑧ 余韻
「何だったんだ、あれ……」
気がつくと僕はいつの間にか着替え終わってロビーのソファーに深々と沈み込み、湯上がりの
――雪奈にキスされた。
「はぁっ……」
口づけの
「キスされたってことは……そういうこと、だよな……」
キスをする前、僕のことが嫌いじゃないのかと
「なら、普段の雪奈はツンデレなのか……?」
今までは反抗期か、それとも高校受験のストレスなのかと思っていたが、そう考えるとそれはそれで納得がいく……かもしれない。ただの照れ隠しなら可愛いものだ。実の兄妹の間での恋愛感情が認められるかどうかはともかく。
「もっと嫌悪感があるかと思ったけど――」
――意外とないな、というのが正直な感想だった。というか、少し前には澪奈とも一緒に入浴したし、僕の方こそどうかしてしまっているのかもしれない。
これから僕は雪奈にどう接すれば良いのだろう。『ごめん。やっぱり雪奈とは付き合えないよ』と言うべきか……いやいや、そもそも告白されたわけではないのだ。キスだって唇ではなく頬にされたのであって、ただの親愛の情を表すキスかもしれないじゃないか。
「取り敢えず、普通にするしかないか」
息を吐いて立ち上がり、僕は部屋に戻った。
雪奈も布団に入って、寝息をすやすやと立てている。
「……おやすみ、雪奈」
そう呟いて、僕は目を
明日のことは、きっと明日の自分が何とかしてくれるだろうと思いながら。
「んんっ……」
壁の向こうから聞こえてくる鳥の声に、意識が次第に目覚めてくる。
この部屋は一番安くて狭い部屋なので眺望すらないが、朝になったことくらいは一応分かるのだ。そろそろ起きるかと身を起こそうとして――。
「あれ……?」
右腕がやたら重い。
眠い目を擦りながら開けると、浴衣をはだけさせた澪奈が僕の右腕を
「ちょっ、おい澪奈、起きて」
「ん……あと十分……」
「まったくもう…………あ」
ふと反対側を振り向くと、こっちを見ていた雪奈とバッチリ目が合った。
お互いに一言も発さないまま時間が過ぎてゆく。き、気まずい。
「お、おはよう雪奈」
「う、うん」
「昨日は、その……よく寝れた?」
「それはもう、よーく寝れ……ふあぁ」
「はは、そうでもないみたいだけど」
「いっ、いやー、今のはたまたま、たまたまだからっ」
大きなあくびが出てしまい慌てている、まだ眠そうな雪奈。
……でも、こういう距離感こそが、きっと「仲の良い兄妹」なのだろう。まだ僕も全然分かっていないけれど、それはこれから慣れていけば良いはずだ。
「あらあら、二人とも朝から仲がよろしいようで」
いつの間にか起きてこちらを見下ろしていた結衣花さんに、そんな僕たちの姿をいきなりスマホで写真に撮られてしまった。
「うわっ、ちょっとその写真消して!?」
「やーだねっ」
***
……なーにが「これから慣れていけば良い」だ!
ホテルのすぐ近くでやっていた「鬼怒川ライン下り」という川下りの舟に四人で乗った僕はさっそく後悔していた。
「さぁ、ここから揺れますよ!」
「きゃぁああっ!」
「冷たーい!」
十数人をぎっしり乗せた小舟を巧みに操る
(しっかり掴まらないと危ないけど……でも……)
「ほら兄ちゃん、何やってるの。彼女の手をしっかり握らないと
僕たちのすぐ後ろの船尾に座っている青いハッピを着たおじさんに言われて、僕は慌てて雪奈の手を握った。傍では「彼女」と勘違いされた妹がアワアワしているが、今はやむを得ない。このぶんでは、雪奈との適切な距離感を見つけるのはまだまだ先になりそうだ。
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