3.浮気
「おにいさんも無料クーポンにつられちゃったの?」
「うん、キミも?」
言ってから自分でムシズが走った。何が「キミ」だよ、キモ。
「アキって呼んで」
「へ?」
「ア、キ」
アキは俺は見つめながらはっきりと発音した。うお、いきなり下の名前か。脈アリか、脈アリなのか。
まだ一口しか飲んでいないのにぶおって頭に血がのぼった。間近で見るアキはそれだけ魅力的だった。薄いのにグロスでぽてっとなっているくちびるがたまらない。
「俺はキヨシ」
名乗ってからまた自分でダッサと思う。俺の中味と名前が合っていない。
「キヨシくんはワイン詳しい?」
「いいや、全然」
「わたしも。でも、ボジョレーヌーボーは嗜んでおかなきゃって。お祭りに弱いんだぁ」
「お祭りかあ」
確かに。周りはやたらハイテンションで乾杯の声があがり続けてる。ワインてこんなふうに嗜むものなのか? おのぼりさんの俺にはわからない。
ワイングラスを傾けて赤い液体をちろっと舐めたアキはふふっと眼を細めた。
「浮気してるの、バレちゃったね、お互い」
「……俺はこの店初めてだし」
三平にミサオを立ててるわけでもねえし。
「そ?」
スタンドテーブルにグラスを置いてアキはおもしろそうに笑った。
満席の店内は立ち飲みスペースまで混み合っていて、俺とアキは肩を寄せ合い話していた。
つっても、並んで立ってみるとアキは想像以上に小柄で俺の脇の下くらいに頭がある。フツウにVネックのセーターの隙間を覗き放題でやべえと思った。
そんな俺の肘を突っついてアキが言った。
「うるさいね。静かなとこ行こうか」
そ、それは。ふたりきりになれる場所へってことか!
なワケはなく、俺とアキは三平に移動してビールで乾杯していた。
「やっぱり、ここのが落ち着ける〜」
「アキちゃんてボン酒派じゃないの? いつも冷酒飲んでるイメージ」
「ひとりのときにはまったり飲むのか好きだからそういうチョイスになるんだよね。誰かと一緒に飲むなら断然ビール」
ニコリと笑ってアキは生中をあおった。のけぞった白い喉が波打って、鎖骨のくぼみまで俺は凝視してしまう。いわゆる水が溜まりそうなキレイな鎖骨だ。
スレンダー美人は鎖骨がキレイであり二の腕が細くてちっぱい、そして締まりがイイというのが俺の持論だ。
もやもやむずむずと落ち着かなくなる俺の隣で、アキは元気よくビールのお代わりをオーダーした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます