5.期待してない

 そもそも付き合うってどんなだ? カップルの定義ってなんだ?

 週末ごとに映画に行ったりドライブに行ったり? 女の誕生日に花やプレゼントをやったり? イベントやシーズンごとに旅行に行ったり?


 めんどくせぇ。今のままで十分俺とアキは楽しくやってる。今のままでいいってことじゃないのか?

 と、すぐさま思考をフリーズさせた俺だったが。




 部屋でテレビを見ながら飲み直しているとき、近くの観光施設が拡充し、新しいショップやスポットがオープンしたというニュースが流れた。

「県内初出店のレストランだって。美味しそう」

 アキのつぶやきに反応して、俺はつい言ってしまった。

「行ってみるか? 明日」

 俺の体にもたれてアタリメを噛んでいたアキは、頭を上げてまじまじと俺を見た。


「え、何」

「いや。こっちのセリフ」

「何が」

 アキの表情の意味がわからず少しイラっとする。するとアキはますます真顔になった。

「ふたりで一緒に行こうってことでしょ?」

「う、うん」

「やだよ」

「へ?」

「キヨシくんとこういうとこ行っても楽しくなさそうだもん」


 おい、ひでぇこと言うな、カワイイ顔して。二の句が継げなくなっている俺に抱きつきながらアキはふふんと笑った。

「キヨシくん、女の子に合わせるのキライでしょ?」

「……」

「そーゆー期待はしてないから気ぃ使わないで」


 なんだ、アキの方も用があるのはカラダなわけか。しっくりくるのと同時にモヤモヤもした。面と向かって「期待してない」とか、沽券にかかわらないか?




 そんなフクザツな気分になった数日後、合コンの数合わせに呼ばれた。いちばん割引のきく水曜の夜のことで、集まりが悪いのは当然だろうと鼻で笑いながら参加してやった。まあ、たまにはな。


「期待してない」のはもちろんだったが、意外にいい女がひとりいた。控えめなバストに、ピタっとしたジーンズのケツはぷりっと丸かった。ヒラヒラしたスカートの女どもより遥かにボイントが高い。


 グループのテーブルでコナをかけるようなことはせず、目配せを送っておいてから席を立つ。女も後から通路で待っている俺のところに来た。


 手早く連絡先を交換し、化粧室に向かう女を見送る。久々に新規ゲットだなあとスマホの画面を眺めていると、うしろからがしっと両肩を掴まれた。

 仲間に見られたか、と思ったものの。どうにも肩にかかった手の角度がおかしい。


「キヨシくぅん? 何やってるのかなあ?」

 ぎょっとして俺は首を曲げて振り返る。肩にぶら下がるようにしてギリギリと細い指を食い込ませていたのは、アキだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る