7.仲直り
「ちゅーして黙らせて? よしよしぎゅっぎゅで、やーんキヨシくんだいしゅき~わたしが悪かったのぉ、とかなると思ってんの?」
「お、思ってない! 思ってない!」
「きっしょ! きしょいのは名前と中身のギャップだけにしてよ」
「俺のことはいい、親がくれた名前をディスるな!」
「ご両親は草葉の陰で泣いてるね」
「勝手に殺すなー!」
途中から、あれこいつ酔ってる? と気づきはしたものの、こうなると酒が入っていようがいまいが関係ない。
「もう顔も見たくないから二度と三平に来ないでよね」
「は? ふざけんな。俺だって常連だぞ。あそこの焼き鳥気に入ってるし」
「三平はわたしのもの!」
ええい、違う。三平を取り合ってどうする。このぐだぐだ、どう収拾をつければいいというのか。
とりあえず謝っとくか? オイタがバレてブランドもののバッグを買わされたあげく一年小遣いなしにされてるような連中を嘲り笑ってたこの俺が、女に向かって頭を垂れるのか? この俺が。
欲望と屈辱のはざまで揺れに揺れている俺の胸倉を掴んでアキが迫る。
「ほらほら、言いたいことがあるなら早く言いなさいよ。自分がどうしたいかもわからないの? だっさ。もう待ってらんないから、それじゃあサヨナラ元気でいてね」
なんかの歌のフレーズみたいに流暢に別れを告げ、アキが今度こそ俺から離れようとする。男には、決断しなければならない時がある!
俺はぎゅっとアキの左手を両手で握りしめた。
「……は? なに?」
「サヨナラしたくない」
「じゃあどうするの? よそ見はしない? わたしだけ?」
「ハイ」
「どぉだか、キヨシくんて信用できないもん」
「そんなことない、俺は……」
ひくひく引きつる口元を励まして言いなれないセリフを紡ぐ。
「アキのことが好きだから」
主にカラダが。
「……………………」
おい、なんだよその沈黙は。死んだ魚みたいな目は!? と思ったら、アキの口元がふにょんと緩んだ。俺の腰に両腕を回してぎゅっと抱き着いてくる。およ?
「もう、最初からそう言えばいいのに」
「……へ?」
「ううん、なんでも」
ちらっと俺を見上げたアキは、いつものカワイイ顔に戻っていた。
「えと。じゃあ、仲直りってことで」
「う、うん」
「わたしのお願い、ひとつだけ聞いてくれる? そしたら許してあげるから」
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