第11話 July Blue

エリ、大学病院に行って、少しずつ婦人病の治療をしていたね。


僕も君の病気について、たくさん勉強したよ。


一ヶ月でたくさんの美しいものを見たね。


東京都写真美術館で、写真を。


ちひろ美術館で、絵画を。


横須賀美術館は、自然光が入っていて、とてもインスタ映えだったね。


僕たちがともに過ごした期間の中で、7月が一番元気だったね。



たくさんえっちもしたね。


エリは、イクとき、僕の手を握るようになった。


綺麗にネイルされた爪が、僕の左手に食い込む。


おかげで、僕の左手はいつも傷だらけだった。


でも、その傷を見るたび、手を洗って、しみるたび、


エリのことを思い出して、幸せな気持ちになっていた。


家に帰るのに、キスマークをつけて帰るわけにはいかないからね。



来月、お盆に旅行に行く。旅行代理店に申し込みに行ったとき、


エリは、お店の人に見られないように、僕の太ももを触っていた。


なんて大胆なんだ。僕は、いつもエリにドキドキさせられていた。


だけど、君の体重はついに、38、5kgまで落ちてしまった。


もはや、成人女性として、危険な水域まできてしまっている。


でも、君の精神は安定していた。


ブルーだったのは、僕の方だった。


衝撃的なエリの告白、あれからさらに君は、また僕に過去について語る。


昔、マリファナに手を出していたこと。


昔、二股をかけていたこと。


旦那と喧嘩したとき、包丁を持ち出して、心中しようと提案していたこと。


どれも、僕の価値観を超えていた。


僕は、子供過ぎたのかな。


僕で、彼女を受け止められるのかな。


僕が、彼女を幸せにできるのか。


僕は自分に自信が持てなくなっていたし、泣いてばかりいた。


仕事に行くとき、帰るとき、電車に乗っているとき、


僕はエリのことを想って涙ぐむ毎日を送っていた。


僕は、走った。毎日10kmは走った。


朝早く、夜遅く。走った。走ることが、僕の唯一の趣味だった。


走ることで、僕は僕を保っていた。


辛いことが目の前にあっても、走ることで、自分は強くなっていると、


自分を奮い立たせていた。


エリもそんな僕の真似をして、ランニングウエァを購入して、


一人で走るようになっていた。



エリの時間の感覚はおかしい。きっと精神的なことが影響しているのだが、


起きるのは10時、寝るのは、夜中の2時。


ご飯の準備は一時間かかるし、待ち合わせには平気で1時間、2時間遅れる。


僕は、そのことを一言も文句を言わない。


だけど、僕は、毎日5時には起きて、7時には会社にいる生活。


エリと会うと、睡眠時間は、3時間しかない。


仕事しながら、その睡眠不足は、正直辛い。


娘が赤ん坊だった頃の夜泣きのあの辛さに匹敵する。


だけど、相手は大人なのだ。


エリといる時間を僕は僕なりに大切にしている。


どんなに眠くても、先に寝ないようにしている。


エリの寝顔を見て、エリが眠るのを見ないと安心できない。


僕が眠っている間に、エリが何か間違った行動にでるかもしれないし、


エリの可愛い寝顔を見ていたかったから。


一度、ファミレスで食事をして、エリがトイレに行っている間に、


僕は居眠りをしてしまったことがあった。僕は本気謝った。


エリは全然怒っていない。だけど、僕は自分が許せなかった。


自分に厳しくしていないと、自制心を保っていられない気がした。



むしろ、追い詰められていたのは、僕の方かもしれない…。

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