2.ちっぱい
アキとは駅前の居酒屋で知り合った。飲みたくなったときにおひとりさまでもふらりと立ち寄れる居酒屋というより焼き鳥屋で、仕事帰りに一杯ひっかけたいときには俺はいつもその店へと行っていた。
おひとりさまウェルカムな雰囲気とはいえ、女ひとりでポン酒をちびちびやっているアキの姿は目立っていた。
スレンダーな体つきが非常に好みで、だぼついたセーターの裾から手を滑り込ませブラのホックを外すところを想像するのが楽しかった。
あの胸元のゆるみは間違いない、Aカップだ。俺はAカップちゃんが好きなのだ。
だから店でアキを見かけるとウキウキしたし、酒がススむし妄想もはかどるというものだった。言葉を交わす前から彼女をオカズにしていても致し方ないのであった。
俺もたいがいおひとりさまだが、アキもいつもひとりでまったりと飲んでいた。スマホをいじるわけでもなく、雑誌を広げるわけでもなく。壁のお品書きへと目線をやりながら冷酒のグラスを傾け、焼き鳥をかじっていた。
そんなふうにひとりで行動する女というのも俺にとってはポイントが高い。女性たちには声を大にして言っておきたい。モテたかったら集団から離れろ。
女は集団になるとロクなことにならない。「カレシ欲しいな~」とのたまいつつ集団コンパにつるんで参加、なんて愚の骨頂だ。
本気で口説かれたいならひとりで街をぶらつけ。ロクデナシが必ず食いついてくるだろうから。あとのことは知らん。
ひとりで飲んでいるアキも当然ときおりは男たちに声をかけられていた。だが、もともといつも店に長居しないアキはサバサバと席を立ちたくみに誘いをかわしていた。ううむ。
俺も声をかけたかったが、焦りは禁物。本気の狩りには待ちの姿勢が必要なのだ。なんて、なかなかタイミングをはかれず勇気が出ないだけだったのだが。
いいんだ、オカズになってくれるならそれで十分さ。いや、本人にはとても今でも言えんことだが。
そんなある夜、それは去年のボジョレーヌーボーの解禁日だったのだが。
なぜそんなにはっきり覚えているかといえば、駅前でビラ配りにもらった解禁日限定の一杯無料クーポンにつられて、いつもだったら寄り付かないワインバーに足を運んでしまったからで。
そうでもなければ向かわなかったその場所で、俺はアキと顔を合わせたのである。
「あ」
思わず発してしまった俺の声に反応してアキがこっちを向き、パチリと目があった。
「あ。いつも三平にいるおにいさん」
三平というのがあの焼き鳥屋の名前で、それが店長の名前だったりするのだろうかという疑問はどうでもいい。
アキに覚えられていたことで、俺のボルテージは一気にはねあがったのだった。
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